第15話 やっと資金ゲット!

 バッサリと腰まであった髪を切ったエレオノーラこと颯太はハンナに切ってもらった髪の毛を見詰める。


「(おお……。綺麗だな)」

『何を言っていますの。私の髪の毛なのですから当然ですわ』


 公爵家の令嬢として立派に努め、どこに出ても恥ずかしくないように彼女が丹精込めて磨いてきた美の結晶ともいえる髪の毛だ。

 綺麗でないはずがない。


「エリーお姉ちゃん。ショートカットも似合ってるね!」

「ありがとう、ハンナちゃん。それで、この髪の毛なんだけど、どこで売れるか知ってる?」

「う~ん。街の人に聞けば分かると思う」

「それなら、この髪の毛を売ってきてはくれないでしょうか? 私はその……こんな足ですから満足に歩けなくて」


 歩けないのもあるが、単純に颯太は逃走している最中なので身バレするのを恐れていた。

 もしも、正体を知られてしまえば間違いなく追手が来るだろう。

 そうなれば自分もそうだが、ハンナ達にまで迷惑をかけてしまう。

 それだけは何としてでも避けなければならない。


「いいよ。ちょっと、行ってくるね」

「え? これからですか?」

「うん。早い方がいいと思って」

「そ、そうですね。確かに早い方がいいですね」

「じゃあ、ちょっと待ってて。すぐに行ってくるから」

「え、あ……」


 エレオノーラの髪の毛を束ねてハンナは走り去っていく。

 あまりの速さに颯太は止めることが出来ずに、伸ばした手は空虚を掴んだまま下ろした。


「行っちゃった……」

『いいではありませんか。お金が手に入ると思えば』

「まあ、そうだけど……」


 エレオノーラの言う通りなので颯太は文句ひとつない。

 しかし、家に一人きりになってしまった颯太は手持無沙汰になってしまった。

 足がまだ痛むので満足に歩けない颯太は、とりあえず、用意された寝室へ向かい布団の上に座る。


「(これからどうしようか?)」

『丁度いいですから魔法の修練に励んではいかが?』

「(それもそうだな。幻影魔法よりもまずは基本的な魔法を教えてくれるか?)」

『ええ。それでは、しばらく基本属性の魔法について学んでいきましょうか』


 ということで、颯太はハンナが戻ってくるまでの間にエレオノーラから魔法について学ぶのであった。


 ◇◇◇◇


 エレオノーラの教育が良かったのと颯太の異世界での知識が役立ったおかげで基本属性の魔法は難なく習得できた。

 最初はあれだけ苦労したと言うのに、一度理解すれば習得するのは早かった。


「(これから応用、発展していけばいいんだな)」

『そうですわね。とはいえ、そこからが本番ですから気を抜かないように』

「(わかってるよ。俺達にとっては死活問題だからな。しっかりとやるよ)」

『分かっているのならいいです』


 再び、魔法の鍛錬に励もうとしていたらドタドタと大きな足音が聞こえてくる。

 ハンナが帰って来たのだろうかと、颯太は魔法の習得を中断して待っていると、予想通り彼女が顔を出した。


「エリーお姉ちゃん!」


 何を思ったのかハンナは颯太を目にすると迷わずダイブ。

 大人とはいえ女性であるので颯太はハンナを受け止めきることが出来ずに、彼女と一緒に布団の上に転んでしまった。


「「きゃッ」」


 可愛らしい悲鳴を上げながら一緒に布団の上に転がったハンナと颯太。


「あ、ごめんね! エリーお姉ちゃん!」

「大丈夫。それより、どうしたのです? 何かありましたか?」

「あ、うん! はい、これ! 髪の毛を売ったお金だよ!」


 ハンナが懐から取り出したのは小さな革袋。

 見た目はそうでもないがずっしりとしており、見てわかるように重たそうだった。


「もしかして、結構高く売れたんですか?」

「うん! お店の人がすっごいビックリしてた! 出所を聞かれそうになったんだけど、途中でお店に人が聞くのをやめたの。多分、訳アリだって気がついたんだと思う」

「なるほど……」


 恐らくは店主も髪の毛の価値を知り、聞くのが怖くなったのだろう。

 とはいえ、商売人としては見逃せるはずもないので見なかったことにして買い取ったということだ。

 名も知らぬ店主には感謝しかないと颯太は心の中で合掌するのであった。


「これでお洋服や靴が買えるね!」

「そうですね」


 ハンナからお金を受け取った颯太は中身を確かめるとエレオノーラに、これがいくらなのかを尋ねた。


「(これでどれくらい?)」

『日本円で計算すると、十万円はいってるかもしれませんわね』

「(髪の毛が十万円!? す、すげ~!)」

『何を言っていますの! 安すぎるくらいですわ! 私の髪の毛は宝石にも匹敵する価値がありましてよ!』

「(そう怒らなくても……。それに下町なんだから、これが限界だったんじゃないか?)」

『まあ、そうでしょうね。むしろ、ここまで出してくれたことに感謝をしなければなりませんわね』

「(なんでだ?)」

『だまし取られていた可能性もありましてよ? それなのに子供の持ってきた出所不明の髪の毛を買い取ってくれたのですから』

「(ああ、なるほど。それは確かに……)」

『さて、これで資金は確保できましたわ。これから計画を練っていきましょう!』

「(おー!)」


 ようやく復讐に向けて最初の一歩目となる資金を確保した二人は今後の計画について話し合うのであった。

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