第15話 ドラッグストアでの遭遇
オリエンテーションから数日が経過した。
驚くほどに平和な日々が続いていることに一抹の不安を覚える。
しかし、何かが起こることもなく時間だけが過ぎていく。
そもそも気にしなければ俺の人生は何も事件なんて起こらないのだ。水面下で俺以外の誰かが事件に巻き込まれているだけ。
「……オナホでタイムリープとか起こらないかな」
挿入という条件はクリアしてるんだけど。
けどあれって確か高校生では買えなかったかな。いや、ドラッグストアとかにも売ってるしいけるのか?
行ってみるか。
ということで休日。
近所のドラッグストアはリスクが高いので家から少し離れた場所にあるドラッグストアへと向かうことにした。
あんまり小遣いないけど、あれいくらくらいするんだろ……。
電車に揺られて数駅。特に何があるわけでもない普通の駅。こういう機会でなければ一生立ち寄ることはなかっただろう。
しかし田舎ということもなく、駅前にはカラオケや居酒屋、本屋なんかが並んでいる。
駅から少し歩くと商店街があり、その中にドラッグストアがある。マスクと帽子を装着しているので知人に気づかれることもないだろう。
まあ、こんなところで遭遇する知人なんか知れてるけどな。
店内をうろつき目的の品を探す。
店の一角にコンドームやローションと一緒に陳列されているオナホールを発見した。
完全にアダルトコーナーだな。
よくよく考えるとドンキホーテとかに行ったほうがいろいろよかったかもしれない。
まあ挿入できれば何でもいいんだけどな。
赤いボディに白のラインが入ったお馴染みのオナホを手にする。
実を言うと、俺はオナホを使ったことがない。
高校を卒業し、就職して早々に風俗にハマったので使う機会がなかったのだ。
風俗に行くまでは極力性処理したくなかったからな。
これ気持ちいいのか?
俺はそんな疑念を抱きながら、オナホを眺めていた。
すると。
「そんなじっと見てもオナホは女体化しないぞー?」
「うお!?」
後ろからポンと肩を叩かれる。
さすがに油断しきっていたので変な声が出てしまった。
フレンドリーさからして店員ではないだろうけど、じゃあ誰なんだよって感じである。
「……」
恐る恐る振り返ると、そこには金髪ロングのギャルがいた。
「高峰」
高峰円香。
通称、金髪ギャップ少女である。
俺の初体験の相手。
彼女を見ると、あの日のことを思い出してしまう。といっても、挿入後の記憶はないのだけれど。
「やっほ。こんなとこで会うなんて奇遇だね。もしかしてアタシに会いに来てくれたのかな?」
からかうように言ってくる。
もちろん「そんなわけない」と俺は即座に否定した。
すると、彼女はどうにも不満げな顔をする。
「なにさ、冷たいなあ」
「そっちこそ、こんな何もないとこでなにしてんの?」
「何もないは失礼だな。ここ、アタシの地元なんだけど」
「え、そうなの?」
はえー。
気づかなかった。
でも確かに言われてみるといつも高峰が電車に乗り込んでくるくらいの駅か。
「そだよ。ちなみに今は買い物中」
……気まずいな。
俺、これからオナホ買おうと思ってるんだけど。ていうか、オナホ眺めてるとこ思いっきり見られたし。
「そっちは?」
「……まあ、買い物かな」
これワンチャン誤魔化せるか?
オナホは何となく興味本位で手にしただけという雰囲気醸し出せばいけるか?
そうだな。
適当に頭痛薬買いに来たとか言っておこう。
うん、我ながらナイスアイデアだ。
「オナホ?」
「いや、これは興味本位というか。ホントに気持ちいいのかなーみたいな?」
「さあ、どうなんだろね。ホンモノに比べりゃ劣ることは間違いないでしょ」
ご尤もなことを言いやがる。
「そりゃそうだ。容易にセックスできない非モテ男の味方だからな」
「そーそー。つまり、あんたには縁のないモノだよ」
「は? 何言ってんだよ、バリバリ縁あるっつーの。縁ありすぎて運命感じるレベルだよ」
俺が反論すると、高峰はやれやれと首を振りながら俺の肩に手をポンと置く。
「言ってくれれば、アタシはいつでも相手したげるよ?」
耳元で、囁くように言われて俺は咄嗟に彼女との距離を取る。
「お前、本気か?」
「冗談で言うと思う?」
真面目な顔してそう言うが、
「言いそうだなとは思う」
俺はそう返してしまう。
すると、高峰はおかしそうに笑い出す。
「あはは、まあ、何でもいいけどね。それで? そんなんで適当に処理するか、アタシと楽しいことするか、どっちがいい?」
冗談ではなさそうだ。
そりゃ相手してくれるなら本望だけど。
単なるセックス好きか?
そういえば、ホテルの受付もそうだけど行為においていろいろと手慣れていたっけ。
そして、処女でもなかった。
いろいろと割り切って、そういうことを楽しめるタイプの女なのかも。
「そういうことなら断る理由はないだろ」
「そうこなくちゃ」
高峰はニタリと笑う。
その笑みがどこか妖艶さを纏っていて、俺は自分の心臓が跳ねるのを感じた。
そうと決まればオナホに用はない。
試してみたい気持ちはあったけど、今じゃなくてもよさそうだ。
ということで棚に戻す。
俺が棚の前から引くと、高峰は棚からコンドームの箱を手に取る。しかも複数箱。
「え、なんで」
「え、生でしたいの?」
「いや、そうじゃないけど。ゴムはホテルにあるくない? ていうか、そんないる?」
俺の精子枯れるぞ。
「あー、違う違う。これはあっち用だよ」
「あっち用……あっち用?」
え、なに?
当たり前のように言ってくるけど、俺はそれ存じ上げてないんですけど?
多分、彼女の秘密についてなんだろうけど。
俺が知ってるはずの知らない事実。あの日教えてもらったであろう彼女の秘密。
しかし、その頃には俺は未来に戻っていたし、記憶には残っていないので結局分からず仕舞いの例のアレ。
「そ。男ってなんであんなにお盛んなんだろね。ヤッてもヤッても終わらない。愉しくはないよね」
「……はあ」
今流行りのパパ活かな?
いや、この時代では流行ってないか。存在はしていてもそんな名前では呼ばれていない。
やんわりとした言葉としてパパ活という名前が使われているが、あれも大きな括りでいうならば援交と相違ない。
つまり。
彼女は援交してるってことか?
セックスが好きだから?
そんな理由で知らないオッサンと体を重ねるのか? 正直、まだそこまで高峰円香について詳しくは知らないけど、そういうふうにも見えないんだよな。
何か理由でもあるのか。
あるいは、無意識のうちに俺がそう思っているだけなのかも。本当はただのどすけべさんという……。
いや、それはなさそうだ。
曇った表情がそれを否定していた。
「だからさ、今日は思いっきり愉しませてよ」
にっと笑う彼女の笑顔は本物だ。
何を抱えているのかは考えるまい。彼女には彼女の事情があるだろうから。
少なくとも、今踏み込むことではないだろう。
俺は俺の抱えているものの為に動くだけだ。
できるだけのことはした。
未来がどう変わったのか、確認しに戻ろうじゃないか。
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