第14話 散髪お願いしま~す!

 ハンナを説得した颯太は髪の毛を売るためには、まず髪の毛を切らなければならない。

 女性の髪を切った事もなければ、自分で髪を切った事などない颯太はどうすればいいのか分からなかった。

 適当に鋏でバッサリ切ればいいのだろうかと考えるが、果たしてそれでいいのだろうかと悩んでしまう。


「(う~ん……)」

『何を悩んでいますの?』

「(あ、いや、ほら、髪の毛を切るじゃないか? どうすればいいんだろうかなって)」

『あ~、そういうことですか。確かに貴方の記憶を見る限りでは理容店で散髪していますわね。私が鋏を持てたらいいのですが……残念ながら何も触れませんわ』


 背後霊となっているエレオノーラは近くの布団を持ち上げようとしたが、手がすり抜けてしまい、何も掴めなかった。

 見て分かるとおり、幽霊なので何も触れないのだ。

 とはいえ、何も悪いことばかりではない。

 壁をすり抜ける事も出来るし、ある程度なら颯太から離れて単独行動も出来るので便利な面もある。

 何よりも視認されないので盗撮や盗聴といった犯罪行為もとい索敵や探索に向いている。


 しかしだ、今回は情けない話であるが役には立たない。

 精々、どのような髪型にするかを指示するくらいが精一杯といった所だ。


『こればっかりは仕方がありませんわ。そこの彼女に鋏でもなんでもいいですから髪の毛を切ってもらいましょう。恐らくですが、ここにいる子供達は自分達で切っている思いますから貴方が切るよりはマシでしょう』

「(まあ、それがベストか……)」


 エレオノーラの言うとおり、ハンナ達は自立しているので髪も恐らくは自分達で整えているのだろう。

 それならば、颯太が適当に切るよりは幾分かマシなので彼女を頼むる事にした。


「その……ハンナちゃん。もし、よかったらなんだけど私の髪を切ってもらえないでしょうか?」

「え! 私がエリーお姉ちゃんの髪の毛を!?」

「そう。ハンナちゃんのほうが器用だと思うし、それにその髪の毛は自分達で切ってるんじゃないかと思って……」

「あ、うん。そうだけど……。でもエリーお姉ちゃんの髪の毛を切るなんて私には出来ないよ」


 ハンナはエレオノーラの髪がどれだけ大事されているかを理解していた。

 まるで絹糸のように艶があり、そして宝石のように美しいエレオノーラの金色の髪を見れば、どれだけの大事にしてきたかなど一目瞭然である。

 それを同じ女性であり、憧れすら抱いているハンナに切れと言うのは酷というものだ。


 かといって、このままでは髪の毛を売って資金を集めるということが出来ない。

 いつまでもハンナ達に世話になるわけにもいかないので颯太はどうにか切って貰えるよう応じる。


「お願いします。このままだと私は一文無しですから服どころか食べ物すら買えません。ですが、髪の毛を売ってお金に換えることが出来れば服も食べ物も買えるんです。だから、私を助けると思って髪の毛を切ってくれないでしょうか?」

「う、うぅ……」


 そう言われても、やはり抵抗があるようでハンナは素直に頷いてくれない。

 しかし、葛藤しているように見えるので颯太はここが攻めどころであろうと言葉を畳み掛けた。


「お願い、ハンナちゃん。もう貴女だけが頼りなんです。家を飛び出して、何もない私にここまで良くしてくれた貴女になら任せることが出来ます。どうか、もう一度だけ私を助けてくれませんか?」


 卑怯なことだと認識している。

 それでもここでハンナの協力を得られなければ先に進めないのだ。

 勿論、自分だけでどうにかできることでもあるが出来るだけ髪の毛の価値を下げない為には彼女の協力は必要不可欠である。


『貴方、意外と役者ですわね~』

「(うぅ、こんないたいけな子供を騙して俺は最低だ……)」


 エレオノーラに自身の行いがどういうものかを改めて教えられ、颯太は内心でさめざめと泣いていた。


「……わかった。私、エリーお姉ちゃんの為に頑張るね」


 覚悟を決めたように力強い瞳で颯太を見つめるハンナ。

 先程、エレオノーラに言われた事もあって颯太は自然と涙が流れてしまった。


「ごめんね、ありがとう」


 感動シーンのような一面ではあるが、たかが髪の毛を切るだけで一々大袈裟である。


『話が纏まったのなら、早速髪の毛を切りましょうか。とりあえず、バッサリと切ってもらって、整えてもらいましょう』

「(どこまで切るんだ? 腰くらいまであるけど)」

『ショートヘアーにしますわ。貴方の記憶から読み取ったものです』

「(子供にそこまでの技術はないだろ……)」

『それもそうでしたわね……』


 髪をバッサリ切るだけなら簡単であるが、形を整えようとしたら手間がかかる。

 それこそ、颯太が知っている女性のショートヘアーにしようとしたらプロにお願いをしなければいけないだろう。

 ハンナにそこまで求めるのは流石に無理である。


 髪の毛を切ると決まってハンナが準備をしてくるとのことで颯太はしばらく布団の上に座って待っていた。

 すると、準備を終えたハンナが戻ってくる。


「お待たせ! 髪を切る準備が出来たよ!」


 という訳で早速、颯太はハンナの後ろについていくと、椅子とテーブル、それから鋏に箒などが用意されていた。

 後片付けのことまで考えている辺り、エレオノーラの推測は当たっていたということだ。

 ハンナ達は自分達で髪の毛を切っているに違いない。


「それじゃあ、エリーお姉ちゃん。そこの椅子に座ってくれる?」

「わかりました。よろしくお願いしますね」


 ハンナに言われたとおり、颯太は木で出来た椅子に腰を掛けた。

 ギシリと音が鳴り、年季の入った椅子だということを颯太は考えつつ、ハンナに髪型のリクエストをする。


「えっと、ショートカットにしてもらってもいいですか?」

「ショートカットだね。わかった。やってみる!」


 こうして、ようやく資金の目処が立った颯太とエレオノーラは安堵の息を吐くのであった。

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