第4話 金髪ギャップ少女の恩返し①
如月真尋。
俺が高校生だったときに親友と呼べた唯一の友達だ。
仕事に追われて会う時間がなくて疎遠になってしまったことを何度悔やんだことか。
如月と友達になったのは高校二年の文化祭だ。
一緒に回る友達がいなくて教室でゲームしてたらやってきたのだ。話が合い、そこから何だかんだ話すようになった。
つまり、五月時点の今はまだ友達ではないということだ。
登校して自分の席に座り、彼の席の方を見てみる。
如月は自分の席に座り、本を読んでいる。漫画のサイズではないので恐らくラノベだろう。
この世界線でもやはりぼっちらしい。
しかし、突然声をかけると怪しまれる可能性がある。
なので何かしらのきっかけが欲しいところなのだが、そう都合よくイベントが起こることもない。
何より、そんな悠長に待っている時間はない。
ということで、今回用意したものがこちらになります。
俺はハンカチを取り出す。
ただのハンカチではございません。『魔法装女マジカ☆マジデス』というアニメのキャラクターがプリントされたオタクっぽいハンカチだ。
魔法装女マジカ☆マジデスは如月の一番好きなアニメである。
このハンカチを彼の前で落とせば拾ってくれる。そしてマジマジの絵柄を見た如月は俺が同志であることに気づく。
という算段である。
幸いなのは如月の席がドアのすぐ近くであること。
俺は一度教室を出て、トイレに向かう。わざわざ用を足す必要はないが、一応済ませておく。
教室に戻り、如月の前を通りがかったところでハンカチを落とす。
ラノベに集中している可能性もあったけど、あいつは常に周りに注意を払っていた。
そこが変わっていないのであれば、奴は必ず気づいてくれる。
「あ、ハンカチ落としたよ」
かかった。
あとはハンカチの絵柄を見ればほぼミッションクリアしたようなものだが、果たして上手くいくだろうか。
こういうときに漫画とかなら変な方向に進んでしまうのだが。
「これ、マジマジじゃないか。えっと、佐古君? 君もマジマジ好きなの?」
怖いくらいに思惑通りに動いてくれるなコイツ。いや、有り難いことなんだけど単純過ぎないか?
「え、あ、そうなんだよ。あれ、如月もマジマジ好きなの?」
「うん。僕、すごい好きなんだ。まさかこんな近くに同志がいたなんて驚いた」
如月は嬉しそうに笑う。
その顔は紛うことなきイケメンだ。容姿だけでランキングを作るならば間違いなく一位二位を争うだろう。
しかし、陰キャでオタクという属性から彼女はいない。
告白はされていたけど自分に自信がない如月が全てを断っていた。
「ねえ、今日お昼一緒に食べない? 佐古君ともっと話してみたいな」
「ああ。こっちこそ、よろしく」
仲間であることが分かればめちゃくちゃ喋ってくるし距離も詰めてくる。
如月真尋という人間はやはり変わっていないようだ。
「おはよ。何の話をしてるの?」
そのとき。
教室に入ってきた女子生徒がそんなことを言ってくる。
振り向くまでもなく、その声の主が絢瀬さんであることは分かっていた。
「あ、や、おふ」
女子を前にして如月は分かりやすくテンパる。
俺よりもテンパってやがる。
「いや、その、お昼一緒に食べようって話を」
俺も大概だな。
異性として意識している分、より緊張してしまう。
「そうなんだ。仲良しなんだね」
にこりと笑ってそう言った絢瀬さんはばいばいと手を振って行ってしまう。
なんて良い人なんだ。
「絢瀬さん、だよね。すごい可愛い人だね。僕、緊張して全然喋れなかったよ」
あはは、と如月は自嘲気味に笑う。
「容姿だけならお似合いだと思うけどな」
「容姿だけなら、ね」
自分でもダメな部分を理解しているようで、特に俺の言葉を気にしている様子もなかった。
女子との会話は苦手だ。
何を話せばいいのか分からないし、根底の部分に嫌われたくないという気持ちがあるからか上手く言葉にできない。
絢瀬さんに関しては、その気持ちが特に強い分コミュニケーションが困難である。
とはいえ、いつまでもそんなこと言ってられない。
早く慣れないと。
今朝の金髪ギャップ少女とは、そこまで緊張しなかったんだけどな。
「……あ」
忘れてた。
金髪ギャップ少女改め高峰円香。
今日の放課後、彼女に呼び出しをくらっているのだ。お礼をするという名目なのでカツアゲとかじゃないだろうけど、あまり乗り気にはなれない。
相手は女子だ。
上手く立ち回れるはずがない。
しかし、もしかしたら異性と話すいい練習になるかもしれない。
少なくとも、やり直し前の世界ではなかった関わりだ。これは大事にするべきだろう。
その日の昼休みは如月と昼食を食べた。
もともと話が合うことは分かっていたので、仲良くなるのにそれ以上の時間は必要なかった。
俺もあれこれ考えることはなく、思ったことをそのまま喋る。如月はそれを受けて楽しそうに話してくれる。
友達と話すって、こんな感じだったなと懐かしい気持ちになった。
今度はこの繋がりも大事にしようと改めて思った。
そして放課後。
一応、今朝連絡先の交換をしたので俺のアドレス帳には『☆★まどか★☆』という名前が追加されている。
何というか、若さを感じた。
彼女からメールが届いた。
内容は『校門のところで待ってるから』というもの。
帰り支度を済ませて早々に教室を出る。
緊張はしている。
でも同じくらいにドキドキというか、ワクワクしている。
高校時代、女子とは無縁の生活を送っていたので、こうして放課後に女子と何かしらの約束があるのは初めてだ。
青春っぽいな、とか思ってしまう。
やや駆け足で校門に向かう。
若さはあるがその分デブっているのでそれだけで汗をかく。ぜえぜえと息を切らせる。
痩せようと決心した。
「……走ってきたの? 別に急がなくても良かったのに」
膝に手を付き、ぜえぜえと肩で息をする俺を見て高峰は驚いたように言う。
顔を上げて彼女を見る。
やはり胸元のボタンは空いているしスカート丈は短い。
スタイルがいいので、もうつまり何かと言うとエロい。リアルJKほんまエロい。
「いや、待たせてるって、思うとね」
ようやく息が整ってきた。
ふう、と息を吐いて背中を伸ばすと頬に柔らかいものが当てられる。
「めちゃくちゃ汗かいてるじゃん」
何かと思えば、高峰が自分のハンカチで俺の頬を伝う汗を拭いてくれていた。
突然のことに動揺した俺は慌てて二三歩下がる。
「あ、ごめん。嫌だった?」
「そ、そそ、そん、そんなんじゃないけど……逆に嫌じゃないの?」
「別に」
天使か何かですか?
何言ってんの? という顔で言ってきてるから本当に何とも思ってなさそうだ。
「じ、自分のがあるから大丈夫だよ」
「そ? なら、いいけど」
「それで、今回は何用で?」
お礼をするということは言われているが、それ以外のことは聞かされていない。
つまりこの後のことを俺は何も知らない。
「だから言ったじゃん。お礼よ、お・れ・い。助けてもらったらお礼をしないと気が済まないの。ちゃんと楽しませてあげるから、楽しみにしときなよ」
そう言って、小悪魔のように笑う高峰円香を見て、俺は素直に可愛いと思ってしまった。
お礼か。
まさか……ね?
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