第3話 魔物との人族の軍隊

ーー 辺境伯軍



俺はグーグル=カイマン。カイマン辺境伯の嫡男だ。

今我が領は数年続く天候不良により領民は飢え経済活動も疲弊している。

これを打開するには深淵の森で希少な魔物を多数討伐するか、富める土地を侵略統治するしかない。


魔物は強いほど価値があり、それを多数討伐するには戦力が絶対的に足らず、亜人には悪いがあの村を占領することでなんとか糊口を凌げると俺は見ている。

500の兵士を投入すれば如何に基礎体力に勝る亜人でも制圧できるだろう。


 「グーグル様、後2日で目的の村に到着予定です。」

隊長のアルカイドが報告に来た。さらに

 「先発隊の報告によると村は人口およそ200人。ほぼ猫人族で豊富な食料と高価な鉱石が豊富に取れるそうです。」

と、これからの戦利品を考えてニヤリと笑う。

俺は亜人に対してそこまで偏見はない。

今回の遠征も大人しく我がカイマン辺境伯領に隷属するのであれば血を流す必要はないと考えている。


 「報告!北東方向に魔物らしき群れ。こちらに向かって来ます。」

偵察隊からの突然の報告。北東の上空に黒い影が見える。次第に大きくなる影は厳つい顔のワイバーンの群れとわかるまでそれほどの時間はかからなかった。

 「上空からの攻撃に備えて盾隊構え!弓隊は煙幕をはれ!魔法師は安全を確保しブレス攻撃に備えよ!」

隊に号令をかけながらワイバーンの数を数える・・1、5、8、9、・・10!


 『10匹ものワイバーンを討伐する事ができれば我が領は数年分の収入を得ることになり現在の窮地も凌げるが。しかしこの兵力では生き残ることさえ難しいだろう。これも運命か。』

グーグルがそう覚悟しワイバーンの第一攻撃を受け崩れる兵士を鼓舞し、第二波に備えた頃。ワイバーンが次々に空から翼を切り落とされ落下し始める!

 「全軍ワイバーンにとどめを刺せ!」

と声を張りながら槍で一番近いワイバーンの胸に渾身の一撃を突き刺す。

兵士らも命の危機から脱した興奮でワイバーン1匹に10人ほどの兵士が攻撃を仕掛ける。


苦し紛れにブレスを吐くワイバーンや片羽根や尻尾を振り回して抵抗するワイバーンに兵士が傷つき倒れるが、次第にワイバーンも数を減らす。

残り3匹と言うところで一際大きなワイバーンがブレス攻撃をする!

魔法師が結界を張るがいとも簡単に突き破られる。

ここまでか、撤退の号令をかけようとした時そのものが現れた。


黒髪の少年が兵士とワイバーンの間に忽然と現れた、

 「危ない逃げろ!」

兵士が口々に叫ぶも少年は聞こえていない様子でワイバーンを見ていた。

ワイバーンが怒りに任せ3匹同時にブレスを吐く!

少年を中心に炎が立ち昇る。

その場にいた皆が少年の死を当然のように受け入れていた。しかし炎が消えるとなんでもないように少年がそこに立っていた!『どうして』


少年が右手を振る一振りごとにワイバーンの首が飛ぶ!

そこで俺は気づいた、あの少年がワイバーンを落としたんだ。


僅かな時間でワイバーンは沈黙した。少年は振り返ると俺の方に歩いて来た

 「あなたがこの隊の責任者ですか?」

と俺を見ながら聞いて来た。

 「ああそうだ。カイマン辺境伯軍の責任者グーグル=カイマンだ。ワイバーン討伐の支援感謝する、其方は魔法師か?」

と少年の所属と身分を確認するために質問した。

魔法師は歳若くとも能力があれば貴族として取り立てされるほどの職業である。

我が軍にいる魔法師は初級から中級下位までの魔法しか使えないため一代限りの騎士爵の身分であるが、あの力を見れば子爵又はそれ以上の身分が考えられるのだ。


 「いいえぼくは、ただの旅人です。ただこの先の猫人族の村に世話になっているので、その村に害をなすものを排除するのが今の仕事です。あなた達がこのままあの村に向かい無理難題を押し付けると言うのなら1人も返すことはできませんが。引き返すと言うのであればそのかわりにワイバーンは全て差し上げましょう。どうですか返事をこの場でくれませんか。」

と少年は言う。すると横で聞いていたアルカイド隊長が剣を抜き

 「不敬なやつ!成敗してやる。」

と叫びながら切り掛かった。アルカイドは剣術の上級スキルを持つ猛者でその攻撃を魔法師が接近戦でかわす事は不可能に近い。そう思った瞬間アルカイドが後方に吹き飛んだ!?

 前を向き直ると少年が拳を突き出した体勢で笑っていた

 「これが答えですか?それなら全員死んでもらいますが。」

と言う言葉に現実に戻された俺は手を振りながら、

 「違う違う、今のは部下の独断だ。この隊は俺の指揮下にある。君の話に答えるため少し時間をくれないか?部下が大勢怪我をしていてここから帰るにも何処かで治療をしなければいけない。ワイバーンを運ぶにも数が数だけに道具を用意しなければならない少し考える時間をくれないか?」

と申し向けると少年は初めからわかっていたことのように

 「怪我は僕が治してあげましょう。ワイバーンを運搬するのであればそれも頼まれましょうそれを踏まえて返事をくれませんか?」

とさらに返事を迫って来た。先程の魔術とアルカイドを吹き飛ばす体術いずれを持ってしても勝てる相手ではない。

しかも怪我を治しワイバーンを運搬までしてくれると言う。それはまだスキルを持っていると言うことだ。

この相手に「いや」と言う回答は存在しない。それ以上に親交を持てるのであればこれ以上のことはない。

 「わかった。俺の責任においてこの先の村に侵攻することはしない。

部下の怪我とワイバーン運搬をお願いしたい。その後できれば我が父カイマン辺境伯にあってもらいたいのだが如何か?」

と丁寧に話をすると

 「ええいいですよ。僕も他の街を見て見たいと考えていたので。ただ基本はあの村ですが、友好な隣人としてならば援助も厭わないですよ。」

とあっさりこちらの要求を飲んでくれた。

それから少年の魔術には驚嘆するしかなかった。

けが人を1ヶ所に集めると、一度の治癒魔法で手足をもがれた者までが時間を巻き戻す様に完治していく!さらにワイバーンを次々に収納魔法と思われる魔法で収納してしまった。


怪我を治したと言っても流れた血や疲労を回復するには時間が必要だがそれさえも

 「このポーションを使ってください。直ぐにでも歩きことができるようになるでしょう。」

と言いながら少年の取り出したポーションでたちまち隊列を立ち上げることができた。そのまま反転しカイマン辺境伯領に進み始めた。


俺は少年を馬車に誘い話をすることにした。

 「改めてお礼を言う。君のおかげで我がカイマン領は持ち直すことができるだろう。それと今後のことで提案がある。聞くところによるとかの村は鉱物資源や食料が豊富にあると言う。我がカイマン領と交易してもらえないだろうか?」

と提案すると少年は

 「交易は構いませんよ。ただ亜人だと差別的態度や不公平な取引でなければこれから先、有り余る食糧や鉱物資源の取引先があることは、こちらとしてもいいことなのでよろしく。」

と手を差し出してきたので、手を握り返しこの口約束ではあるが契約は成立した。

しかし何故亜人の村に人族の少年が住んでいるのか?

疑問は残るが今はいい。それからカイマン領の話をしていた時領民が食糧難で飢えているという話になると少年が

 「僕から一つ提案があります。幾らかの食料と魔物の肉を持って来ています。これをカイマン領の領民に配給してもいいと考えています。僕の持ってきている量で多分半年は生きていけるでしょうから。その間にワイバーンのお金で食料を買い求めて対応すればなんとかなるでしょう。必要であれば僕が食料を運搬してもいいですよ、今回限りのただ働きで。」

とこちらに利しかない話で信じられないところだったが、少年はそれさえもなんでもないように話す。

 「俺の一存では答えられないが多分それでお願いする事になると思う。よろしくお願いする。」

と頭を下げると。

不思議なものを見るような顔で

 「貴族というものは庶民に軽々しく頭を下げないと思っていたが、貴方は違うようですね。これなら長き付き合いができるかもしれませんね。」

と笑顔で答えた。




ーー カイマン辺境伯にて



7日後カイマン軍はカイマン辺境伯領に辿り着いた。

あまりに早い帰還に訝しむ家臣が多くいたが事前にことの内容を知らせていたことから問題なく城内に入ることができた。

そしてグーグルの案内でカイマン辺境伯に面会することになった。

辺境伯の執務室で参加者は辺境伯の息子のグーグル、宰相をしている男と辺境伯軍隊長のガッチリした男の4人だ。


グーグルが僕を紹介するように、3人に事のあらましと僕からの提案をわかりやすく話をすると。宰相と紹介された痩型の壮年が

 「グーグル様のお話では、今現在貴方がワイバーン10匹の死骸とカイマン領の半年分に相当する食料をお持ちだと言うことですが、本当ですか?それが事実ならこの国のトップレベルの魔法師ということになりますが。」

と疑いの目を向けていった。

 「間違いありませんよ。この話しが終われば取り出して見せますのでその時に確認してください。」

とニコリとしながら答えた。

続いてガッチリとした軍の隊長という男性が

 「その方本当にワイバーンを倒したのか?それだけの力があるのか?」

と問いただすようにいうので

 「僕の力の一端はアルカイドとか言う遠征軍の隊長が身をもって知っていると思いますが。」

と答えると

 「そいつが役に立たないほど変わり果ててるから聞いたんだがまあいい。」

と話を打ち切った。

続いて話を聞いていたカイマン辺境伯が静かに

 「この度のワイバーン討伐の助太刀及び兵士の治療など世話になった。

私からお礼を言う。」

と言って頭を下げた。

なるほどこの領主は必要があれば頭ぐらい下げることに嫌はないようだ。

 「頭をお上げくださいカイマン辺境伯さま。僕は村を守るために交渉したまでです。話のわかるグーグル様でよかったです。」

と答えると辺境伯は

 「話は聞いているが、我が領の半年分の食料とワイバーンの販売及び食料買い付けにおける運搬を、タダで手伝ってくれると言う話は本当か?」

と確認してきたので

 「間違いなく本当です。僕の申し上げた条件を飲んでくれればの話ですけど。」

と答えると

 「あの亜人の村に手を出さないと言うことと対等な交易相手として交流したいと言うことでいいのか?」

と再度確認してきたので

 「その通りです。何も無理を言っていません。手を出した時はそれ相応の反撃を受けると覚えていただければ結構です。」

と言うとそばの軍隊長が

 「黙って聞いて居れば調子に乗りおって!」

と言いながら腰の剣に手を添えたので。『拘束』と無詠唱で拘束魔法を発動。その場に軍隊長が朽木を倒すように倒れ身動きができない様子で呻いていた。


 すると辺境伯が

 「短慮すぎるぞ!ワイバーンを軽く撃ち落とせるような魔法師が本気を出せばこの城ごと灰になることすら明らかなのに、見た目に惑わされるとはお前はこのカイマン領を潰したいのか!」

と叱り付け僕に向かって再度頭を下げた。

 僕は拘束を解くと「もういいですよ」

と言いながら

 「それでは僕の持ってきたものでも確認してもらいましょうか。できれば商人でも呼んでもらえるとこれから先の話も早く済むんですが。」

と言うと宰相の男性が

 「すでに出入りの商人を呼んでおる。」

と答えたので案内のもと中庭に移動した。


 「先ずはワイバーンをお見せしましょう。」

と言って10匹のワイバーンを次々に中庭に出すと小山のようになった

 「これは凄いですね。まるでさっきまで生きていた様な状態。しかも傷が少ないものが多い。かなりの高値で売れますがオークションにかけられますか?」

と1人の商人が宰相に話しかけた。

 「さすがに凄いなこれほどの大物だとは。この翼や首の切り口は剃刀で切ったような見事さ。」

と独り言のように先ほどまで蓑虫のように転がっていた軍隊長が改めて感心していた。


僕は商人達に向かって

 「ここでいい値をつけてくだされば、無料で王都でもどこでもこの国に中ならば一度だけ運んであげますよ。」

と言うと商人全員が騒ぎ出した。さらにと

 「売り上げで食料を買い集めたいと考えています。更には他の魔物の素材もたくさんあります。食料を手頃な値段で集めることができる方がいれば1人でも2人でも今回に限り運搬代は不要ですが。」

と言うと1人の商人が宰相の男性に

 「あの少年の言う事は間違いありませんか。間違いなければ我々で全てを揃えて見せます。値段はこれほどではいかがですか?」

と宰相に直に話し出した。


僕は辺境伯に、「これは収納して食料を出しますね。」 と言いつつ

中庭に大量の袋を取り出した。

中は芋類と小麦や麦などの主食類と時間経過がないため葉物野菜や根菜類をかなりの量収納していた。

それらを見た辺境伯は目を丸くして

 「本当にみずみずしいままの野菜と麦類それにこれは芋か。」

と感動していたが僕に向き直ると深々と頭を下げ

 「どうか私に力を貸してほしい。今までの無礼許してくれとは言わん。

可能な限りあの村には誠意を持って対応しよう。」

と言うので

 「そこまで言われるならもう少し応援してもいいですよ。」

と笑顔で答えた。


その後は商人などを交えて商売の話。

紹介状を書いてもらえれば1日で王都まで多分いけると話すと皆さらに驚き。それならアレもできるこれもできると要望が膨れ上がっていった。

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