一匹狼は意外に 5
二人の怪我に響かないよう、ゆっくりと、脱出口から床の下に穿たれた地下通路に滑り降りる。地面を掘っただけの通路はあくまで暗く、そして空虚だった。その通路を、二人で支え合いながらひたすら進む。思っていたよりも、道は、長い。分かれ道が無いことだけが、救い。
どのくらい、無言のまま、進んだだろうか。不意に、道が行き止まりになる。反対まで、戻らなければならないのだろうか? そう、カレルが危惧するより先に、ラウドはカレルを床に座らせ、自身は行き止まりの壁を調べ始めた。
「これ、かな」
行き止まりから少し戻った場所を、ラウドが指し示す。隠し扉の鍵となっているらしい、古き国の騎士であることを示す留め金を窪みとは思えぬ窪みに差し込むと、壁の一部が横に開いた。
見えた光景に、ほっと息を吐く。まだ薄暗いが、秋色の森の木々がはっきりと、見えている。脱出、できたのだ。
「行こう、カレル」
差し出されたラウドの、冷たい手を、しっかりと握る。足を引きずるようにして、それでも堂々と、カレルとラウドは地下通路を出た。
その時。
目の前に見えた、赤と黒の制服に、はっと足が止まる。見つかってしまった。カレルはラウドを庇うように、自分の背中にラウドを隠した。だが。
「まさか」
赤と黒の制服に身を包んだ青年が、驚きの声を発する。
「よく逃げて来れたなっ!」
次の瞬間。ラウドとカレルは、歓喜するリュングの腕の中にいた。
「リュング師匠、何故、ここに?」
驚きを隠せないラウドの声が、小さく響く。
「詳しくは、逃げながら話そう」
そう言って、リュングは後ろを向き、最速で近付いてきた大柄な、赤と黒の制服に身を包んだ騎士に声を掛けた。
「ラウドを頼む、ミト」
「はい」
リュングとミトに再会して気が緩んだのか、気を失ってしまったラウドをミトが背負う。
「カレルも、歩けそうにないな」
そう言いながら、リュングは身軽にカレルを背に押し上げた。
「全く、助けようと思ったら逃げてくるとは」
リュングの、普段通りの快活な声が、カレルの耳に響く。
昨夜、人質交換の要求とともに、新しき国の本陣にラウドの剣と血で汚れた上着が届けられた。そのことを知ったリュングは、古き国の要求に応じようとした獅子王レーヴェをラウドの守り役であるクライスを通じて止め、ラウドに恩義を感じて騎士になったミトとともに、自らの古巣である古き国の王城に潜入する計画を立てた。リュングとミトの服装は、古き国の騎士達に紛れる為の作戦。リュングは元々古き国で辣腕を振るう騎士だったから、潜入は上手くいっただろう。しかし、古き国にも優れた騎士達はいる。女王の力と、彼達の目がある中で、ラウドを無事救い出すことができたかどうかは、分からない。自力脱出してくれて正直助かった。リュングの言葉に、カレルは笑って、目を閉じた。
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