その少女は 3

 カレルという名の黒髪の少年の手を借りて、苦しげに身を捩るラウドをリュングのベッドに寝かせる。


「ラウド様……」


 発作が治まったのか、ぐったりとベッドに横たわるラウドの髪を優しく撫でるカレルに、リュングは一つだけ咳払いをしてから尋ねた。


「身体が、弱いのか?」


「あなたたちの所為でしょう!」


 返ってきたのは、予想通りの言葉。


「あなたたちの女王が、呪いを」


「カレル」


 激高し、リュングに詰め寄った少年を、目を覚ましたラウドが小さな声で制する。その声に、少年カレルは悲しそうに俯き、再び、ラウドの側に腰を下ろした。その少年と、再び目を閉じた少女のような少年を見下ろし、息を吐く。古き国の女王リュスが、新しき国の王太子に対して掛けている呪いは全て、この第二王子が肩代わりしていた。だから、王太子レーヴェには何の影響も見られなかったのだ。笑いたくなり、リュングはもう一度、寄り添う二人の少年を見た。おそらく、自分の意志で、第二王子ラウドは異母兄レーヴェに降りかかるはずの呪いを引き受けている。眠るラウドと、そのラウドを見守るカレルの沈んだ瞳から、そこまで察する。ならば、自分にできることは? 立ったまま目を閉じ、リュングは心の奥底にある自分の感情と対峙した。




 次の朝。


 リュングは滑るように、閉じ込められていた部屋から出た。誰の考えかはおおよそ見当がつくが、元々、リュングが閉じ込められていた部屋には鍵が掛かっていなかった。そのことに気付いた後も、リュングがあの部屋にいた理由は、古き国の女王が使用している『呪い』全般に対する憤りと、リュングが毎日武術の稽古をつけていた『少女』の成長に期待していたから。


 彷徨うことなく、地上階に出る階段と、外に出る扉を見つける。扉を開けると、武術訓練を行っているらしい二人の少年の声が大きくなった。


「元気そうだな」


 その二人の少年、第二王子ラウドとその従者であるカレルに声を掛ける。リュングを見て顔を顰めたカレルには構わず、リュングは、頬を紅潮させたラウドをじっと見つめ、そしてにやりと笑って地面に落ちていた訓練用の剣を拾った。


「避ける方法は、教えたな」


 訓練の様子を見ている限り、基本はできている。後は、リュングの知っている限りの武術を叩き込めば、ラウドは大陸でも一、二を争う武術巧者になるだろう。そうすれば、ラウド自身があの女王を倒すことによって、ラウドは自分自身で、降りかかる負担を無くすことができる。リュングの構えに一瞬で唇を引き締めたラウドに、リュングは笑ったまま、目にも止まらぬ速さで訓練用の剣を叩き込んだ。

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