第5話 金髪ギャップ少女の恩返し②


 その日、結局何をしたかと言うととりあえず喫茶店に向かいケーキをご馳走してもらった。


「美味い」


「そ? 良かった」


 俺はショートケーキ、高峰はモンブランを注文していた。

 ケーキなんてあまり食べる機会がなかったので新鮮な味である。


「でもほんとにお礼とかいらなかったんだけど?」


「んー?」


「お前を助けようって正義感で動いたわけじゃないし」


「じゃあどうして助けてくれたわけ?」


「いい歳して女子高生に手を出そうとしたオッサンに天罰を与えてやりたくて。指輪はめてたから既婚者だろうし。つまりただの自己満足だよ」


 俺が言うと、高峰はくすくすとおかしそうに笑う。


「な、なに?」


「いや、変な人だなと思ってさ」


 一通り笑い終えた高峰はふうと一息ついてから俺を向き直る。


「でもいいんだ。アタシがお礼したいって思ったからしてるだけだし。あんたが何を思って動いたのかはともかく、結果的に助けられたじゃん? つまり、ただの自己満足だよ」


「……まあ、そういうことなら」


 改めて見ても可愛いな。

 ギャルっぽいメイクは俺的にはマイナスポイントだけど、それを抜きにしても普通に可愛い。


 こんな女の子と二人で喫茶店にいるってシチュエーションがもう奇跡に近い。


 くうう、青春だなあ。


「な、なにさ。じっと見て」


 どうやら、彼女の方をじっと見ていたらしい。俺のような人間に見られればそりゃ誰だって不快感を覚える。


「あ、いや、その……なんでもない」


「なんでもないって顔してないけど? 怒らないから言ってみな?」


「何ていうか、その……そんなバチバチに化粧しなくても可愛いだろうなと思って」


 ああ、気持ち悪いな俺。

 自分で言ってて気づいてしまうところが俺の良さであると自負している。

 だから、本来であればそんなことを口にはしない。


 ならどうして言ってしまったのかというと、それは単に俺が舞い上がっているからだろう。


「な、ば、は? そんなこと急に言われても困るんですけど」


「だろうな。だからあんまり気にしないで心の中でコイツきもいなあと思っててください」


「……そこまでは思わないけどさ。あんたはそっちのが好み?」


「んー、まあね。ギャルにはいい思い出ないから」


「アタシ別にギャルじゃないんだけど……」


 知らんけど。

 まあ、ギャルの定義って曖昧だしね。


 昔は若い女の子のことをギャルと言っていたらしいけど、今ではウェイウェイした派手目の女の子のことをギャルと呼ぶ。


 後者の意味だとしても、確かに見た目こそ派手だがウェイウェイはしてないな。


「佐古はさ」


「ん?」


 ちょうどショートケーキの大トリであるイチゴを口にしたところで高峰が遠慮がちに訊いてくる。


「彼女とかいるん?」


「いるわけなくない?」


「なんで?」


「いや、明らかにいない感じ漏れ出てるだろ」


 容姿はもちろん、中身もクズ野郎だからモテたことはない。

 そんなこと今更気にもしてないので、煽られてもダメージはない。むしろこっちから口にしちゃうまである。


「どうだろうね」


 じじーっと、目を細めて笑う高峰が俺を見つめてくる。そんな長々と見られたことないので俺は咄嗟に視線を逸らす。


「あ、目ぇ逸らした」


「あんだけ見られりゃ誰だって逸らすだろ」


「女慣れした男は逸らさないよ。つまりさっきの行動であんたが童貞であることは露見した」


「はいはい、童貞ですが何か? このまま二十六歳になっても彼女一人できないダメな男ですが何か?」


「なんで年齢がそんな具体的なのさ」


 肩を落としながらツッコんでくる高峰。


「彼女欲しいと思う?」


「思うよ。めちゃくちゃ思う。神龍がいたら間違いなく可愛い彼女をもらって童貞卒業させてもらうだろうね」


「そうかそうか。よしよし、そういうことならその願い、このアタシが叶えてあげよう」


「ああ、そうですかそりゃどうも……ん?」


 今なんて言った?

 よく聞こえなかったんですけど。


 俺は驚き、彼女の顔を見る。


「いや、だから叶えてあげるって」


「どっちを?」


「どっちがいい?」


 俺をからかうように笑ってくる。

 

「ドッキリとか?」


「いや」


「罰ゲーム?」


「違うよ」


「なら何で?」


 理由がない。

 普通に可愛いこの女子が俺にそんなことをする道理がない。

 人助けしたお礼に童貞卒業させてくれるなら世の中の童貞は困っている人を求めて街を彷徨うだろうよ。


「だから、お礼だって」


「痴漢から助けたお礼に股開くって相当のビッチじゃないですか」


「誰彼構わず開くわけじゃないから心配しないでよ。それに、女の子が男の子にするお礼なんて一つしかないでしょ」


 そんなことはないと思うが。


「……本気?」


「本気」


 え、嘘マジで?

 俺このままリアル女子高生とできるの?


 タイムリープして良かった!


「そういうことなら、よろしゃす!」


「急にテンション上げないでよ、びっくりするじゃん」


 そうと決まればさっさと場所を移動しよう。

 と思ったが、うちは親がいるからダメだ。


「うちもダメだよ」


「じゃあダメじゃん」


「フツーにホテル行けば良くない?」


「あそこは学生ダメでしょ」


「バレやしないって」


 そのまま連れて行かれる。


 どうしてラブホテルってメルヘンチックな外観してるんだろう。中でしてることはメルヘンの欠片もないことなのに。


 高峰は慣れた感じで受付を済ませてすんなり部屋を借りてしまう。


「え、なに。経験者?」


「どう思う?」


「パパ活か、あるいは……」


「ナイショ。そんなこと今はどうだっていいでしょ」


「よくはないんだけど……まあいっか」


 あんまりしつこく訊いて機嫌を損ねてしまうとせっかくの機会を失うことになる。


 ここで童貞卒業できたら俺はもう死んでもいいかもしれない。


 あ、いや、でも絢瀬さんを救うという目的があるんだった。


 絢瀬さんという意中の相手がいるのにここで他の女子と体を重ねてもいいものか。


 ふむ。


 まあ、経験を積んでおくというのも大事か。


「先にシャワー浴びてきなよ」


「え、あ、そうか。一緒じゃないのか」


 風俗だと普通に一緒に入るからそれが当たり前みたいになってた。これ風俗じゃないんだ。


「え、いや、さすがにそれは恥ずかしいわ」


 これは本来であれば完全完璧にポルノ案件だが、今の俺は高校生。


 つまり合法だ。


「上がったぞ」


「じゃあ次入ってくるね」


 彼女がシャワーを浴びている間、暇だったので適当にビデオを見る。とはいえ戻ってくるのに時間はかからなかったので刺激的なシーンには辿り着かなかった。


「何か慣れてない?」


 パンツも履かずにタオル一枚の姿でいた俺に驚いたのか、高峰はそんな声を出す。


「どうして?」


「いや、恥ずかしがる様子一切魅せないから」


「どうせ今からすることするのに、裸恥ずかしがっても仕方なくない?」


「いやそうだけども。それは理屈でしょ?」


 俺は女性の前で裸になることに関しては風俗で慣れてしまった。過去に戻ってきてもその感覚は残っているのでついついその調子でいてしまう。


「んー、ほら男って結局は性欲猿だし、セックスを前にすると思考能力が低下するんだよ」


「わけわからん」


「ほら、そんなこと気にしてたら時間がなくなるぞ。せっかくなんだし、楽しもう」


「ほんとに童貞!?」


 言いながらも、高峰はタオル一枚巻いただけの姿でベッドまでやってくる。

 まだ恥ずかしいようでタオルを外そうとはしない。


「……まあ、でもあれだね。いざってときに男らしいのはポイント高いかもね」


 はらり、とタオルを落とす高峰。

 ちらとこちらを見たが、やはり恥ずかしいのか目を逸らす。電気は消えているけど、赤くなっているのがうっすら見える表情から伺えた。


「いいよ。好きにして」

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