様々な感情を 5

 その日の、夕方。


 ラウドを安静にさせる為に二人でチェスをしていたカレルは、小さな部屋に不意に入ってきた影にはっとし、そしてぎくしゃくと立ち上がり膝を曲げて頭を垂れた。


「父、上」


 カレルと同じように立ち上がり、頭を下げようとしたラウドを、部屋に入ってきた獅子王が制する。その時になって初めて、王の後ろに二人の人物がいることに、カレルは気付いた。一人は、レギ。そしてもう一人は、恰幅の良い、どこか傲慢な影を持つ青年。


「起きていて大丈夫なのか、ラウド?」


 父でもある王の問いに、ラウドが頷く。そのラウドを見てほっとした表情を見せた王は、恰幅の良い青年をラウドに示した。


「この者は、イル。北東にある国境地帯に領土を持つ騎士だ」


「初めまして、ラウド様」


 王の紹介に、イルと呼ばれた青年は恭しく、ベッドに腰掛けたラウドに頭を下げた。そして。


「しばらく、この者のところに静養に行きなさい、ラウド」


 突然の王の言葉に、カレルは驚いてラウドを見た。もちろん、ラウドも青天の霹靂に目を丸くしている。


「国境地帯といいましても、我が領地の周辺は森が多く、戦闘はあまり起きません。それに」


 その二人には構わず、イルが流暢に言葉を紡ぐ。


「我が兄セナが療養している森の中の砦には、貴重な書物がたくさんあります」


 そう言って、イルはレギの方を見た。


「セナは、私と同じ時期にこの王都へ上がった、学友なのですよ」


 微笑んだレギが、イルの後を継いで言葉を紡ぐ。


「セナは、私よりもずっと治癒の魔法に長けています。セナの許なら、傷の治りも早いでしょう」


「守りには、クライスを付ける」


「我が弟、レットも丁度王都にいますから、彼にも護衛を言いつけましょう」


 王とイルの、有無を言わせぬ言葉に、何も言えなくなる。大人が決めたことには、従わなければならない。押し黙ったまま頷くラウドを、カレルはただ見守る他、無かった。

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