第13話 1000年前の男の怨嗟

ーー  サザンクロス王国の国王


「あの者は男爵程度の男ではない様だ。武威以上に頭が切れ、政治に通じている。我が娘を降嫁させる事を真剣に考えよう。」

と宰相に言うと

「私も同じ考えです。この先我が国は大いに繁栄する事でしょう。それもあの男を中心に。」

と答えた。


僕はオムニバスからの入植者を募った。開拓地は油断すると魔物が湧いて出る地域、そこでそれらを問題なく討伐できる実力が必要なのである。


獣人達ならその点問題ない。家を建て畑を広げて生活の基盤を整備する。


育てた穀物や野菜などは僕を通じて、サザンクロス王国に卸す。その代金を獣人達に還元すれば、獣人達もいろいろなものを手に入れることが出来る。



             ◇


そうこうしているうちに、2年の月日が流れた。


僕も19歳になろうとしていた。サザンクロス王国の国王から

「早く嫁をもらう様に。準備はしてあるから、子爵のタイミングで。」

とよく言われている。

そうそう、いつのまにか僕は男爵から子爵に変わっていた。


これはサザンクロス王国の食糧供給の安定と、それに伴う経済の安定が褒美の理由である。


獣人らの入植の件についても問題なく受け入れられており、サザンクロス王国内での活動も問題ない様だ。



あの5人の娘達はと言うと。

変化の効果が忘れられないのか、開拓地では獣人などの姿をしているが、サザンクロス王国側に出て来る時はいつも人の姿をしている様だ。


開拓地にも

・冒険者ギルド

・商業ギルド

・薬師ギルド

の支社ができ、大いに潤い出した。


開拓地は何と言っても薬草が豊富で成長が早い。薬師ギルドではこの世界の4分の1ほどの薬草を開拓地で採取している様だ。


おかげでその莫大な売り上げが僕の税収となっている。


冒険者ギルドについては、あの5人が教官となり。

厳しく訓練をしているおかげで、人族の冒険者も力を付けて開拓地でもやっていける様になりだした。





ーー  僕も家族を持つ



どうやら僕も結婚をしないといけない様だ。


僕としては、すでに家族として、ゲッコウが居るので。ゲッコウと気が合う女性がいいのだけど。


そんなふうに考えていたら、寝ている時に女神様が現れ。

「貴方にはこの世界の子供達を平和に導く役目を与えていますが。その生が終わるまでは、普通の人としての人生を送ってほしいと思っています。」

と言われた。


そこで僕は、王都に向かい王城で国王に謁見すると

「僕は、女神の使命を受けてこの世界に顕現した者です。その証拠に。」

と言いながら姿を猫人や白狼族などに変えてみせた。

国王は

「女神の使徒様か。それで納得できる。それでこれからどうすると言うのじゃ。」

と聞くので

「特別変わりません。今の僕の身体の生が終わるまで、人と同じ様に過ごす様にとお告げを受けていますので。」

と答えると、国王はニコニコしながら

「それでは、話を進めよう。」

と言いながら宰相を呼びつけ。


「例の話を進めようぞ。」

と何か指示していた。



             ◇



あれから3ヶ月後、僕は隣に数人の女性と並んでいます。

そうです、結婚式の最中です。

並んでいる女性は、

・ドーゾン王国カイマン侯爵の娘 レッティーナ 16歳

・サザンクロス王国の第三王女エメラルド 17歳

と、何故か

・猫人族 アリエル

・白狼族 アイ

・ドアーフ ドンガ

・エルフ フユーリー

・リザード ギンジー

の5人も並び総勢7人の妻です。


僕はハーレムを望んだわけではないのですが、これ以上は禁句の様です。



この結婚で、ドーゾン王国とサザンクロス王国の交易がより一層頻繁になる。


その影響か挟まれる形で、ゼンブラ王国とアリスト聖王国も交易に熱心になり、サザンクロス王国は繁栄しています。



ーー  サザンクロス王国の国王クリスタル王



今回の結婚で、我がサザンクロス王国の繁栄は不動のものとなった。


あの青年がこの国の危機の折突然現れ、飢える民を救ったことから始まった。


救国の士と思っていたが、まさか女神の使徒様とは思いもよらなかった。

しかしそれで安心して娘を託すことができた。


できれば王位を譲りたいほどであったが、それは叶わぬ事。




ーー  ゲッコウ



カムイに託された私は、約3年の月日の間カムイの魔力を吸収したおかげで、予定よりかなり早く成長することができた。


姿形は未だ幼竜であるが、内包する力はかつての8割ほど。

何時でも山に戻れるのだが、今暫くこの楽しい仲間と共に過ごす事を良しとしよう。




ーー 獣人ら5人娘



私たちは計画通り、カムイ様の妻の座に座ることができた。


これは女神様からこっそりと神託を受けていたもので、皆その時期を今か今かと待ち侘びていた。


カムイ様の神力が高まった今、それを受ける私たちは、特別な恩恵を享受している。

永遠の若さと健康である。


その事実をまだ知らされていないカムイ様は何年後にその事実に気付いてくれるのやら。

それもまた楽しみである。




ーー  カイマン侯爵の娘  カッティーナ



私は幼い頃から父上に

「お前の夫は既に決めている。素晴らしい男だそれに相応しいレディーになれる様努力するのだぞ。」

と言われて育ちました。

ただ時より見かける、素敵な殿方が気になっていましたが、それは仕方のないことです。


と思っていたら、何とその殿方がお相手て・・・思わずガッツポーズしてしまい。お母様にお叱りを受けました。

でも・・7人は少し多い様な。




ーー  第三王女エメラルド



私はサザンクロス王国の第三王女エメラルド。


この王国が存亡の危機にある時に突然現れ、その危機を救ってくれた救国の英雄カムイ子爵様に嫁ぐことが決まり、私は心を躍らせました。


この王国に生まれ、王国のために生きる事を運命づけられた私が・・。

自分の嫁ぎたいと思う相手に嫁げる幸運、女神に祈らずにはいられなかったほどです。


しかしまさか女神の使徒様とは考えもしていませんでしたし、妻が7人と言うのも予想外でしたが、これも運命です。


皆さん優しそうな方ばかりで、本当よかったです。




ーー  王様と貴族の二つの草鞋



今僕は、オムニバスという獣人の王国の王としての立場とサザンクロス王国の子爵としての立場を持つ二重生活を送っている。


オムニバスについては、この世界の中で確かな立場を持てれば他の誰かに後を託そうとは考えている。


しかし今、疑問がある。

この世界で、何故獣人らがあのような待遇を受ける様になったのかという問題だ。


ただ単に一神教が教えを捻じ曲げたというだけではない気がしてならない。

そこで王家の秘蔵している、書物を紐解いてどこで変わったのか調べている。




             ◇



そんな事を考えていたら、アリスト聖王国のセリーナ嬢が結婚のお祝いに現れた。



「お久しぶりです。カムイ子爵様。」

とセリーナ付きの侍女ミレーが挨拶をした。もう立派なレディーだ。

「久しぶりですね。元気にしてましたか。」

と問うとニコリと笑って頷いた。


その様子を見ていた、セリーナ嬢が

「お初にお会いします。セリーナです。今日は皇教の名代で参りました。ご結婚おめでとうございます。」

の挨拶に

「わざわざありがとうございます。」

と答える僕。


するとセリーナ嬢が思わぬ事を言い始めた。

一冊の本を取り出し僕に差し出すと。

「この本に、今の一神教の教えの変遷が書かれております。何かの手助けになればとお持ちしました。」

というではないか。


話を聞くと。

セリーナ嬢も一神教の教えに疑問を持ち調べていたそうで、この本を見つけた様だ。


僕はその本を貰い受け、調べることにした。





ーー  驚愕の真実



この世界の歴史は、約2000年。

女神が創造し、人達を作りながらその適性を与えてこの地に蒔いた。


初めの頃は、魔物自体存在しておらず、各種族も特に争うことなくそれぞれで棲み分けしていた。


数100年が経過した頃、それぞれの種族の寿命や成長スピードの違いが大きく現れ始めた頃。


1人の人族の男が生まれた。


その男は、既に確立されていた身分制度に不満を抱く。


今更自分が国王になれる様な武威を持っていないし、金もない。


それなら信仰を利用し自分が神の声が聞こえると嘯いて頂点に立ってやると。


そう彼は異世界の記憶を持ったまま転生した男だったのだ。それも新興宗教であくどい事をして殺された教祖の記憶思った。


この世界はどこかの世界を手本に作られたご都合主事の世界だ。

よって、これから起こることもある程度予想できる。


そう考えた男は、預言の書を書きいかにもそれが起こった様に、演出して信者を獲得していった。


ある程度信者が集まると、男は一神教と言う名で宗教を立ち上げたのです。


しかもその優位性を求める必然性で、数の最も多い人族が1番偉く、数の少ないものは女神の恩恵が少ないのだと、広めたのだ。


それから数百年後、一神教は信者数十万の一大宗教となり、王国すらも手にしたのだったが、その頃当然男は生存しておらず。

その子孫が次々に自分達に都合が良い教えにと変遷していったのが今の一神教である。


たった1人の男の欲望がその後1000年以上にわたる。

獣人弾圧の時代の引き金となったのだ。


この問題は、女神が存在しているこの世界で女神の声を聞くことができる者がいないことが、大きな問題だと思ったが。

ある者の言葉が女神の言葉であると、誰が証明できるのであろうか。


そこでこの問題を解決する手段を考えることが、僕の次の使命となった。

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