一匹狼は意外に 7

 翌々日早朝。カレルはラウドとともに、ミトが操る荷馬車に乗せられた。


「大丈夫ですか、ラウド様?」


 この場所に残るクライスの心尽くしで快適に設えられた、幌を掛けた荷馬車の中の毛布の上に横たわるラウドに、そっと声を掛ける。カレルの声に、ラウドはこくんと頷き、そして横寝用の抱き枕を抱いて目を閉じた。


 前線を去らねばならないことを知ったラウドは、それでも気丈に振る舞っていた。母亡き後、黎明騎士団の領地に引き取り、半ば本人の意志で武術訓練を施していた妹のリディアを戦陣に呼び寄せ、守り役であるクライスを含む黎明騎士団の半数以上を、レーヴェの遊軍騎士隊としてこの前線に残した。それでも、誰にも見えないところで、悔しさに泣いていたのだろう、ラウドの目蓋は酷く腫れていた。


「外を見てみろよ、ラウド」


 荷馬車を守るように馬を走らせているリュングの、不意に響いた普段通りの声に、荷馬車の端を掴んで外を見る。荷馬車の背後に見えたものに、カレルは急いでラウドを起こした。


「見てください、ラウド様!」


 崖下の道を進むカレル達の後方、少しだけ高くなった崖の上に、黄金の髪を靡かせた偉丈夫が馬に乗っているのが見える。その偉丈夫、レーヴェを見つめるカレルとラウドに気付いたのか、レーヴェはゆっくりと手を挙げた。


「レーヴェ。……兄上」


 荷馬車の端を掴んだまま、ラウドが肩を震わせる。


「良い、兄じゃないか」


 リュングの言葉を聞きながら、カレルはそっと、震えるラウドの肩に手を置いた。

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