第3話 今度はこっちの番だッ!

「What?」


 思わず英語で返してしまうほど、混乱している颯太。

 そんな颯太に対してエレオノーラは心底愉快に笑って、彼の疑問を解くべく懇切丁寧に説明するのであった。


『オホホホホ。まあ、混乱するのも仕方がありませんわ。ですが、先程言った通り、私は破滅エンドを迎えた悪役令嬢でしてよ』

「(そ、それってアレだろ? ヒロインに貴族としての礼節やマナーを口うるさく教えてるだけで何も悪い事なんて――)」

『幻想を抱いてるところ、申し訳ないのですが私はガチでしてよ? 貴女で言う所のなんちゃって悪役令嬢ではなく、ヒロインをしようと暗殺者を雇ったり、食事に毒を盛ったり、取り巻きを扇動して不慮の事故に見せかけて始末しようとしたり、色々やりましたわッ!』

「(想像以上に本気ガチの奴じゃねえか!)」

『仕方がない事だったのです。彼女は私の婚約者である王太子殿下に色目を使ったんですもの。許せるはずがありませんわ。私の輝かしい未来を奪おうとする泥棒猫を排除しようとするのは当然ではありません?』

「(いや、まあ、言ってることは間違ってないんだが……流石に殺すのはやりすぎなんじゃ?)」

『何を甘いこと言っているのです。害虫駆除するのに可哀そうだからと慈悲を与えるのですか、貴方は!』

「(極論なんだよな~……)」


 この過激なお嬢様はヒロインがどうしても許せなかったのだろう。

 颯太にはその気持ちが分からないが、とにかくエレオノーラには決して譲れないものがあったのだと理解した。


「(とりあえずさ、君の事詳しく教えてもらいたいんだけど)」

『なんです? もしかして、口説いてるつもりですの?』

「(違わいッ! 君は俺の記憶を呼んで俺の事知ってるのに、俺だけ知らないって不公平だろう!)」

『まあ、そうですが……女性の過去を暴こうなんて無粋だとは思いません事?』

「(現状何も知らないんだから、教えてもらわないと困るんだよ!)」

『貴方、本当に馬鹿ですのね~。先程の話で大体予想がつく筈なのですが……』


 呆れたように溜息を吐くエレオノーラに颯太は苛立ちを覚える。


「(いいから教えろよ!)」

『全く……それが人に教えを乞う態度でして?』


 流石に彼女の人を苛立たせる態度に切れた颯太が打って出る。


「(ああ、そうかよ! なら、俺はここで死んでもいいんだぞ! こちとら、一回死んだ身だ! 二回も三回も変わりはしねえ!)」

『別に構いませんわ』


 あっけらかんとした態度と声に颯太は思わず気圧されてしまう。


「(は? いやいや、この身体は君のものだろう? もし、俺がここで死んだら君は死ぬんだぞ?)」

「(そうだ!)」

『何の確証もないのに、どうしてそう言い切れるんですの?』

「(どうしてって、俺と君は一心同体みたいなもんだから、俺が死んだら君も死ぬのは当然だろ?)」

『あら、そうなんですのね。では、ご自由にしたらいかが?』

「(は? さっきの話聞いてたのか? 俺が死んだら君も死ぬんだぞ!)」

『そう言う貴方こそ私の話を聞いていまして? 私は何の確証もないのに、どうしてそう言い切れるのだと問いましたが、貴方は憶測しか話していませんわ。もう一度、言います。貴方が死ぬと私も死ぬ確証はどこにありますの?』


 ここでようやく颯太は自身の不利を理解した。

 エレオノーラの言うとおり、颯太が死ねば彼女も死ぬという確かな証拠は無い。仮に颯太が死んだところで、エレオノーラも死んだかなど証明できるはずが無い。証明する颯太が死んでいるのだから。


『どうしたのかしら? 急に黙ったりして。あ、もしかして、怖気ついてしまったのかしら? でしたら、私が手伝って上げましょう。さあ、自分に手を向けて。私が魔法の詠唱をしますので、ご一緒に』

「(…………)」


 颯太は口ではエレオノーラに勝てないことを理解した。

 自分は所詮、日本でぬくぬくと育ち、何不自由ない暮らしに甘んじ、流れるように生きてきたのだ。そんな自分が公爵令嬢として厳しく育てられたエレオノーラに勝つことなどあり得ない。


「(申し訳ございませんでした……)」

『……私も少々言い過ぎました。今回は少しだけ反省いたしますわ』


 非を認めた颯太は素直にエレオノーラへ謝罪をするのだった。

 対するエレオノーラも今回ばかりは少し度が過ぎたと反省をし、颯太に頭を下げる。


『話が大分逸れてしまいましたが、私の罪状は聖女を殺害未遂。聖女の慈悲によって死刑を免れ、国外追放。ただし、金銭や地位は全て無し。ですから、私は生きる為にまずお金を稼ごうと、この身を娼館に売ったのですわ!』

「(え? じゃあ、もしかして、さっきのハゲデブオヤジはお客様とか?)」

『ええ。そう言うことでしてよ! ですが、貴方が私の身体を乗っ取った所為で、なし崩し的に私の処女は守られ、勤務早々クビ確定ですわッ!』

「(ほ、本当に申し訳ない」

『いえ、謝る必要はありません。むしろ、感謝しているくらいですわ。あのような男に私の処女を捧げなくて済み、尚且つ、異世界の知識という叡智を貴方は私に授けてくれたのですから! オーホッホッホッホ! この知識を活用して、私を破滅に追い込んだ、あのにっくき女を地獄の底に叩き落してやりますわ~ッ!』


 エレオノーラは転んでもタダでは起きないタイプの女性であった。

 強かな彼女に颯太は恐れ慄き、これから一緒に行動するのを想像して、ほんの少しだけ楽しそうにするのであった。




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