第11話 場合によっては彼等も利用しますわ!
二人が会話に花を咲かせていると額に大粒の汗をかいたヨハンが戻って来た。
彼の手には女性用の靴と包帯が握られている。
ハンナが綺麗な布と言っていたが包帯の方が治療目的としてはベストだ。
ヨハンのファインプレーに颯太は内心でサムズアップしていた。
「ハア……ハア……! 靴と包帯持ってきた!」
「包帯なんてあったの?」
「ああ。マリーダ姐さんから貰って来たんだ」
「マリーダ姐さんから? あとでお礼言わなきゃ!」
二人で盛り上がっているが颯太は話についてけず、心の中でマリーダ姐さんという女性に感謝を述べるのであった。
ハンナはヨハンから包帯を受け取り、颯太の足元に移動して颯太が応急処置で巻いていたシーツを剥ぎ取り、丁寧に包帯を巻いていく。
手際のよいハンナに感心した颯太は彼女に話しかけた。
「随分と手際がいいですけど、どこかで習ったんですか?」
「マリーダ姐さんに教えてもらったの。他の子がよく怪我をするから」
「そうなんですね。先程話していた恩人とはもしかして、そのマリーダさんというお方でしょうか?」
「アハハ。そう思っちゃけど違うよ」
「なんか俺がいない間に随分仲良くなってるな……」
颯太がハンナと話しているとヨハンが焼きもちを焼いたようで唇を尖らせていた。
まるで構った欲しい子供のようにしているヨハンを颯太は目にして思わず笑ってしまいそうになった。
「(好きな子には意地悪をするタイプかな。可愛らしいけど、そんなんじゃ嫌われるぞ~)」
『童貞が良く言いますわね』
「(童貞ちゃうわ!)」
『すいません。素人童貞でしたわね』
「(ご令嬢が言っていい事じゃないだろ……)」
『元公爵令嬢ですので問題ありませんわ』
「(そうでしたね……)」
ド直球な下ネタに反論する颯太であるがエレオノーラに口で勝てるわけもなく、完全に言い負かされてしまう。
そもそも記憶を全て読み取られているので勝負の土俵に上がった時点で負けが決まっている。
「(ところでこれからどうするんだ?)」
『この子達にはアジトがあるようですし、マリーダさんという方にも会っておきたいので付いて行きましょう』
「(付いて行くってどうやって?)」
『何もしなくてもいいですわ』
どういうことだろうかと颯太は首を傾げるが、すぐにエレオノーラの言葉の意味が分かる。
「これで大丈夫だと思うけど、治るまではあんまり歩かない方がいいと思う」
「じゃあ、俺達のアジトに連れて行くか?」
「うん。その方がいいよ」
「え、え、え?」
何故か、とんとん拍子に進んでいく話についていけない颯太は頭の中がクエスチョンマークで埋まっていた。
「エリーお姉ちゃん」
「あ、は、はい」
「もう少しだけ我慢してくれる?」
「え、えっと、どういうことなのかちょっと説明してもらえませんか?」
「エ、エリーさんの足が治るまでウチで面倒見ようって話だ。その恰好見る限り、訳アリなんだろ?」
「あ……」
ヨハンの言う通り、颯太は現在シーツ一枚で真っ裸だ。
しかも、裸足で長い間走っていたせいで怪我をしており、よほど鈍感でもない限り、彼女が訳アリだとは気がつかないはずがない。
ヨハンとハンナは颯太が何か訳があって隠れていることを察し、アジトへ案内しようと言っているのだ。
「そ、その迷惑じゃ……」
「さっきも言ったけど迷惑じゃないよ。ただ、そのエリーお姉ちゃんは窮屈かもしれないけど」
「そ、そんな! 匿ってくれるだけでもありがたいのに!」
彼女の口ぶりからして二人のアジトとやらは颯太にとって窮屈な空間なのだろう。
恐らくではあるが、子供達が利用している施設とみていい。
「えっと、その本当に迷惑じゃなければしばらくお世話になってもいいでしょうか?」
「うん!」
「任せとけって!」
何やら、嬉しそうな二人。
颯太としては匿ってもらえるだけ有難いと喜んでいる。
そして、一方で颯太の傍に背後霊として浮かんでいるエレオノーラはよからぬことを考えていた。
『(クフフフ……! 目論見通りですわ。彼は私と違い、純粋な好意に喜んでいるおかげで何も怪しまれない。私であれば演技をしていたでしょうから目敏い子には勘付かれていたかもしれませんからね。あとは、アジトに連れて行ってもらって今後の計画を立てなければ……)』
彼女の目標は復讐。
自分を裏切った元婚約者の王太子、そして泥棒猫である聖女。
この二人だけでなく、自分を裏切った者達にも鉄槌を下すと彼女は誓っているのだ。
場合によっては子供たちすら利用するつもりでいる。
颯太が知れば軽蔑するように冷たい目を向けてくるだろうが彼女は止まるつもりはない。
「ほら、エリーお姉ちゃん。行こ!」
「あ、はい」
「こっちだ。ついてこい」
エレオノーラが一人薄暗い笑みを浮かべている間に颯太はヨハンとハンナの二人に手を引かれて歩き出した。
ヨハンが持ってきた靴は少し、エレオノーラの足には大きかったようで歩きにくいが先程までとは違い、裸足でないのでマシであった。
ただ、出来ればもう少しだけ歩くペースを落として欲しいと颯太はひっそりと思っていた。
「(包帯巻いたとはいえ、足はまだ痛いからゆっくり歩いてくれ~)」
『口にすればいいではありませんか。そのせいで酷くなったのですから』
エレオノーラのもっともな指摘に颯太も閉口する。
「(うぐ……)」
『やせ我慢をすればどうなるかは分かってるでしょう。ほら、早くあの子達に伝えなさい』
足の怪我が悪化したのは颯太がやせ我慢をしていたせいである。
もう一度、同じことを繰り返すつもりかと遠回しにエレオノーラに言われて颯太は反省し、二人にそれとなく伝えるのであった。
「あ、あのすいません。まだ足が痛くて、もう少しゆっくりお願い出来ませんか?」
「あ! ごめんなさい! エリーお姉ちゃん大丈夫?」
「ご、ごめんね」
颯太の言葉を聞いて二人は歩く速度を緩めてくれた。
まだ足は痛いが、それでも歩けるので二人に連れられ、颯太はアジトを目指すのであった。
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