誰も知らない職業になってしまったので、しょうがなくソロ冒険者やることにしたら、意外に強いし万能なんだけど、この「賢者」って職業いったい何なの?
北里筧
001 世界でたった一人の賢者とかいう職業 その1
「セイジよ。そなたの天職は『賢者』である。励むがよい。職業神の加護がそなたと共にあらんことを」
俺は15歳になり、大聖堂で行われた成人の儀式に参加していた。
そこで、俺は職業神の司教に天職を告げられた。
俺に授与された天職は賢者か。
……賢者?
聞いたことのない職業だ。
賢者って何だ?
「あの、すいません、賢者って……」
「君、司教様はお忙しい。職業について分からないことは自分で調べるように」
「はーい。お帰りの列はあちらですよー。では次のかたー」
流れ作業で、俺は大聖堂から追い出された。
仕方ない。
年に一回の成人の儀式のために、この都市だけじゃなく、近隣の村からも新成人が集まっている。
毎年二千人くらいいるので、早朝から始めても終わるのは深夜になるらしい。
大聖堂前の広場に出ると、冒険者ギルドの制服を着たお姉さんたちを中心に、いくつかの人だかりができていた。
天職を授与された新成人に、各職業の説明をしているらしい。
俺はその中から、一番人数が少ないところで順番待ちすることにした。
しばらくすると、俺の番がやってくる。
「はーい、次の人」
「お願いします。俺はセイジ。職業は賢者です」
「あー、鑑定かければわかるから、余計なことは言わないでいいですよ」
ギルド職員の人はだるそうにそう言った。
彼女は俺に手をかざして、呪文を詠唱する。
「賢者は術師系のマイナー職業ですね。現在この職業についてる人は1名。今までこの職業についた人は1名」
「俺が世界で初めての賢者ってことですか」
「そうですね。はあ……面倒くさい。報告書を書かなきゃ」
愚痴が丸聞こえだ。
不真面目な人なのか、それとも冒険者ギルドじゃこれが普通なのか。
「能力は……ああ、これは弱いですね。かわいそうに」
「弱いんですか?」
「基本職である魔術師と治療師の両方の呪文が使えるみたいです」
「え、それ、強くないですか?」
「ただし、スキルレベルの1/4の強さです。スキルレベル4でようやくレベル1の魔術師や治療師と同じになります。初期スキルポイントは2ですね。基本的にレベルアップで得られるポイントは初期スキルポイントと同じなので……ええと、計算できますか?」
それは、確かに、まあ、弱いかどうかはともかく、微妙だ。
両方伸ばそうとすれば、レベル4でようやくそれぞれが基本職レベル1と同等になる。
一点集中しても、基本職の半分にしかなれない。
「本来の魔術師や治療師が覚える、使い魔契約や薬草調合なども覚えることができないので、完全に、どこからどう見ても下位互換にしかなりませんね」
「そうなんですね……」
「報告書が簡単に終わりそうで、わたしにとってはラッキーですね」
一言余計だ。
「ああ、そうそう。スキルを取得するときはスキルツリーと念じてください。まあ、何を選んでも微妙ですけど」
「わかりました。ありがとうございます」
「冒険者は絶対無理でしょうから、スキルなしで農夫か下働きが限界でしょうけど、せいぜい頑張って下さいねー」
「ご忠告どうも」
本当に一言多い、失礼な人だった。
まあ、それでも鑑定してくれたりスキルツリーを教えてくれたのは確かなので、頭は下げる。
職員と別れて、試しにスキルツリーと念じてみた。
【賢者 Lv1】
〈呪文修得〉
└[魔術師呪文(未取得)] New
└[治療師呪文(未取得)] New
(残り2ポイント)
出てきた。
本当に二種類しかスキルがないな。
説明を開いてみると、確かに元の職業の1/4のレベルで呪文が使えると書いてある。
実に微妙だ。
まあいいや。
ポジティブに考えれば、少し弱いけど仲間に合わせて成長できるってことだ。
まずはパーティを組んでから、どう成長するか決めよう。
辺りを見渡すと、既に新人同士でパーティを組んだり、先輩冒険者の勧誘が行われている。
「攻撃系術師いないかー! 魔術師でも、特殊職でもいいぞ!」
「はいはい! 俺、魔術師呪文が使えます!」
ちょうどすぐ近くで先輩冒険者が募集していたので挙手する。
幸先がいいな。
「ちょっと、その子は術師は術師でも、魔術師の1/4よ」
「えっ、そうなのか!?」
「めちゃめちゃ弱いマイナー職の、賢者っていう職業なの」
たまたま通りがかったギルド職員が口を挟む。
さっきのお姉さんだ。
せっかく決まりそうだったのに、本当に一言多い。
「すまんなあ。新人じゃ分からんかもしれないが、1/4じゃあ普通は術師って呼ばないんだ」
「魔法戦士系でも1/2から1/3だからな。1/4は相当弱いぞ」
「さっき教えてあげたじゃない。田舎に戻って畑でも耕すのが安全だし、他人に迷惑もかけない生き方なのよ。諦めなさい」
「はい。わかりました。すいません」
謝って、すごすごと離れる。
そのパーティはすぐに別の術師を仲間に加えて去っていった。
職員のお姉さんも、すぐに新人の鑑定に戻る。
俺は元々冒険者志望だった。
すぐには諦めきれない。
それに、田舎に戻れって言っても、この都市の生まれだし。
広場の反対側にコソコソと移動し、聞き耳を立てる。
今度は新人同士でパーティを募集しているようだ。
「回復魔法使える人いませんかー!」
「回復専門じゃなくてもいいので、回復職募集ですー!」
回復職募集か。
専門じゃなくてもいいなら、立候補しても大丈夫だろう。
「はい! 専門じゃないけど治療師呪文が使えますよ!」
「ああ、よかった。もう治療師はみんなスカウトされちゃったかと思った」
女の子ばっかりの3人パーティだ。
別に冒険者に出会いは求めていないけど、もしかすると、もしかする予感が。
「おい、君。さっき向こうで攻撃術師系って言ってたやつだろ?」
「えっ、攻撃系……?」
先輩冒険者らしき人が口を挟む。
途端に女の子たちの表情が曇った。
まさか、こんなところにさっきのやりとりを聞いていた人がいたとは。
「あ、いや、俺は治療師呪文も覚えられるんですよ。賢者って職業で……」
「聞いたこともない職業だ。本当か?」
「はい」
「数値は? 攻撃呪文も使えるなら、本職より弱いはずだろ。治療師の何分の一だ?」
「ポイント全振りすれば1/2にはなります」
少し考えて、全振り前提の数値を言った。
1/4で戦力外なら、全振りでいくしかない。
「おいおい。攻撃術師ならともかく、回復系術師は重要なんだぞ。1/2なら、もう一人同等以上の回復職が必要だ」
「そうなんですか」
「仲間の生死に直結するんだ。いざという時に弱い回復呪文じゃ役に立たない」
確かにその通りだ。
でも、逆に言えば、もう一人回復できる職業を足せば丸く収まるってことだ。
「君たち、俺んとこと合同パーティ組まないか。治療師と聖騎士がいるから、回復は潤沢だよ」
「本当ですか?」
「ありがとうございます」
「え、じゃあ俺も」
「賢者君は他をあたりなよ。さすがに人数多くなりすぎるからね。そもそも攻撃も回復も弱すぎるから、使ってくれるパーティがいるかどうか分かんないけど」
女の子たちは先輩冒険者に連れられて去っていく。
またダメだったか。
でも諦めないぞ。
どこかに、俺を入れてくれるような余裕のあるパーティがあるかもしれない。
◆ ◆ ◆
すっかり夜も更けた。
その後も、何とか入れるパーティを探したが、見つからなかった。
賢者への悪評もあっという間に広がってしまった。
俺が賢者だと分かると、すぐに追い出される。
そうこうしているうちに、成人の儀式も終わっていた。
冒険者たちも、新成人の人々も、広場から姿を消していた。
これ以上は無理か。
「仕方がない、諦めよう」
と言っても冒険者になるのを諦めるのではない。
パーティを組むのを諦めるのだ。
幸い、攻撃も回復も一人でできるのだ。
一人で冒険者をやろう。
それなら誰にも迷惑をかけないし、誰かに遠慮する必要もない。
俺は、再び冒険者になることを固く誓ったのだった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
俺は今まで世話になった孤児院に挨拶し、荷物をまとめて初めての冒険者業に出発した。
まあ、荷物といっても、着替えと毛布と孤児院の人たちが餞別にくれた食料と小銭ぐらいだけど。
まずは何をすればいいのか。
とりあえず、何もわからないので、なんか弱そうな魔物を倒そう。
門番の人に挨拶して、都市の外に出る。
すぐに荒野が広がっているわけじゃなく、しばらくは田園地帯だ。
あてもなく道なりに歩く。
途中で手頃な木の枝が落ちていたので、拾っておく。
術師系だから、杖があったほうがいいからだ。
……多分ね。
更に少し進むと、スライムがいた。
ダンジョンに出てくるようなガチスライムではなく、職なしの子供でも倒せる、指先サイズのやつ。
知能はなく、その辺に落ちているゴミや雑草を消化したり、時々農作物を荒らしたりする。
正式名は知らない。
俺は[魔術師呪文]にポイントを振り、レベル1にする。
もう1点は、試しに戦ってみてから必要そうな方に振ろう。
「ええと、攻撃呪文は……」
スキルを取得したことで、頭の中に情報が浮かんでくる。
魔力の扱い方、そして最初級の魔術師呪文。
頭の中の情報に従って魔力を練り、呪文を唱える。
「
ろうそくサイズのしょぼい火の玉が、ひょろっと出てきた。
狙いは適当だったが、運良く火の玉はザコスライムに命中した。
スライムはしばらく悶え、動かなくなった。
倒した!
いや、子供が軽く叩いただけで死ぬんだけどな。
それでも、初めて魔法で倒したのは感動だ。
スライムの死骸は、しゅうしゅうと煙をあげて消えていく。
魔法を使った直後は体がだるかったけど、今はもうだいぶ楽になってきた。
魔力が回復したのかな。
連続で魔法使うのはきつそうだけど、休憩できる場所を確保しながら戦えば大丈夫そうだ。
「さて、勝ったはいいけど、まだこれだけじゃ攻撃と回復どっちを伸ばせばいいかわかんないな」
もう少し強い敵を捜さないとな。
あと、他の呪文も試してみないと。
そう思いながら、何の気なしにスキルツリーを開いて眺めた。
【賢者 Lv2】
〈呪文修得〉
└[魔術師呪文 Lv1]
└[治療師呪文(未取得)]
└[呪術師呪文(未取得)] New
〈賢者の叡智〉
└[賢者の叡智:呪文修得] New
(残り3ポイント)
あれ? レベル上がってる?
こんなに早くレベル上がるもんなのか?
それに、取得できるスキルも新たに解放されていた。
いやいや、こんなにたくさん呪文が取得できるようになっても、スキルポイント足りないんだけど。
「待てよ。この一番下のスキルは何だ?」
説明をチェックしてみる。
効果は〈呪文修得〉専用のスキルポイントをスキルレベル分増加する。
間違いなく賢者に必須のスキルだ。
今すぐ全部これに突っ込んでもいいくらいだ。
「もしかして、賢者って最初が弱いだけで、意外に使える職業なんじゃないか?」
ぽつりと独り言を呟く。
みんなが見捨てた、賢者という謎の職業。
しかし、俺にとっては唯一の天職だ。
他の誰も信じてくれないなら、せめて俺だけは信じてやらなければ。
俺は、この賢者という誰も知らない職業で、立派な冒険者になってやる。
決意を新たに、俺は新たな
誰も知らない職業になってしまったので、しょうがなくソロ冒険者やることにしたら、意外に強いし万能なんだけど、この「賢者」って職業いったい何なの? 北里筧 @kakehin310
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