4.

 見た目はイケメン、頭脳はダヴィンチ。そう、僕の名は藤堂楓とうどうかえで。生まれ落ちたその日より天に愛されしスーパーウルトラジーニアスセクシーガイアルティメットパーペキマンにして株式会社クマサデモードの総務課長。世界は僕を中心に回っており、万物は僕を祝福すべくそこにある。この世は愛に満ちている。そしてそれらは全て僕のものだ。だから僕はその全てに愛を注ぐ。ただ一人を除いて。

 その日、僕のミューズは現れた。レディ弥恵。彼女こそ僕と出会うべくしてまみえた女神ヴェイッッナス。彼女の声色はこの世にある数多くの美の中でも一際強い輝きを放ち、彼女の笑顔は全ての穢れを祓いのけるまさにサンッンンンンッヌシャインッ。だがそんな彼女を僕から奪い去ったゴミクズがこの社には存在する。ドロボー課の白湯川である。あのど畜生ゾンビオブガリガリゾンビはあろうことか自分の無能を棚に上げ僕の総務課からレディ弥恵を引き抜きくさりおった。これは万死に値する。僕は不服を申し立てたが辞令は曲がらず、女神である彼女は肥溜めに貶められてしまった。だがまだ万策尽きたわけではない。彼女を奪還すべく、僕はミッションを開始する。

「やあやあ、ミスター白湯川! まあ君に用はないが」

「メンドーなのが来たな……」

「マイレディ ああ嘆かわしや。この澱んだ空気の中では君の美しさに翳りを感じざるを得ない。どうだい? マイレディ、そろそろこんな毒沼からはおさらばして僕とともにヴァルハラを目指そう!」

「会社の決定なので」

「そんなもの些末なことだよ。僕が人事に掛け合えばキミを総務に戻すなんて容易いアナスイ水素水ッさっ!」

「大丈夫です。私、選別課のお仕事も少し慣れてきたので」

「いいかい? キミはこのウスラゾンビに洗脳されているんだ。コイツはじつのところ妙な新興宗教にハマっていてね」

「デタラメなこと言うな!」

「ともかく、キミには害でしかないんだ。わかっておくれマイレディ。キミは総務課に戻るべきだ」

「藤堂! 仕事の邪魔だから帰ってくれ。お前だって仕事中だろ」

「黙れゾンビ! お前にレディ弥恵が救えるか!」

「藤堂課長」

「はい?」

「私、白湯川課長と付き合ってます。なので諦めてください」

「「はいー?」」

「さ、仕事しましょう白湯川課長」

「オイきさきさき貴様ッッ!」

「待て待て待て何言ってんのッ!」

「用が済んだならお引き取りくださいね」

「白湯川、同期のよしみで生かしておいてやったがもう我慢ならんぞ。ぼぼぼぼぼぐのミューズに!」

「待て待て誤解だ藤堂俺は!」

「しねーーーーィッッ」

「藤堂課長!」

「はいッ!」

「迷惑です」


 なんだここは。どこなんだ。ひどく寒い。雪? 吹雪か。僕は遭難したのか? そうなん? さむいさむいさむい死んでしまう たすけてたすけてたすけて! 誰かッ!

「うわああああああああッッ」



「まずいですよ真尋さん」

「何がです?」

「なんであんなこと言ったの!」

「藤堂さん帰んないから」

「社内で妙なウワサ立つでしょ!」

「うーん、ま その時考えましょう さ、仕事仕事」

「うわああああああああッッ」

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