第6話 この世界の実情

ーー 戦争、差別、偏見の先にあるものとは



戦争が始まりだした。

純血種至上主義国のゼンブラ王国がドーゾン王国に宣戦布告し侵攻してきたのだ。

更に宗教国家アリスト聖王国がそれを後押ししているという。

この戦争にドーゾン王国が負ければこの世界で亜人と呼ばれる種族の生活はさらにひどくなるだろう。


アリスト聖王国の宗教は女神教なのだがその教えは

 『女神はあらゆる種族の上に人族を創り全てを管理することを命ぜられた。』

と言うような内容の教えで亜人の奴隷制度は当然であると黙認している。


 カイマン辺境伯からの使者がきたのはそんな噂を聞いた頃だった。

人種の姿に肉体変化させカイマン辺境伯城を訪れると、息子のグーグルが出迎えてくれた。

 「ようこそ、カムイ殿。父がお待ちかねです案内しますのでついてきてください。」

と案内をして辺境伯の待つ執務室に向かった。

執務室内には宰相と軍隊長が難しい顔をしてカイマン辺境伯とはなしをしていたが、僕の訪れに気づくと

 「お忙しいところ来ていただき感謝する。」

と伯爵が挨拶し僕もそれに答える

 「時間がありませんので話を進めますね。現在我がゼンブラ王国はドーゾン王国からの侵攻を受け戦果が広がりつつあります。ここカイマン辺境伯領においてもドーゾン王国軍の一部が進行中でその数、2万の兵です。」

と軍隊長が説明しさらに

 「2万の大軍をこのカイマン辺境伯領に向かわせた理由の一つに貴方の住むオムニバスがあると思っています。彼らの国は人族を最上位に考える純血種至上主義国であるのでその亜人の国とそれと仲良くする我が領が目障りなのだと思います。このまま大軍が押し寄せればこのカイマン辺境伯領は3日と持たないでしょう。」

と難しい顔で状況を語った。


 「分かりました。僕がなんとかしましょう。ただゼンブラ王国に侵攻し戦争状態になっているのですから全てを僕がと言うのは筋が通らないので兵士200人くらいをお貸ししてくれませんか。戦闘に使うわけではなくカイマン辺境伯領に不当に進行するゼンブラ王国軍をカイマン辺境伯軍が打ち破ったと言う名目が欲しいので。」

と言うと辺境伯が

 「2万の敵軍に貴方一人で打ち破れると言うのですか?」

と疑問の声。

そりゃ考えれば当たり前の話だが、そこで皆裏に出てもらい僕の攻撃魔法を見てもらうことにした。

 「あそこに見える高い山がありますが見えますか・・見えますね。それではあの山の上を少しばかり吹き飛ばして見ますので、見ておいてください。」

と軽い感じで話すと山に向けて爆裂魔法を放った。

数分後はるか先の山の頂上付近がはっきりとわかる規模で吹き飛んだ。驚く4人。

 「本当に規格外だこれなら殲滅もたやすいのでは?」

と言うと軍隊長に僕は

 「殲滅はいけません。怪我をさせて戦争継続が不可能な状態でやっと逃げ帰られる規模の損害がちょうどいいでしょう。ただし責任者は捕虜としますのでこちらで身柄を預かってください。」

と言うと

「それなら二度と攻めてこれんでしょうな」

と口々に呟き

 「分かった。ただし我が軍が何もしないではかっこがつかない。1000の兵を横並びにさも大軍のような感じで陣を張ろう。」

と辺境伯が言い今回の責任者をグーグルに任すと息子に全権を任せたようだった。


偵察の報告通りその日から5日後2万の大軍がカイマン辺境伯領に近づいて来た。

予定通り少し高台に陣を張ったカイマン辺境伯領軍はぱっと見で5000くらいの兵力に感じられた。


距離500mで睨み合う形で対峙した両軍。

先ずゼンブラ王国軍の魔法師が魔法で遠距離攻撃を仕掛けてきた。

僕はその全てを魔法障壁でかき消して遠距離魔法が通用しないことをはっきりさせた。

まさかあの魔法攻撃を少年一人がかき消したとは考えもしない事なので、ドーゾン王国軍も魔法師を集めていると考えたゼンブラ王国軍は数にものを言わせて物量で押してきた。

それに対して僕は麻痺効果のあるブレス攻撃を敵軍に広く浴びせた。

この麻痺ブレスは蛇竜族の固有スキルでオムニバスの新しい住民の力をもらった感じである。


突然全身の力が抜け思うように動かない状態の大軍。さらに僕は土魔法のニードルを敵軍の地面から発射!その規模を広く薄くしていることから命を落とす兵士は10人程度だが歩けない兵は約半数無傷の兵自体が数えるほどしかいなかった。


開戦20分もしないうちに壊滅的被害を被ったゼンブラ王国軍は、敗走するしか手段がなかった。

そこで僕は追い討ちとして瞬間移動で敵軍内に移動すると。

敵軍の指揮幹部と思われる者10名ほどを次々に捕虜にしてカイマン辺境伯軍に連れて行き、引き渡した。

その後。敵軍の魔法師がウザいので全員死んでもらい穴を掘り埋めた。


敗走中の敵軍約2万が周辺の村や街に押し掛けないとも限らないので。

馬や馬車、荷車類は破壊し熱風の風を背後から吹き付けると、金属類を脱ぎ捨てながら裸足で逃げ出した。

通り沿いの村や街にはカイマン辺境伯軍が先回りして侵入を拒み矢で威嚇するなど敗軍の兵の辛さは想像に勝る悲惨さで、行軍20日の距離をわずか11日で走り切った後。自国にたどり着いた兵の数1万。そのうち疲労や怪我が原因で亡くなった者8000人ほぼ全滅であった。


その悲惨な兵士の様子を見たゼンブラ王国軍及び王国民は今度はドーゾン王国が押し寄せてくると言うデマが流れ、大いに混乱したという。

戦線を継続することが不可能になり停戦を申し出たものこの戦争を「最悪の30日戦争」と

呼んだ。


当然アリスト聖王国の責任も大きい。今回の戦争は、ドーゾン王国内のアリスト教の布教活動の禁止と教会の閉鎖に至りゼンブラ王国は膨大な金を払ったうえ、幾つかの鉱山をドーゾン王国に摂取されたのだった。


今回の戦果に大いにドーゾン王は喜び。カイマン辺境伯を侯爵にすると共に領地の加増を行った。

後から侯爵から

 「貴方の名前を出せないことを許して欲しい。今後貴方の国を全力で守ることを約束する。」

と言ってくれたことだけで僕は満足した。


ドーゾン王がカイマン新侯爵に

 「その方の領地の先に亜人の治める国があると噂で聞いたが真や。」

と尋ねるとそれに対してカイマン侯爵は

 「確かに我がカイマン侯爵領の先、深淵の森に亜人の治める国があり大いに潤っていますが。その国は絶対に犯してはならない女神の使徒様が治める国です。王もくれぐれも軽はずみな興味をお持ちならないように。」

と釘を刺したそうで。それに対して王も

 「あいわかった。不可侵の場所として情報を統制しておこう。」

と答えたと語った。


いつの間にかこのオムニバスは、各種の獣人族が治める国として認識されつつあった。

元村長、元オムニバスの名代が僕にいいう、

 「ここらでカムイ様の名前を持って広く獣人族としての名乗りをあげてはどうですか。」

と、確かに言っていることは分かるが・・国としての組織体制が・・まだダメな気がする。

 「わかった。これから国として必要な組織づくりをして整ったら宣誓しよう。先ず住民の把握と防衛力・税制の確立さらには組織に必要な文官の教養と登用を行おう。」

と答えると元村長は大喜びで「それでは早速」と飛び出した。




ーー 国造り



先ずは国土をハッキリさせよう。

深淵の森を中心として周辺を確認し人族が住んでいない範囲を確認し、物理的な線引きをしていく。


周辺に村を作り堅牢な城壁を作った。

深淵の森にも広く平らな道を何本か通し村々を繋いだ。

当然魔物が闊歩する森なので道の脇は広く木々を切り開き見通しをよくして安全確保を行った。

凶暴な魔物が出たとの情報があれば僕が討伐に向かいその素材を売ったお金で村々の必要な食料や日用品を買い揃える。


魔道具作成も順調で最近遠くの村と直接通話できる電話のような魔道具を開発しそれぞれの村の村長宅に敷設した。

深淵の森は巨大な森で中心にある竜の巣や険しい山脈、大小10ほどの湖があり僕らが入り込む場所は本当に森の縁である。


現在の人口は約1万。人種は20を超えているがハーフという存在があるため正確には確定できない。


文官としての人材は、他の国で商売や貴族の家宰さらにはもともと種族で国を興していた歴史のある種族から数名選別し。他は、オムニバスに学校を設立して教育中である。


武官は、身体能力が高いが協調性が難しい種族もあり。種族ごとに部隊を構成し代表を部隊長として任命している。

ただ、初めに僕の強さを骨身にしみるほど知らせないと、いうことを聞かないので一回一回相手をしている。


国にはその象徴である城が必要になるが、それはめんどくさかったので、僕が魔法を駆使し、立派な城を作り上げた。


ここで僕は各種族の代表を呼び出し会議をすることにした。

集まった各種族の代表は城の中の大きな円台に座り僕の話を待つ。


 「皆さんお集まりいただきありがとう。今日集まってきてもらったのは僕のこれからの活動に関する話をするためです。この中の人で僕がこのままこの新しくできた国に所属して生きてゆくと考えている方も多いかもしれませんが、少しばかり違うので確認のための話です。」

と始めると多くの人が不安を口にし始めた。


 「静かにしてください。質問は後から受け付けますので。」

静かになったのを確認し

 「何人かの人は知っているかもしれませんが。僕は、「女神の使徒」です。女神からこの世界の人たちの平和を守って欲しいと命を受け。このお世界に来ております。その証拠に。」

といいつつ僕は肉体変化を繰り返し。猫人族から白狼族、蛇人族・・・人へと変化をして見せた。

 集まったものはその光景に唖然としたり拝み出したりと反応は様々であったが意外と「女神の使徒」の伝説があり受け入れることは可能であった。


 「そこで女神様の使命により僕はここにだけ居ることはできません。

この世界の果てまで旅し人々の苦難を救いつつ平和を実現する必要があるのです。そうは言っても拠点は必要であるわけで、世界各地で苦難に苦しめられている人たちを受け入れる場所も必要でしょう。だからこそここは僕の故郷であり拠点である必要がります。幸いなことに僕は魔法ですぐに戻ることが可能です。定期的な連絡と必要な場合の協力は惜しむことはありません。そのことをご理解していただければ幸いです。」

と話を結ぶと、後は元村長に託し部屋を後にした。


この日以降僕の立場は、「最高相談役」という厳しい名前になりました。




ーー 新たなる旅路


いろいろ準備して独立国として周辺諸国に認められたのは、あれから2年後。

僕の15歳の誕生日頃『誕生日の規定が不明確だが』でお供として


 ・猫人族のアリエル   15

 ・白狼族のアイ     14

 ・ドワーフ族のドンガ  50

 ・エルフ族のフユーリー ?

 ・リザード族のギンジー 16


の5人がついてくる事になった。


その頃周辺諸国では「カムイ」という名前は色々な意味で恐怖の代名詞と言えた。

深淵の森の村々にちょっかいをかける人族の貴族や冒険者などは後を立たず。

その度にその村の人種の姿でカムイと名乗る亜人がそれらを蹴散らす。

その手段や方法が嫌というほど徹底的で、10を数える頃には村にちょっかいをかけるものは一人もいなくなった。


とある国の人攫いを専門とする裏組織の拠点の一つ、

 「ラーベル商業都市とアリスト聖王国の拠点が潰された。ここも危ないかもしれん逃げる準備だけはしておけ。」

支部のボス(ガイア)が集まった幹部に話をする。

 「頭、誰が拠点を潰しているかまだ分からねんですか?」

一人の男が苛々とした感じで口にする

 「ああ、まだハッキリとは分からねえが多分。亜人の「カムイ」というやつだろう。」

と、ガイアが言うと別の女が

 「どうせ亜人の獣野郎だろ。さっさと片付けりゃいいもんを本部の奴らは何してんだか。」

と愚痴を言っていると。突然体の自由が効かなくなった。不審に思いやっとの事で隣や前の仲間を見ると同じく体が動かないみたいだ。

するとどこからともなく声が聞こえてきた

 「おまちどうさま、カムイ参上。」

と声とともに少年と言えるほどの年齢の男が一人。いつの間にかそばに立っていた。

 「ここで君たちの組織は最後だよ。一人づつ舌を抜き目をえぐり手足を切り取らせてもらうね。君たちがしてきた事を君たちにするだけだから安心してね。」

と明るい声で一人づつ芋虫のようにしていく。しかも止血して死ねないように手当てしながら。

その夜組織の奥底で構成員らが死よりも長く辛い罰をうける声にならぬ悲鳴が遅くまで響いていたと言う。


裏社会に一つの伝説的な物語が始まろうとしていた。

それは「カムイ」から始まる物語。カムイに目をつけられた組織は誰一人として生きながらえられない。

特に亜人をターゲットに仕事をしている組織は日毎に数を減らし1年たたずして壊滅したと言ってもいい。

そのため亜人の奴隷を欲する貴族やその手の豪商などが不審な死を遂げる事件も多く。あまりにも不審な死に方にその手の話をする事さえタブーと言われ始めた。



僕は、供となった5人を連れて旅を始めた。

ゼンブラ王国を通過する際は獣人族の姿では争いが起こることしか考えられなかったため。変化の魔法で全員を人族の姿に変化させて旅を行った。


ゼンブラ王国は、先の戦いでかなりの損失を受けたことでいまだに内政的に疲弊していた。

王家は王が病床で長くないと噂され、その跡目争いが醜いほど行われていたが武官や文官も自分の富や権利を取り込もうと躍起になっており民は飢える寸前なほど貧窮していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る