第7話 髪は女の命と仰いますが命と比べたら些細なものですわ!
太陽が世界を照らし、多くの人々が活気に満ち溢れ、街は騒がしくなっていく。
その中、颯太とエレオノーラは太陽から身を隠すように物陰に隠れて、ひっそりと幻影魔法の習得に励んでいた。
「(ふんぬぅッ!!!)」
『力んだところで意味はありませんわ。正しく理解していませんと』
「(そうは言われても……)」
これでも精一杯やっているのだと颯太は愚痴を零すようにエレオノーラに反発するが、彼女は厳しい指導者のため聞く耳を持たない。
颯太は確かに魔法に関しては素人であるが肉体はこの世界でも最高峰のエレオノーラのものだ。
コツさえ掴んでしまえば出来ないことではないはずなのに、何故か上手くいかない。
理由としては、やはり颯太の理解力が足りないせいだろう。
エレオノーラの指導は厳しいが素人である颯太にも分かりやすくなっている。
とはいえ、颯太は魔法とは無縁の世界で生活をしてきていたせいもあって、どうしても上手くいかない。
しかし、無意識下であれば強力な魔法は使えるということは判明している。
ただ、これは単にエレオノーラの体が咄嗟に自己防衛機能として体に染みついた動作が働いた結果であろう。
颯太個人の実力ではない。
とはいえ、颯太の記憶とエレオノーラの知恵が合わさった結果でもあるので一概に颯太が無能ということではない。
『(このままでは不味いですわね……。今はまだ人が少ないからいいのですが、昼頃になればもっと人が増えてしまいますわ。そうなれば、見つかるのも時間の問題。何か手立てを考えなくては)』
幻影魔法の習得に苦戦している颯太の横で彼女は険しい表情を浮かべていた。
今は明朝ではないが、時間帯で言えば仕事が始まるような時間だ。
人通りも増えており、喧騒が増し、仲の良い知人などが挨拶を街中では交わしている。
これから更に人が増え、今隠れている物陰というより路地裏だが、そこにも通行人が現れるだろう。
裏道、近道として利用されているよな場所に隠れているので衛兵には見つからないだろうが、近所の人間には間違いなく見つかってしまう。
触らぬ神に祟りなしとばかりに無視してくれるような人間なら問題はないが、そうはならないだろう。
シーツ一枚に下は裸の美女だ。
大罪を犯した悪役令嬢と言えど、その容姿は一般人とはあまりにもかけ離れている。
邪まな気持ちを抱く者もいれば、憐れんで助けてくれる人もいるだろう。
前者も避けたいが後者も中々に厄介だ。
同情から金銭を恵んでくれる者ならば大歓迎であるが衛兵を呼ばれてしまう恐れがある。
流石にそうなってしまえば詰みだ。
初仕事を逃げ出しているのもあるが、それ以上に公爵家を追放された元令嬢など、どうなるかは容易に想像できる。
『(このまま幻影魔法が出来なければ、オワタですわね~)』
颯太の記憶から読み取ったネットスラングを活用するエレオノーラは傍で幻影魔法の習得に泣き言を口にしながらも、必死に励んでいる自分を見つめる。
「(ハア……ダメだ~……!)」
諦念の息を吐き颯太はその場にしゃがみこんだ。
どれだけ力を入れても魔法は発動しないし、これっぽっちも出来る気がしない。
もはや、ここまでだと颯太は半ば諦めていた。
『何を諦めているのです。まだ出来ないと決まったわけではないでしょう』
「(そうは言うが……出来る気が全くせん)」
『出来る、出来ないかではありませんわ。やるか、やらないかの二択でしてよ。私達には後がありませんの。ここで諦めて何もかも失ってもいいんですの?』
「(うぐ……。そりゃ俺だってどうにかしたいけど、全然上手くいかないし……。そもそも、冒険者ギルドを幻影魔法で欺くって話だけど、大体ああいうのって犯罪歴を調べられたりしないのか?)」
『…………私としたことが忘れていましたわ!』
颯太の言葉にエレオノーラは冒険者ギルドには犯罪歴があるかどうかを調べる魔道具があることを思い出した。
いくら幻影魔法で姿形を偽ったとしても魔道具を誤魔化すことはできないだろう。
いや、もしかしたら出来るかもしれないがぶっつけ本番で試すわけにはいかない。
バレた時のリスクがあまりにも大きすぎる為、エレオノーラは計画の見直しを始める。
『……冒険者ギルドが使えないのであれば計画を白紙に戻します』
「(え、それじゃあ、どうするんだ?)」
『まずは資金を集め、他国へ向かいます』
「(その資金集めはどうするんです? 今、シーツ一枚で何も持ってませんが?)」
『私の体は爪の先から頭の天辺まで価値がありますわ』
「(ま、まさか買春しろと!?)」
『いいえ。確かに私は手っ取り早く処女を捨て、資金を集める為に体を売りましたが、それは最終手段とします』
「(じゃあ、一体何を?)」
『髪の毛ですわ。私の髪の毛ならば売れます』
「(髪の毛っていいのか? 髪は女の命って言われてるのに)」
『構いませんわ。どうせ、髪の毛などまた伸びてきますし。それに丁度いい機会ですもの。殿下に褒められたこの髪を切ることで未練を断ち切るには』
「(……そうか。わかったよ)」
まだ未練があったことにも驚きだが、それ以上に並々ならぬ思いがあったであろうエレオノーラの覚悟に颯太は何も言わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます