第14話 一件落着?
「大丈夫だった!?」
連絡を取り合い、俺達は絢瀬さんと安東と合流を果たす。
大関さんにあった災難についての最低限の説明は電話でしていたので、絢瀬さんはさぞかし心配したことだろう。
「……」
俺としては、絢瀬さんと安東との間に何もなかったかが心配だ。
そう思いながら安東の方を見るとガッツリ目が合った。
「何だよ?」
「いや、何でも」
俺がドモる声で返すと安東がおかしそうに笑う。
「安心しろよ、今回は何もしてないぜ」
「……何も訊いてないけど」
「バレバレだぜ、分かりやすいったらねェ」
「……」
そんなに分かりやすいのか?
気をつけよう。
「お前とあの女がやろうとしていたことは分かってた。まァ、あの程度なら何てことはなかったが」
そうだな。
俺と大関さんの繰り出す邪魔をことごとくすり抜けやがったからな。
「チョロいもんだと思っていたが、絢瀬の方がガード固くて驚いたよ。グイグイ行けば落ちると思ったんだけどなァ」
「明らかに迷惑そうな顔をしていたが?」
「あんなもん関係ねェよ。本気の拒絶はもっとしっかりしてくるだろォからな」
まあ。
確かにな。
俺も何度も本気の拒絶を受けたことがあるが、あれはもう近付くことさえ許されない空気がある。
その点、絢瀬さんはまだそこには達していなかった。安東からすれば、あれは拒絶ですらないのか。
恐るべきチャラ男。
「ま、諦めるつもりはないけどな」
「は、は?」
「見ろよ、あの体」
大関さんといる絢瀬さんを見ながら安東が言う。
スタイルはいい。モデルのような体型であることは確かだ。
「無茶苦茶にしてやりてェんだよ」
「……絢瀬さんが望んでなかったとしてもか?」
「最初に望んでいるかどうかはさしたる問題じゃねェよ。結果、満足してるならいいだろ」
「そうは思わないけど」
その価値観が、絢瀬さんを歪めてしまったのだろう。
少しくらい嫌がっていても無理矢理に襲いかかりそうだ。きっとコイツは自分のテクニックに自信があるんだ。
だから、満足させられると確信している。
性の悦びを知らないお嬢様がそれを知れば、何もかもが変わる。
エロ漫画とかで見る展開だけど、実際に起こるものだろうか。
「お前の意見なんか関係ねェよ。ホントは今日にでも落としてやろうと思ってたんだが運がなかった」
安東は最後に「まァ、チャンスなんていくらでもあるから焦ることもないけどなァ」とだけ言い残し、勝手に帰っていった。
いや、まだオリエンテーション終わってませんけど?
そういう空気でもなくなったけど勝手に帰るその自由さ何なんだよ。
不良だし、出席日数とか成績とか気にしないんだろうか。
しかし。
ともあれ。
安東の言葉からすると、本当に今日は何もなかったのだろう。
そして、本来であれば今日のうちに行動を起こすつもりでいたっぽい。
つまり、俺と大関さんが何かしらをしていなければ絢瀬さんは襲われていた? そういうことなのか。
結果論でしかないけど、大関さんと手を組んだことは正しかったのか。そもそも、このグループになったことも大きかった。
こんな言い方は何だけど、大関さんに起こった一件もこの結果に繋がる一つだったのかもしれない。
結局、俺は何もしていないし、成し遂げてはいないが、安東の目論見は阻止できたということだ。
「……未来は変わっただろうか」
早く戻りたいところだけど、そう簡単に戻れないのがネックだよな。
大人だったら挿入有りのソープランドにでも行けば簡単にタイムリープできるけど、こっちから未来に戻るのは難しい。
一度体を重ねた高峰円香ならばあるいは二回目もあるかもしれないけど、そんなタイムマシンみたいな扱いはしたくないし。
それを考えないといけないのか。
「佐古くん!」
そんなことを考えていると絢瀬さんに呼ばれる。俺は顔を上げて二人のところへ向かった。
「私、先生にこのこと伝えてくるからここで待っててもらえる?」
「あ、うん」
「あれ、安東くんは?」
「……帰ったと思うよ」
「帰ったの?」
驚く絢瀬さん。
そりゃ驚くよな。
とはいえ、帰った以上どうすることもできないので諦めた様子の絢瀬さんは先生に電話をかけに少し離れる。
「……もう大丈夫? 大関さん」
「……」
俺が振り返ると、彼女は何だか不機嫌そうにこちはを睨んでいた。
恩を売るつもりはないけど、これでも一応恩人的なポジションなんだし、ちょっとくらい好感度上がっててもよくない?
なんで名前呼んで不機嫌になるの?
「私、大関って名字が嫌いなの」
「へ?」
突然どうしたんだろう。
「小学生のときはこの名字のせいでお相撲さんだとか言われてバカにされたわ。主に男子にね」
ギロリと俺を睨みながら言う。
そんなこと言われましても。バカにしたのは俺じゃないし。
「小学生は面白いこと思いつくね」
「……その頃、ちょっとだけ太ってたのもあってね」
なるほど。
しかし、どうして突然昔話を始めたんだろう。
「えっと、それで?」
つまりどういうことだってばよ? と俺が話を戻すと、大関さんがもどかしそうに頭を掻く。
「名字を呼ばないで!」
「ええー」
顔を赤くしてそんなことを言う大関さん。それほどまでに憤りを覚えているということか?
「それはつまりもう関わるな的なことですかね?」
未遂とはいえレイプされそうな現場を目撃してしまったわけだし、そんな恥ずかしい姿を見られた奴とは関わりたくないってことか?
「そうじゃなくて、その、だから……」
「?」
俺は眉をしかめる。
何が言いたいんだろう。
「ああ、もう! 察し悪すぎ! だからモテないんだよアホ!」
「ええ!?」
なぜ怒られた?
「奏って呼べっつってんの」
「……言ってないような」
「あ゛あ゛?」
「あ、いや、呼ばせていただきます」
これはあれか。
グッドエンドってやつか。
奏と呼ばれることをあれだけ嫌がっていた彼女が、それを認めてくれた。
名字で呼ばれるのが嫌いとか、小学生のときにバカにされたとか、全部本当なんだろうけど。
そういう理由を話して、名前で呼ぶことを認めてもらえるくらいには好感度上がったってことか。
「どうかした?」
そんなことを話していると電話を済ました絢瀬さんが戻ってきた。
「別に」
すっといつもの調子に戻る大関……奏さんはさすがだな。
「?」
そんな俺達を見て、絢瀬さんは首を傾げるだけだった。
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