第9話 グループ決め
「グループ決めはくじ引きで決めることになりました」
その日の六時間目のホームルーム。
オリエンテーションのグループ決めが行われていた。
てっきり話し合いで決まるものだとばかり思っていたので、これには拍子抜けだ。
俺のような友達がいない人間からすれば悪くない提案である。ましてや絢瀬さんが安東と同じグループになることを阻止するという目標があるのだから尚の事。
話し合いだと安東から声をかけていた可能性はあるし、絢瀬と安東なので出席番号順でも詰んでいた。
そういう意味では、俺からすればくじ引きというランダム要素は有り難い。
理想を言えば安東と離しつつ俺が絢瀬さんと同じグループになりたかったが、どうせその方向に向かう為のアプローチはできなかっただろう。
絢瀬さんと安東を離すことができれば十分だし、くじ引きならばその可能性は非常に高い。
ミッションコンプリートしたようなもんだ。
とはいえ。
クラスの友達がいる連中はその案に否定的だった。そりゃそうだ。しかし『普段話さない人とコミュニケーションを取る』というコンセプトがあるらしく、くじ引きという方法が覆ることはなかった。
「まずは男女に分かれてくじを引きます」
教卓に立つ男女の学級委員が袋を持って左右に分かれる。男子と女子はそれぞれの方に集まった。
どうやらペアは二人か三人らしい。
どうせ組まされるなら如月がいいけど、運の要素しかないので厳しいだろうな。
多くは望むまい。
達成すべき目標はただ一つだけだ。
「ほら」
俺の番だ。
適当に袋の中にある紙を取る。
中に書いてある数字が同じ生徒とペアを組むらしい。
俺は手に取った紙を開く。そこには『3』の番号が書かれていた。
こういうときに「3番引いた人だれー?」と躊躇いなく言える性格だったら友達一〇〇人できてたのかな。
「あァ、なンだオタク野郎かよ」
後ろから声がした。
嫌な予感がふつふつと込み上げてくるが、勘違いであることを信じてゆっくりと振り返る。
そこにいたのは安東圭介だ。
しかも。
「……チッ、だから嫌だったんだよ、くじ引きは」
手にある紙には『3』の番号。
最悪だよ。
当日休むしかないじゃん。
だってあっちが全く仲良くするつもりないんだもん。
誰かと変わってもらおうかと第一に考えたけど、その提案ができるだけのコミュ力は持ち合わせていない。
コミュ力ないって不便すぎるだろ。
いや、そもそも安東と組みたがる奴が残念ながらこのクラスにいない。
「よ、よろしく」
俺は一応挨拶だけしたが、安東は舌打ちを返してきた。なんだコイツ人として終わってんな。
絢瀬さん、こんな奴と付き合ったの?
男選びのセンス皆無じゃね?
「決まったようなら、次は男女のペアを作ります」
代表がくじ引きを行い、先程と同様に同じ番号のペアとグループを組むということらしい。
ちらと安東の様子を伺うと、舌打ちしながら「お前が行ってこい」と言ってきた。
それが人にモノを頼む態度か。
もちろんそんなことは言えないので「わ、わかった」とドモリながら応えて教卓に向かう。
この時点で当日の楽しみは全くないのでもはやグループなんてどうでも良かった。
せめて絢瀬さんとは離れられればいいんだけど。
「あ、佐古くん3番? 私もだよー」
神様というのは残酷だ。
どうして最悪な方向に物事を持っていこうとするんだよ。
ただグループを離してくれればそれで良かったのに。
絢瀬さんでなければ誰だってよかったんだ。
「よ、よろしく」
俺は引きつった笑いを見せることしかできなかった。
「へえ、絢瀬さんが同じグループなんだ。やるじゃん、オタク」
無理やり肩を組んできた安東がニタリと嫌な笑みを俺に向けてきた。
そのあとすぐに絢瀬さんの方に顔を向けたのだが、その際の切り替えが敵ながら素晴らしかった。
女に向ける偽りの笑顔。
俺に向けてきたものが本心であるならば、それはそう言うことができるだろう。
「それじゃあそのままグループで集まって細かいこと決めていって!」
学級委員の指示により、俺達は集まり机をくっつける。
安東はナチュラルに絢瀬さんの隣に座りに行く。俺が躊躇いそうなことを臆することなくしやがって。
「なにあいつ」
そのとき。
俺の後ろでぼそりと呟く声がした。
振り返ると、そこにはすごくつまらなさそうに絢瀬さんと安東を見る女子生徒の姿があった。
名前は……忘れた。
黒髪のショートボブ。肌はそれなりに健康的に焼けている。胸はほぼほぼぺったんこ。
その分スリムなスタイルは目立つが。
確か絢瀬さんの友達だったはずだ。一緒にいるところを見たことがある。
運良く同じグループになったのか?
「えっと」
「なに?」
俺が言葉を詰まらせていると、うざったそうに睨んでくる。どうしてそう敵意を剥き出しにしてくるんですかね。
ただでさえコミュ力ないんだから、そんな拒絶されると話しかける勇気なくすじゃねえか。
「いや、なんでも」
俺が言うと、その女子生徒はフンと鼻を鳴らして俺の隣に座った。
絢瀬さんの隣を取られたので必然的にそこに座るしかないのは分かるけど、そんなに嫌そうにしなくてもよくない?
俺だって傷つくんだよ?
「あいつ、紗理奈のこと狙ってるの?」
視線は前の二人に向けたまま、その女子生徒は小声で俺に言ってくる。
「さ、さあ。でも見た感じはそんな気もするね」
俺も無難に返す。
「使えない男」
チッと舌打ちされる。
今日はよく舌打ちされる日だな。なんかもう慣れてきてしまった。
「さて、決めること決めちゃおっか!」
そう言って仕切るのは絢瀬さんだ。
どうやらうちのグループは俺、絢瀬さん、安東、謎の女子生徒の四人らしい。
そういえばオリエンテーションって何するんだろう。
なにぶん、昔の出来事すぎて記憶にない。そもそも参加した覚えもない。
嫌すぎて参加してなかった可能性も微レ存。
ここで「オリエンテーションって何するの?」と言いたいのだが、切り出すことができない。
まあ、話の流れで分かるだろ。
「ルートは何通りか決められてるみたいだから、どのルートにするかってところなんだよね」
ルート?
「俺はドコでもいいよ」
絢瀬さんの隣でご機嫌な様子の安東。それに頷いた絢瀬さんがこちらを向く。
「佐古くんは?」
「お、俺もなんでもいいかな」
絢瀬さんが持ってる紙を覗き見ようとしたが上手く見れない。
しかし、俺の不審な行動の意図を察した絢瀬さんが紙を見せてくれた。
「どうぞ」
「あ、ども」
見てみると、ここ周辺の場所が繋げられたルートが何通りか書かれていた。
ああ、思い出した。
スタンプラリーだ。
一年生のときは校内オリエンテーションで、二年生になると校外スタンプラリーになるんだ。
三年生はバーベキューだったかな。とりあえず肉焼きたがるからな、リア充は。
そしてもう一つ思い出したけど、俺は二年生のオリエンテーションは不参加だった。
つまり未知なるイベントである。
「オレにも見せろよ」
「あ、うん」
安東に紙を取られる。
ぶっちゃけどこでもいいから任せよう。
「奏は?」
「何でもいいわ」
「……みんなそればっかり」
絢瀬さんか困った顔を浮かべると、安東が意見する。誰もそのルートを否定しなかったのでそこに決まった。
まあ、否定意見を出すと「じゃあ何がいいんだよ」って言われるだけだからな。言うメリットがない。
そもそも、こんなグループになってしまった以上、ルートなんかどうだっていい。
「……」
いやに楽しそうな安東が気になった。
ふと隣を見てみると、奏と呼ばれた謎の女子生徒も似たような視線を安東に向けている。
思えば最初から安東にも敵意を向けていたっけ。
「なによ?」
俺が見ていることに気づいた奏さんが不快そうな顔をこちらに向けてくる。
「あ、いや、何でも」
言うと、彼女はフンと鼻を鳴らして前を向き直した。
俺にも同じくらい敵意向けてきてますね。
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