第13話 今の自分にできること


 タイムリープなんて摩訶不思議な現象が起きてるんだから、魔法の一つでも使えればいいのに。


 そうすれば、こんな問題簡単に解決できたんだけど……。


 いや。

 そんなファンタジーなことに頼るなんて二十六歳のすることじゃないな、うん。


 するならせめて後悔か。

 格闘技でも習っておけばタイムリープで無双という展開があったかもしれないのに。


 俺が未来から持ってきたスキルはせいぜいベッドの上で女の子を悦ばせる技術くらいだ。

 こんなとこで役に立つことはない。


 あとは、まあ知恵ってとこか?


 頭はよくなかったけど、こうして冷静に考えることができているのは年齢を重ねたからかもしれないな。


 そして、考えに考えれば愚策かもしれないが何か一つくらい思い浮かぶものだ。


「……上手くいけばいいんだけど」


 俺はバレないように小さく深呼吸をした。


 上手くいけば解決できるが、失敗したらバッドエンドまっしぐらだろうな。

 俺はあいつらにボコボコにされ、大関さんは犯されるに違いない。


 でも、今の俺にできるのはこれくらいだし、やるしかない。


 俺一人では何もできない。


 ならば、人を頼るしかない。


 すう、と俺は大きく息を吸う。


「こっちです! 早く来てください!」


 俺は自分の出せる限りなく大きな声で叫ぶ。


 相手の様子を伺っている余裕はない。追い打ちをかけるようにさらに続ける。


「女の子が襲われてます! 警察の人なんだからもっと早く走れるでしょ!」


 そう。


 俺は警察に頼ったのだ。


 ただ、ここにはいないし来る予定もない、幻影の警察だが。


 俺が創り出すというよりは、俺の声を聞いて男達が創り出してくれれば言うことなしである。


 さて。


 そろそろか。


 俺は意を決して物陰から出て広場へと向かう。


「…………はあ」


 そこにいたのは、半裸の大関さん一人だけ。


 どうやら男三人は逃げてくれたらしい。


「大丈夫?」


 近づきながら訊いてみるが返事がない。まさか死んだりしてないよな?

 なんてことを思いながら彼女を見ると口の中に布を入れられて声が出せないようにされていた。


 俺を見た大関さんはボロボロと涙を流しながら何かを訴えかけてきている。

 その口の中の布を取り出してあげる。


「……っぷは」


「大丈夫?」


「……あ、あり、がと」


 そのまま手を縛っていたものを解いて自由にしてあげる。

 残念ながら上の服はその辺に捨てられており、破られていてもう一度着ることはできなさそうだった。


「これでも何も着ないよりはいいと思うよ」


 俺は自分が着ていたパーカーを脱いで大関さんに渡す。いつもの調子なら「あんたの脱いだ服なんて着れるわけないでしょ」とか言ってきそうなものだけど、


「……ありがと」


 と、しおらしく言うもんだから調子が狂う。


「それ着たらさっさとここ離れよ。戻ってこられたら困るし」


「うん。その前に、それ返してもらっていい?」


 パーカーを着て前のチャックを閉めた大関さんがスカートを手で抑え、変にもじもじしながら言う。


「それ?」


「その布」


 俺が持っている布を指さしてくる。これはさっきまで大関さんの口に詰められていたものだが、なんなんだ?


「なんなの、これ」


「あ、ちょっ、ダメ!」


 ハンカチか何かだろうか、と俺は興味本位でその布を開く。そして、その正体を知り、慌ててこちらに駆け寄ってきた大関さんに返した。


「……ごめんなさい」


 パンツだった。



 それから、その場を退散した俺達はとりあえず出来るだけ離れた場所へ逃げた。


 そこら辺にいるとさっきの男達と遭遇する恐れがある。できることなら電車に乗って移動したかったが、ここにはまだ絢瀬さんがいるはずだ。


 彼女を探すという目的は達成できなかったが。


 駅前の広場にまで戻ってきた。

 ここならば周りに人がいるから、最悪見つかっても何かされたりはしないはずだ。


 ベンチに座る大関さんを見て、俺は頭を掻きながら周りを見渡す。

 

「結局、絢瀬さんは見つからなかったか」


「……ごめんなさい」


 しゅんとした態度の大関さんに俺の調子は狂うばかりだ。


「どうしてあんなことになったんだ?」


 だいたいの予想はつくけど。

 

「紗理奈を探そうとしたらあいつらが声かけてきて、ウザいからどっか行ってって言ったら怒っちゃって」


「大関さんは女の子なんだし、あんまり、その……強く言わない方がいいっていうか」


 何と言えばいいのか、上手く言葉が出てこない。しかし、俺の言いたいことは大関さんに伝わったようだ。

 それはきっと、彼女自身も思っていたからだろう。


「……そうね。腕力じゃ勝てないし、掴まれたら抵抗できないことも分かってた。でも、やっぱり男は嫌いだし、そんな奴らに腕を掴まれたら、私達は吠えることしかできない」


「……まあ」


 男達も最初から襲おうとしていたわけじゃないだろうから、大関さんの出方次第ではこんなことにはならなかっただろう。


 彼女の男嫌いは、絢瀬さんを奪われるという理由から来ているものだと思っていたけど、そうでもないのか?


「あんたが来てくれなかったらって考えると、ほんとにゾッとする」


 言いながら、大関さんは立ち上がる。そして、俺の前までやってきて頭を下げた。


「ありがと」


 素直にお礼を言ってくるとは思ってなかったので俺は言葉を詰まらせる。


「あ、いや」


「……ちゃんとお礼はするから」


「気にしないでいいけどね。ほら、同じグループとして当然のことをしただけだし」


 俺がそんなことを言っていると、大関さんの携帯の着信音が鳴った。彼女は慌ててメールを確認する。

 あの慌てようからするに、相手は絢瀬さんかな。


「今どこにいるの、だって」


「……連絡がついたってことは合流できるってことだね」


 大関さんはメールの返信を送る。

 そのあとすぐに電話がかかってきて、通話をしながら俺達は合流することとなった。


 問題はこの間に何かあったかどうかだけど、それは合流しないと分からないことだな。

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