第13話 今日からここで暮らす!
ハンナに連れてこられた部屋はこの家で一番大きな部屋であることは間違いないようで、沢山の布団が敷かれていた。
敷布団と思われる大きな布に掛け布団と思われる小さな布が乱雑して部屋に置いてある。
恐らくここで多くの子供達が寝泊りしているのだろう。
しかし、誰もいないというのが気になる。
颯太はハンナにどうして誰もいないのかと尋ねてみた。
「あの、ハンナちゃん。どうして、誰もいないのですか?」
「今はお仕事行ってるんだ。宿屋、お肉屋、お魚屋、冒険者、といった感じでそれぞれお仕事に行ってるの。それで私とヨハンはお休みで買い物に行ってたんだけど、そこでエリーお姉ちゃんを見つけたんだ」
「なるほど。そういうことだったんですね。それにしてもハンナちゃん達は偉いですね。もう働いてるだなんて」
別に悪気はなかった。
颯太は日本人の感性から出た何気ない一言であったのだが、それは彼女の表情を曇らせた。
「ア、アハハ、私達親がいないから……」
「ッ!」
やってしまった、と颯太は慌てて謝罪をする。
「ご、ごめんなさい。私、知らなくて……」
「ううん。大丈夫。エリーお姉ちゃんは何も悪くないよ。それに親はいなくても家族は沢山いるし、親切にしてくれる人も沢山いるから平気だよ!」
心の底からそう思っての言葉なのだろう。
ハンナの顔は嬉しそうに笑っている。
自分達は幸せであると信じている者の目であった。
その目を見た颯太は自分より二回りは小さいであろうハンナを尊敬した。
「そっか……。ハンナちゃんは凄く強い子だね」
「え? そっかな~?」
「うん。強い子だよ」
ごく自然とハンナの頭を撫でてしまった颯太。
いきなり頭を撫でてしまったことに気がついた颯太は急いでハンナの頭から手を離して謝る。
「ご、ごめんなさい! 勝手に触って」
「……もっと撫でてもいいんだよ。エリーお姉ちゃんに撫でてもらうの凄い優しくて好き!」
「え、あ、そ、そう。そ、それじゃあ」
と、再び颯太はハンナの頭を撫で始めた。
頭を撫でられ、猫のように気持ち良さそうにしているハンナであったが、当初の目的を思い出して目をカッと見開いた。
「そうだった! エリーお姉ちゃん。ちょっと待ってて」
「あ、はい」
ハンナは呆然としている颯太を置いて、部屋の中に敷かれている布団を片付けていき、大きな空間を作る。
そこにハンナはいくつかの布団をつなぎ合わせて大人用の敷布団を完成させた。
「エリーお姉ちゃん。怪我が治るまでの間はここを使ってていいよ!」
「え、でも、他の子供達は……」
「大丈夫。理由を話せば皆分かってくれるよ。それに昔みたいに一緒の布団で眠ればいいだけだから!」
「そ、それは他の子達が嫌って言うんじゃないでしょうか……」
ハンナは見た目で言えば十歳前後の少女だ。
もう一人で寝ていてもおかしくはない年頃だろう。
恐らくは彼女と同じくらいの年齢の子がいるはずだと思っている颯太は一人だけ布団を多く使うのを遠慮した。
おずおずとハンナの好意を無碍にしようとしている颯太にずっと静観していたエレオノーラが口を開いた。
『あの子がいいと言っているのですから遠慮する事はないでしょう。それに怪我人を気遣っているのですから、断られると彼女の立場はどうなってしまうのです?』
「(……はい。素直に言う事聞きます)」
エレオノーラの言葉を聞いて颯太は理解した。
ハンナの好意を無下にするということは彼女に恥をかかせるようなものだと。
「ハンナちゃん。ありがとうね。しばらくの間、ここを使わせてもらいます」
「うん! あ、でも、その……もし寂しかったら私が一緒に寝てあげてもいいよ?」
これは彼女なりの気遣いというよりは、先程頭を撫でて分かったのだが、ハンナは颯太もといエレオノーラに母性を感じたのだろう。
『この子は……』
「(お巡りさんに捕まっちまう……)」
『そうですわね。貴方の世界であればロリコンと蔑まれることでしょうね。でも、今の貴方は私の身体ですし、問題はないでしょう』
「(まあ、それもそうか)」
『貴方が欲情しなければの話ですが』
「(こんな子供に欲情なんてするか!)」
颯太はエレオノーラの発言に憤慨した。
自分は断じてロリコンではないと。
「そうだ。ハンナちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいでしょうか?」
「聞きたいこと? なんでも教えてあげる!」
「それじゃあ、私の髪の毛は売れますか?」
「え……?」
いまだにシーツ一枚の素っ裸という貧弱装備の颯太は衣食住の内、住は運よく手にはいったが残り二つはまだである。
そこでエレオノーラが提案していたことを思い出した颯太は髪の毛を売ることにした。
「え、えっと……エリーお姉ちゃんの髪の毛は凄く綺麗だから売れるとは思うけど……」
「もしかして、勿体無いと思ってますか?」
「うん。そんなに綺麗な髪を売るなんてダメだよ……」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、お金も何も持ってない私が出来る事はこの髪の毛を売ることくらいなんです」
「お、お金だったら私達が!」
「それは絶対にダメです。お気持ちは嬉しいのですがそこまでしていただくわけにはいきません」
「でも……」
「心配してくれてありがとう。でも、もう決めたことなんです」
「……わかった。エリーお姉ちゃんがそう言うなら、私は何も言わない」
反対されたが最終的には折れてくれたハンナ。
他人を気遣うことが出来る優しい子に出会えた事に颯太は幸運を噛み締めるのであった。
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