20. 不満を言っても良いのなら

 フローラ・メイ・フォーブズが登場した。

 彼女の横には従者のエマもいる。


「フローラ嬢。僕のためにわざわざ来てくれたのだね。そうだ、この前話したパーティの件、早く返事を聞かせてくれないか?」

「フレディ様、まずは訂正を。あなたに会いに来たわけではありません。私は剣術部部員として、この場にいるのです。そしてパーティのお返事ですが――」


 フローラはフレディを見てにっこり。

 満面の笑みを浮かべた。

 フレディは喜色を顕にする。

 だが、直後。


「もちろん、断らせていただきます」


 フローラはきっぱりと言い放った。

 すると、フレディが呆然としながら聞き返した。


「いま、なんて? 上手く聞き取れなかったんだ。もう一度返事を聞かせてくれるかい?」

「お断りすると、申し上げたのです」


 フレディは意味を理解するのに、10秒ぐらいかかった。

 そして、彼はぱっと顔を赤くする。


「な……なぜだ! 私のどこに不満があるのだ!?」

「不満?」


 フローラはまじまじとフレディを見た。


 ――こいつは馬鹿なのか? 不満しかねーぞ。まずはイケメンでモテそう顔だ。女の子をとっかえひっかえしているところが気に食わない。次に中央の貴族ってのがムカつく。都会で遊んでるようなチャラチャラした感じが好きになれん。あとは馴れ馴れしいところ。無駄に距離感が近い。はっきり言って気持ち悪い。


 と、フローラはフレディの嫌いなところをたくさん思い浮かべていた。

 しかし、フレディはそれを勘違いし、


「ほら! ないだろ! 私ほどの男はそうそういない! 断る意味がわからない」


 とフレディは自信満々に言った。

 対して、フローラは、


 ――あ、もうひとつあったわ。ナルシストのところがマジでムカつく。伸びた鼻をへし折ってやりてぇ。


 と思った。


「フレディ様を傷つけてしまうと思いますので、最初に謝っておきます。申し訳ございません」


 謝罪を口にしてから、フローラは頭を下げる。

 そして、顔を上げてから続けた。


「では、お伝えしますね。1つ目は女性を雑に扱っているところです」

「雑だと? 私は誰よりも――」

「少し黙っていただけませんこと? 今は私がお話をしているのです」


 と、フローラはフレディを睨みつけた。

 フレディは一瞬、気圧されたように身を引く。


「13。この数字はご存知ですか?」

「13? 知らんな」

「あなたが一度に付き合っていた女性の数です」


 フローラはそう言ってから、エマをちらっと見た。

 エマは軽く頷いた。

 この情報はエマから集めたものだ。

 フレディが付きまとってくるのを、フローラは鬱陶しく思い、エマに情報を集めさせたのだ。


 ――やっぱり、女の子で遊ぶクズ野郎だったな。


 エマから話を聞いて、フローラは安堵していた。

 もしフレディが非の打ち所がないイケメンだったら、フローラはフレディにマウントを取れない。

 それを一番恐れていたのだが。

 フレディは欠点だらけであり、マウント取り放題の相手だった。

 フローラの心はなんと狭いことか……。


「はあ? 遊んでやっていたんだ。この私と付き合えたのだから、光栄に思うべきだろう」


 と、フレディがいうと、エマがあからさまに眉を潜めた。


「おい、そこの従者! なんだ、その顔は!」

「いえ、なんでもございません」

「いま私のことを馬鹿にしただろう!」

「…………」


 エマは何も答えない。

 それはもはや肯定を意味していた。


「私の大切な従者に怒鳴るのはやめていただけませんか? とても、不愉快です」


 フローラはすぅーっとフレディを睨む。

 フレディはむっとしながらも口を閉じた。


「それとフレディ様。騎士団長の御子息のようですね。しかし、あなたは出来損ないと言われ、見限られているのだとか」

「そ、そんなわけが……」

「まあ、このことを追求するのはやめましょう。最後に私があなたを好きになれない最大の理由。それはフレディ様が人を見下している点です。剣術部の方々、いえ、あなたは平民を馬鹿にしておりますわね」

「だって、そうだろう? 私たちのような貴族からすれば、平民など、いくらでも替えがきく存在。いらないのだよ」

「その平民の方々に支えられていることも知らずに……。なんて傲慢な考えでしょうか。私はフレディ様を実に哀れに思います。見識が狭く、偏った考えで物事を判断し、罵倒する。あなたに貴族たる資格はありません」


 ――ふぅ、すっきりしたぜ。これで言いたいこと全部言えたな。


 いけ好かないやつをボコボコに言い負かすために、フローラはエマに情報を集めさせた。

 フローラもしょうもない人間である。


 フレディは口をわなわなと震わせた。


「そ、そんなにいうのであれば、貴族の資格とやらを見せてもらおうじゃないか! 先程、私と一戦交えると言ったな!」

「ええ、言いましたわ」

「誇り高き貴族というなら、私と戦って、その資格ってやつを証明してみろ! 女だからといって手加減はしないからな。泣いて許しを請うても遅いぞ。不様な姿を晒させてやる」


 フレディはフローラに勝てると思っている。

 男の自分が女のフローラなんかに負けるわけがない、と。

 フレディはそういった男女差別的な考えを持っているのだ。

 しかし、実際問題として。

 女よりも男のほうが体格的に有利なのは間違いない。


「あら? 随分と余裕があおりなのですね? うふふふっ、楽しみですわ」


 ――よーし、これで合法的にぶん殴れる。よっしゃ、こいつの顔をぐちゃぐちゃにして、不細工にしてやるぜ。


 と、フローラも子供じみたことを考えていた。

 イケメンに対する嫉妬である。

 しかし、こんなフローラのことを周りは、


「フローラ様が俺たち剣術部のために戦ってくださる」


 と感動していた。

 そして、エマは、


「彼は女の敵です! フローラ様、やっつけてください!」


 と声を張り上げていた。

 というのも、エマは複数人からフレディの女性関係の酷さを聞いていたため、心の底からフレディを嫌悪していた。


 こうしてフレディ対フローラの模擬戦が決まったわけだが。

 最近、やたらと模擬戦をするフローラであった。

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