第15話 建国祭

ーー 邪悪な目の者たち


今回の大会で不甲斐な結果を出して敗退した、リザードマンのリーゼ。

その近くに邪悪な目を持つ狐がいた。


狐族は、獣人族の中で嫌われることの多い種族だ。

人を騙し自分の種族の利益のみを求めるその生き様に、多くの獣人が嫌悪の目を向ける。


今リーゼの側にいる狐もそんな狐の1人。

「旦那、惜しかったですな。油断さえしなければ旦那の方が強いとわかっていたんですが。」

そうリーゼのプライドを刺激する狐。


「ああそうだ、俺があんな小娘に負けるはずがないんだ。」

リーゼは少しばかり酒を飲んでいた様子で、手に持った酒瓶を煽った。


「旦那、いい話がございます。これは強い旦那向きの話です。どうですここいらで武勇を轟かせて、雪辱をすすいでわ。」

その言葉に心を動かされた、リーゼは狐の後をついて姿を消すのだった。



            ◇


大会が終わり、王国内はお祭り騒ぎだ。


出店が数えきれないほど大通りを彩り、腹を刺激する料理の匂いが獣人らを虜にする。


今回「建国祭」としてこの催しは行われている。



王宮と言える、屋敷内でも同じように大会参加した選手や多くの族長が集まり。

新国王に挨拶を行う。


アイが大会の参加者及び大会役員などの労を労い感謝を評して挨拶が終わる。

会食となり、見ながらワイワイと食事を楽しみ出す。

部屋の隅でリーゼが、酒も飲まずただジンギーを見ている。


配膳係の獣人が空いた酒瓶を取り替えてゆく、それを手に大会参加者にお酌して回る。


暫くすると、あちこちから不穏な声が。

「目が回る、飲みすぎたか?」

「力が抜ける感じがする。」

声と共に参加者が膝を付き出すと、数人の覆面をした男らが乱入してきた。


「何者じゃ!」

長老の1人が力無く叫ぶ。


覆面の男の1人がリーゼに槍を手渡すと、それぞれ剣を抜き。

「この国は狐族が貰った。」

そう言うと参加者に斬りかかろうとした。


「ドドドドーン」

連続した雷鳴が鳴り響き、覆面の男らが倒れる。

リーゼは、1人槍を手に立ち尽くす。

僕はそのそばに歩み寄り。

「お前はどうするのか?」

と聞いた。


するとリーゼは、僕に槍を向け突こうと身構えたがそれ以上は動けなかった。

僕の威圧に立っているのがやっとだったのだ。僕は参加者に癒しを与える。

皆の身体が元に戻ると、アイとジンギーが僕のそばに駆けつける。


ジンギーがリーゼに言う

「自分の実力さえ分からぬ男が、何を吹き込まれたか知らぬが馬鹿なことをしたももだ。」

と言いながらリーゼの前に立つ。


真っ赤になったリーゼが槍をジンギーに突き出す。

しかしその槍はジンギーの素手に止められ折られる。


驚きのリーゼにジンギーが言う。

「レベル差が2倍以上あれば勝負にもならんのが分からんようだ。」

と言うと、目にも止まらぬ速度でリーゼを打ち倒していた。



ーー 狐の後ろ盾



首謀者の狐らを全て捕縛した、僕は狐の族長を尋問した。

「我らは、ゼンブラ王国からの特命を受けた者。我らを害せば戦火となるぞ。」

と脅してきた。


「ワハハハハ。」

可笑しくて笑いが止まらん。

「何がおかしいか!この国が蹂躙されるのだぞ。」

とさらに言う狐の族長に。

「お前、嘘を言う相手を間違えたな。ゼンブラ王国がここを攻め込む!王が狂ってもそれだけはあり得ぬ。」

と言い切り。

近くの兵に

「さらに尋問せよ、残りは今から処刑する。」

と言い残しその場を後にする僕に族長は

「そんな事をすれば、女神の天罰が降るぞ。」

と叫ぶ。


振り向いた僕は、威圧しながら

「この世界には僕以外の使徒は居ない。天罰は僕が下すんだよ。」

と言いながら去ると後ろで。

「まさか・・・そんな事が・・あり得ぬ・・それでは今までの・・・無駄だったのか。」

と聞こえた。


どうやらこの狐族がこれまでの人族と獣人族の仲を拗らせていた原因のようだ。


僕は教会で女神の祈りを捧げる。すると神界に呼ばれていた。

「よく頑張っていますね。カムイ。」

と言う声で女神を仰ぎ見て。

「今回の件でお力を頂きたいと考えます。」

と言うと。

「どんな力かえ。」

「はい。今回加担していない狐族の記憶を消して欲しいのです。」

と言うと、女神は笑うと

「承知した。」

と答えた。



ーー  これからの獣人王国


狐族の野望が未然に砕かれた後。僕は皆にこう言った。

「呪いを受けし狐族の者たちは、女神の元で許された。獣人を裏切ることは重罪である。この事をしかと肝に銘じ皆で良い国を目指すのだ。」

と。


アイはそれを下座で聞くと、頭を下げたまま

「我らオムニバス王国民全て、王国に忠誠を尽くし王国民の為に命を賭けます。」

と宣誓した。


この後この世界中から、獣人や亜人と蔑まれていた一族が集まってきた。

人口は20万に届きそうだ。開拓地が無ければ住むこともできなかっただろう。

しかし今は、肥沃な大地に広い領土がある。

新しい街が次々にできて行き、一大繁栄を誇りだした。



ーー サザンクロス王国カムイ子爵


場所を変えて、自領に帰った僕は、家臣らに命じた。


家臣らは、子爵になってから集めたものがほとんどで、どちらかと言うと貴族の三男以下が多い。


今でこそ産業が栄え出したが、この国は貧困に窮していた。

当然貴族の三男以下の待遇はかなり悪かった、そこで僕がそれらに募集をかけたのだ。

「能力次第では、貴族として独り立ちすることも可能だ。」

と。

この触れ込みで、燻っていた者たちが多くやって来たのだ。


「さらに繁栄するための、方策を献策せよ。」

とね。


実力を測れる時が来たとばかり、多くの家臣が献策して来た。

それらを検討しながら僕は、重要なポストの人事を決める。


家臣を集め、今回の献策の評価を行う。

「次の10名は、後で執務室に来なさい。」

と言いながら10名の名を呼ぶ、呼ばれたものはウキウキしている。


「次の15名は、別室に待機するように。」

と名前を呼ぶ、皆褒められると思っている。


この試みは、僕の家臣の中に差別意識があるかの選別だった。


「次の5人は、ここに残りなさい。」

と5人の名を呼ぶ。


そして解散。

その場に残った5人に僕は、

「君たちの献策は大変興味を惹かれた。そこで君たちにそれぞれ役職を与える。自分の考えの通り進めるように。」

と言うと誰は何担当と言うふうに職を振って責任者にした。


執務室の10人については、

「君たちの献策は、今までの焼き直しに近い。これでは同じ轍を踏んでしまう。そこで君たちをそれぞれの職の補佐を命じるので、そこで勉強するように。」

と言い渡した。


別室の15人には、

「君たちには失望した、この国が持ち直した本当の理由もわからぬ愚か者のようだ。残念だが解雇する。もしも考え方が変わったのなら、次の募集に参加して良い。」

と言うと叩く出した。


しかしこの者たちは、後に問題を持ち込むことになる。




ーー 3年の月日が経った



オムニバス王国は、非常に栄え周辺王国との交易も盛んで安定して来た。


サザンクロス王国も豊かになり安定して来たが、領民や王国を主に考えず自分の利益を求める領主も少なからずいた。


その中に追い出した15人が雇われた領主が3つ。

特に酷い領主の元で悪政をひいていた。


サザンクロス王国の国王の悩みが最近変わった。

今までは王国民の安全と平和を祈っていたが、最近では悪名が聞こえる領主貴族の扱いに悩んでいたのだ。


丁度要件があり僕が王城に登城した時に、相談を受けることになった。


「カムイ子爵よ。この問題をどうにかする手立てはないか?」

と言う事だ。

「分かりました。女神と図り対処しましょう。」

と答え王城を後にした。


僕は王都に教会に向かい女神に祈る。

神界に連れていかれ女神と会う。

「相談があります。」

と言う僕に女神は。

「分かっています。今度は同じ人族の中での問題ですね。貴方の思う通りにしてください。」

と言うと元の教会に戻っていた。


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