第9話 ゲッコウ獣人に甘やかされる
ーー 王都ゼンでの活動とお家騒動
王都の冒険者ギルドに立ち寄り依頼の種類と数を確認する。
すると、最近は盗賊被害が多いことが分かった。
「あの盗賊団は、どこまで影響を持っていたのだろうか?」
その事を思い出し、受付嬢に
「先日、警護任務中に盗賊団に遭遇し、殲滅したがどの程度の盗賊団か分からないので確認してほしい。」
と告げると。受付嬢は
「盗賊の首又は身元の分かる物は持っていますか?」
と聞かれたので、
「ええ、全て持ってきています。」
と答えると、
「主だったものを提出してもらえれば、こちらで確認します。」
と言うので、
「首領と思える物を持って来ています。他にはどのくらい出せばいいのか分からないのですが、全てでも良いですか?」
と尋ねると
「こちらも忙しいので、さっさと出してください。全部でいいから。」
と受付台を指で指示するので。
僕は次々に首だけの盗賊や焼け焦げた盗賊に死体を取り出しては、台の上に並べ始めた。
10人ほど並べたところで、
「何人いるんですか?」
と叫ぶように受付嬢が言うので
「多分・・100は居ますね。」
と答えると、卒倒してしまった。
その後他の受付嬢が
「ちょっと待ってください。ギルマスを呼びますので。」
と言われ、取り出すにを止めて周囲を見渡すと。
ギルド内の冒険者が皆固唾を飲みながら様子を窺う態度に気づいた。
後でわかったが、Aランクパーティーのケンがこの間ギルド内で僕のことを話していたそうで、だから誰も絡んでこなこなかったのか。
ギルマスらしき男が現れ、台の上の死体を見ながら
「死体は後で確認する。部屋までついて来い。」
と僕を誘うと、近くに職員に
「これの確認だけでもしておけ。」
と言いつけていた。
◇
ギルマスの執務室にて。
「お前がAランクのカムイだろ。」
と切り出すギルマス。僕は頷いて答えると。
「本当に100人ほどの盗賊団だったのか?」
と聞くので、
「収納している数は103人だ。」
と答えると。
「分かった。残りも裏の倉庫で出してくれ。」
とギルマスは言い残すと職員が持って来た袋をテーブル上に置き
「さっきの死体の報酬だ。本当に大物を潰してくれたようだ。」
との答えに、依頼を受けている盗賊退治の足がかかりになった。
ギルマスの部屋を出した後裏の解体場に向かうと。先ほどの職員が頭を下げて、謝罪をした。
「すみません。高名な冒険者である事に気づかず、失礼なことを言いました。」
と素直に言うので、
「こちらも意地が悪かったと思います。お互い様ですよ。」
と謝罪を受けた。
そこで王家の噂話とギルドの仕事の状況を尋ねると。
「確かに、国王の体調が悪い話は聞いています。そのためか各地で盗賊などが蔓延り警護の依頼が増えていて、魔物討伐の数がかなり減っています。」
と言う話が聞かれた。
『魔物が増えると何がいけなかったかな。』と考えながら宿に帰った。
ーー スタンピードの発生と王国の対応
ゼンブラ王国の東、深淵の森の近くにダンジョンが出来ていた。
普通ならその辺りは、冒険者がよく小物の魔物を狩る場所だったので、すぐに見つけられるはずの場所だった。
しかし警護依頼が増え、魔物を狩る冒険者が激減したために発見が遅れたのだ。
ダンジョンの存在がわかったのは、魔物が溢れて発生するスタンピードの、直前だった。
「何!深淵の森の近くでダンジョンが生まれ、スタンピードが起きそうだと。」
王城で報告を受けた宰相は、信じられぬと言う顔でその報告を聞いていた。
「直ぐに討伐隊を編成し、付近の貴族に協力を要請せよ。」
と命令を発したが。それに従う貴族や軍はいなかった。
それは、それぞれの派閥が、自分の派閥の力を減らしたくないと言う思いと音頭を取る指導者がいなかったからだ。
スタンピードは、その勢いを増しながらゼンブラ王国の王都方向に侵攻し始め、途中の村や街を飲み込んでいった。
僕はその話を聞きながら、
「自分のことしか考えない人族がどれだけ魔物にやられようと知ったことではない。」
と思っていた。
そう思っていたある日の夜、枕元に女神が姿を現した。
『カムイさん、よく頑張っています。ただ私は亜人と呼ばれ不当な扱いを受ける私の子供らの保護を頼みましたが、同じようにこの世界の平和も依頼したつもりでした。』
と語るので僕は
「女神様、僕にとって人とはそれほど助けるべき生き物には思えないのですが。それでも助ける必要があるのですか?」
と、反論すると。
『醜い心の人族と言え全ては私の子らです。全てを助けろとは言いません。少しでも助ける理由が見られる者は助けてあげてください。』
と言われ、従うしか無かった。
「分かりました。僕の判断で出来ることのみしましょう。」
と答えると。女神は一度頷き姿を消した。
ーー 女神に依頼
スタンピードは、僕らの旅した道をなぞるように王都に、向かっていた。
なので僕は転移魔法を使えば、どこに地点にも移動できます。
アリエルたちを集め、昨夜の女神の依頼を話すと
「「「「「私たちも戦います。」」」」」
と言ってくれた。
僕はそれぞれを連れて、世話になった宿屋村や街に彼女らを配置してそれらを守らせると。
僕自身はスタンピードの先頭に転移して、侵攻方向を変えるために魔法を発動したのです。
「西へ向かえ」
「ファイア・ウォール」
と叫びながら、巨大な火の壁を出現させて。魔物の進行方向を西に逸らす事に成功しました。
ーー それぞれの思惑
スタンピードが王都に真っ直ぐ突き進んでいた頃は、その通過する予定の地以外の領地を治める貴族は高みの見物状態でしたが。
魔物が予想を越え進路を変えたところから、ゼンブラ王国の広い範囲に散り始めました。
その為、各地の貴族は慌て始めました。
数多くに貴族から王都へ応援の要請が寄せられ始めるが、誰も対応できない状態で、早い魔物は王都まで2日の距離に来ていました。
僕は、魔物の密度を散らしそこに居る軍隊や冒険者の努力でなんとかなりそうな、規模に変えたのだ。
領主から見捨てられようとする、村や街を中心に彼女らの助けを貰い救い始めた。
しかし決して無意に助けるのではなく、人を助けようとしない者が治めている場所では、子供や女性を中心に助けるだけに留めました。
スタンピード発生から30日。
ゼンブラ王国の全土を走り抜けた魔物たちも、殆どが死に絶え静けさが戻った頃、ゼンブラ王国の全容が分かってきた。
領民を助ける事に積極的で無かった領地ほど、大きな被害が出ており。それらの被災地に私費を使って復興を応援した、第四王子スカイが派閥を超えて信頼を得る事になった。
ここで、王位継承者はスカイ第四王子に決まったようなもので、時を同じくして王が遥か高みに登ったことが発表された。
ーー 旅を続けよう
僕はアリエル達に次の目的地を告げる。
「ここから移動して、アリスト聖王国に向かう。」
復興の兆しを見せる、ゼンブラ王国を後にして、僕らの旅は再開した。
今回のスタンピードは、ゼンブラ王国のみではなく少なからず、アリスト聖王国にも被害を与えていたようだ。
『何か誰かの思惑が感じられるな。』そう感じながらカムイは、進むのだった。
この頃になると、ゲッコウも活動時間が飛躍的に伸びてきた。
一眼がない場所では、僕の頭の上で日向ぼっこしたり。一眼がある場所では、認識隠蔽のスキルを使い分からないようにしながら、僕らと同じように旅を楽しみ出した。
「ゲッコウ様、美味しいお菓子を買い求めてきました。どうぞ。」
とアリエルがお菓子を差し出すと。次はアイがその次は他の誰かが食べ物を与えるのだ。
我儘に育ちそうだなと思いながらも愛情を受けて育つ古竜のゲッコウを見てそれでもいいかと思う僕だった。
◇
国境を越え、アリスト聖王国領内に入る。
かなり雰囲気が変わってきた。『何が違うか分からないが、あまり明るくないな。』
と思いながら僕は足をすすめる。
小さな村に着いた、ここで宿を取ろう。
一つだけあった宿に荷を下ろし村の中を散策すると、村に似合わないほどの立派な教会があった。
「一神教の国だけあって教会は立派だな。」
と呟きながら教会のそばを通ると、人の争うような声が聞こえた。
「神父様どうか娘をお助けください。」
誰かが病気か怪我の子供の治療を神父に頼んでいるようだ。
すると神父の声が聞こえた。
「ダメだと言っているだろう。お布施を払えない者には女神の奇跡は与えられないと言っているだろう。」
とすげない答え。
それでも男が懇願を続けるのがウザくなったか、大きな音と共に扉が閉められ、男は胸に抱きかかえた娘と共に締め出された。
僕は、男に声をかけた。
「僕は、一神教の信者ではない。しかし病や怪我で苦しんでいるものを見捨てはしない。それでいいなら僕が癒しを与えよう。」
と言うと。
男は
「お願いします。私ら農民は、助けてもらえるならば誰でもいいのでございます。」
と頭を下げ、家に迎え入れてくれた。
直ぐに子供の様子を確認すると、栄養失調などからなる病気のようだった。
僕は、回復魔法と治療魔法をかけると、収納から食料などを取り出し。
「子供の病は治したが、このままではまた同じ病に罹る可能性がある。栄養のある食事を摂り、清潔に気をつけなさい。」
と指示して家を後にした。
宿の戻って、それぞれ村内を散策していた、彼女らが戻ると。
僕が見聞きしたような状況を話してくれた。
どうやら先のスタンピードの影響で、食糧が枯渇しているようだ、ただし教会だけは別ルートで食糧が配給されているようだ。
僕は、村長の家を訪れ、こう言った。
「僕は旅の冒険者だ。かなりの量の食料の持ち合わせがあるがどうする。」
と尋ねると。村長は「是非に」と答えたた。
そこで一言だけ確認した。
「僕はこの国の一神教の信者ではありません。亜人と呼ばれる人々も同じ仲間と考える者ですが、その僕から食料を買い取る事に問題はありませんか?」
と聞くと
「そのようなことは問題でもありません。我らはもとよりその様な信仰はありません。」
と言うのです。
この話から一神教の教えとは、王国民の信仰の上にあるものではなく、押し付けられたものだと分かった。
僕はその後村長の倉庫が溢れるばかりの食糧を供出して村を後にした。
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