第12話 予想外のピンチ
安東圭介はやはり手強かった。
結論から言うと、俺と大関さんの二人がかりでも止めることはできず、こちらの隙を突いては絢瀬さんに絡みに行くを繰り返した。
絢瀬さんは絢瀬さんで複雑そうな顔をしつつも、その優しさから拒絶することはなく安東に付き合う。
安東はそれを察しながらもグイグイ行きやがる。
「この役立たず」
「……そう言われても」
幾つかのチェックポイントを回り、次なる場所へ向かっていた俺達。
大関さんのぼそりと呟く毒に返す言葉はなかった。
「俺と安東とじゃ踏んできた場数が違うし」
「そんなもん気合いで何とかしなさいよ」
無茶苦茶言いやがる。
そもそも安東は怖いんだよ。
絢瀬さんだって困っている顔はしている。声を大にして断ることはできないまでも彼女なりの拒絶を見せている。
考えてみれば、そんなリアクションをしている絢瀬さんが安東にポジティブな感情を抱くだろうか?
どれだけグイグイ行こうともマイナスな方向にしか働かないのでは?
「あれ」
俺が考え込んでいると、隣を歩いていた大関さんが呟く。どうしたのかと顔を上げると何やら焦った顔をしている。
「どうかした?」
「紗理奈がいない。あのクソ野郎も」
「え」
言われて周りを確認すると、確かに二人の姿が見えない。
さっきまでと比べて人の通りも多くなり、見つけづらくなっているのもあり、完全に見失った。
「ホントだ」
「ホントだ、じゃねえよ! さっさと探せこのノロマ!」
大関さんがキレ気味に俺のケツを蹴る。そんなことしなくてもいいのに。
今の時代、暴力系ヒロインは受け入れられないぞ? まあ、この時代ならば全盛期かもしれんが。
「……電話にも出ない」
大関さんは何度もコールしながらより一層焦りを見せる。
果たして、これは偶然かあるいは故意か。
人が多くなったから普通にはぐれたというパターンもないことはない。
逆にその状況を利用し、二人きりになろうと企んだ可能性もある。何ならそっちのがあり得る。
だとしたら、何されるか分からない。
「まだ遠くへは行ってないはずだから探そう」
「当たり前だボケ! あんたはあっち探せ! 私はこっち行くから!」
「うす」
散々なオリエンテーションだ。
思い出作りと友達作りが目的なのだとすると何も達成できていない。
その上、本来の目的さえも達成できなければ俺は何のためにここにいるのか分からない。
何とかして見つけないと。
「……あれ」
絢瀬さんを探すことに意識が行き過ぎてあんまり考えてなかったけど、大関さんと離れるのも良くないのでは?
もちろん大関さんの連絡先なんて知らない。つまり合流しても連絡は取れない。
状況が悪化しただけじゃん。
せめて連絡先だけでも教えてもらっておいた方がいいな。うん、今ならまだ間に合うから一旦戻ろう。
一発くらい蹴られることは覚悟しよう。何と言っても、俺は大人だから。
「……はぁ、はぁ、この辺だと思うんだけど」
来た道を戻り、大関さんが向かったであろう方向に進む。しかし彼女の姿は見当たらない。
人の多さが厄介だ。
人避けの魔術でも使えればいいのに……なんて、現実味のないことを考えても仕方ない。
とにかく走ろう。
俺は深呼吸をして先へ向かう。
そのときだ。
「放せっつってんだろクソ!」
どこかから、聞き覚えのある高めの怒声が聞こえてきた。あの声とセリフは間違いなく大関さんだ。
もう嫌な予感しかしない。
確実に厄介事に巻き込まれてるじゃん。
とはいえ放ってわけにもいかず、俺は声のした方へ向かう。
「やめろ! 放せ! ……っ、やめてよ!」
こんな声がしているというのに、行き交う人々は見向きもしない。
言ってしまえば赤の他人だ。俺だってきっと見て見ぬフリをするだろうから勝手な言い分になるが、冷たい奴らだ。
強気だった大関さんの声は段々と弱くなり、僅かに震えていたことから彼女の怯えが伺える。
レイプでもされてんのかと言いたくなるようなセリフだが、さすがにそんなことはないだろう。
日中の、しかもこんな人通りの多い場所でそんな犯罪を実行するのはやんちゃすぎる。
「……こっちだよな」
大関さんの声が聞こえなくなったことに、俺の中の不安が膨れ上がる。まじで何が起こったんだ?
さっきまで聞こえていた声だけを頼りに探していたが、なかなか見当たらない。
「……まさかな」
俺は建物と建物の間にある通路に視線を向ける。こんなところを進んだ先にいたのだとしたら、もう本当に事件が起こっている可能性がある。
ごくり、といつの間にか溜まっていた生唾を飲み込んで、俺はその隙間に入っていく。
少し進むと男の声が聞こえてきた。
「さっきまでの威勢はどうしたのかなー?」
「涙なんか流しちゃって、かわいいね」
「これから何されるか分かる?」
少なくとも三人。
一つ確かなのはこっちの方向で合っているということか。
それと、恐らくだけど俺一人では救けられないだろうということ。
「……」
進んでいくと、ゴミ置き場なのか広場が見えた。俺は物陰からそこの様子を覗き見る。
「う、う」
涙を流しながら俯く大関さんの姿があった。
しっかり服が剥かれている。
男の数は三人。
どなたもやんちゃな風貌で確実に俺よりも喧嘩が強いだろう。タイマン勝負にしてもらっても勝てる気がしない。
しかし。
もちろん、彼女を放って逃げるわけにもいかない。
助けを呼ぼうにも、すぐにでも助けないと大関さんが襲われる可能性がある。
こんなところで男三人に輪姦されたらトラウマもんだろう。
「……どうしよ」
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