第5話 理論と実践は違いましてよ!!!

 容姿端麗、才色兼備、それらの言葉がお似合いなエレオノーラ。しかも、異世界の知識を吸収した事によって、手の付けられない反則級性能になってしまった彼女に憑依している颯太は、何故自分が彼女の元へやって来たのかを考える。


 だが、答えなど出ない。そもそも、どうして異世界に転生したのかも分からないのに、エレオノーラに憑依したことなど分かるはずもないのだ。

 結局、難しい事を考えるのを止めた颯太に出来る事はエレオノーラの復讐劇に手を貸すだけである。


『さあ、善は急げですわ! 冒険者ギルドに行って早速、冒険者登録をしましょう!』

「(今、夜だけど空いてるのか?)」

『冒険者ギルドは24時間体制ですのよ。緊急時に備えていつでも対応できるように』

「(それは登録も可能なのか?)」

『行った事が無いので分かりませんわ。知識として知っているだけですから』

「(なるほど。でも、その前にこの格好をどうにかしないか? 裸にシーツ一枚って流石に不味いだろ?)」

『そうですわね。確かに、その格好は不味いですわ。不審者と思われて騎士を呼ばれるかもしれません……』


 顎に手を添えて思案するエレオノーラと颯太の二人。裸にシーツ一枚という、あまりにも酷い格好をどうしようかと考える。

 服を購入しようにも無一文である上に、今は夜なので店も開いていない。これは困った事になってしまったと頭を抱える颯太。その横でエレオノーラが閃いた。


『すっかり忘れていました。私、最初に言いましたけど悪い意味で有名人ですから、ギルドに登録できないと言いましたよね?』

「(ああ、そうだけど、それがどうした?)」

『その時に考えていたのが変装なのですが、幻影魔法を使おうと思っていましたの』

「(なるほど。幻影魔法で変装か……。いいアイデアだけど大丈夫なのか?)」

『バレたりしないかですの?』

「(うん。下手したら詐欺とか偽装とかで捕まりそうだし……)」

『今更、何を言っていますの。私、聖女を抹殺しようとした悪女でしてよ?』

「(そうだった……ッ!)」


 忘れていたがエレオノーラは乙女ゲーに出てくる悪役令嬢みたいに破滅エンドを迎えてしまっている。だから今、こうして裸にシーツ一枚なのだ。もっとも、裸にシーツ一枚なのは颯太の所為だが、元はといえば彼女が原因である。


『聖女抹殺に比べれば、詐欺など大したこと無くてよ! オーッホッホッホッホ!』

「(ハ、ハハハ……)」


 相変わらず強気なお嬢様に颯太は苦笑いである。


『という訳で、まずは幻影魔法を使いましょうか』

「(幻影魔法はどんな詠唱をするんだ?)」

『詠唱? そのようなもの必要なくてよ?』

「(え? でも、さっき詠唱してたじゃないか)」

『アレはその場の雰囲気に合わせただけですわ。本来、魔法に詠唱など必要ありませんわ』

「(なんじゃ、そりゃ! じゃあ、さっきのは詠唱は適当ってことか!)」

『ええ、そうです。でも、少し興奮したでしょう?』

「(ぐ、む……それは…………はぃ)」


 先ほどの魔法みたいに、また詠唱するのかと思っていたのに実は必要が無い事を知った颯太は羞恥心や童心がごちゃ混ぜになり、騙していたエレオノーラに文句を言おうとした。

 だが、彼女の的確な言葉により撃沈してしまう。颯太は彼女の言っていた通り、あの時、子供のようにワクワクしていたので何も言えなかった。


『ゴホン。では、改めて幻影魔法を使って変装をしてみましょう』

「(はい、質問)」

『なんでしょうか?』

「(詠唱は必要ないって聞いたけど、じゃあ、どうやって魔法を使うの?)」


 さっきは咄嗟だったから深くは考えなかったが、そもそも魔法の使い方を全く知らない颯太からすれば、どのようにして魔法を発動するか分からないのだ。


『先程は適当に言いましたが、身体を動かすのは貴方なのですから詳しく説明しませんとね』


 流石に今回はおふざけなしで真剣な表情を見せるエレオノーラ。颯太も雰囲気が一変したエレオノーラを見て、真面目に聞く態度を取った。


『まず、魔法についてなのですが、最初にしなければならないのは体内を循環している魔力の把握ですわ。それから、魔力を用いて魔法陣を頭の中で構築。そして、発動。これが正しく出来て魔力があれば魔法は誰でも使えます』

「(よくある話ですねー)」


 颯太は自身の知識にもある異世界あるあるを思い出して、エレオノーラの説明を聞いていた。


『まあ、概ね、貴方の知識にあるようなものですから理解は簡単ですわね。後は実践だけですが……そう簡単には行きませんわよ?』


 という訳で早速、実践。

 当然の如く失敗、不発。幸いなことに暴発はしていないので周囲及び颯太には怪我一つない。あるとすれば、颯太が無駄に力んでいたので疲労しているだけである。


「ゼエ……ハア……ゼエ……ハア……!」

『まあまあ、大変そうですこと』

「(おかしい。さっきは使えたのに、なんで今は使えないんだ?)」


 疲れてプルプル震えている颯太は自身の手を見詰める。先程は確かに魔法を放ったはずなのに、どうして今は使えないのかと疑問を抱いていた。


『恐らくですが、先程の魔法は私の体が無意識に刻まれた魔法陣を構築したと思うのです』

「(え? でも、それは既存の魔法でしょ? さっきの魔法は今まで使ったことが無かったんだろ?)」

『ええ。そうですが、私は天才ですから』

「(その一言だけで片付けて欲しくない問題なんだけど……)」

『まあ、そうですわね。魔法が使えないとなると、ギルドに登録できませんし……』

「(何度も練習するしかないってことか?)」

『そうなりますわね。まずは、基本的な魔法から学んでいきましょう。根気良く続けてくださいまし』

「(うっす……)」


 その後、朝日が昇るまで颯太は魔法についての理論をエレオノーラから学び、ひたすらに実践を繰り返すのであった。




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