第2話 二人で一つ!

 ようやく落ち着いて話せる場所へやってきて颯太は腰を下ろして、その場に座り込む。勿論、お尻が汚れないようにシーツを下にしていた。


『ここなら、しばらくゆっくり出来ますわね』

「(そうですね……)」

『さて、まずは何から話すべきか迷う所ですが、何よりもまずは自己紹介でしょう。さあ、名乗りなさい!』

「(いや、何で私からなんですか! その流れだと普通自分からだと思うのですが!)」

『貴方、私に救われておきながら口答えする気ですの! いいですわ! どちらが上かこの場ではっきりとして差し上げましょう!』


 と、勇んではいるが彼女に実体は無い。背後霊のようなものだ。喧嘩上等とばかりに拳を構えている辺り、どのような性格か容易に想像出来る。


「(なんでそうなるんだ! とにかく俺は知りたいことが沢山あるんだよ! それを教えてくれ!)」


 思わず、素の口調が出てしまったが、それ以上に颯太は自身の置かれた現状を知りたいのだ。


 どうして、死んだ自分が女性の身体になったのか。

 ここは一体どこなのか。

 そして、先程の魔法アレはなんだったのか。

 わからないことが多すぎる颯太は、現状唯一頼りになりそうな彼女へ頼み込んだ。


『……まあ、仕方がありませんわね。確かに貴方からすれば混乱するのも頷けますわ』


 流石にこれ以上の悪ふざけは度が過ぎるだろう。溜息を吐いた彼女は颯太の身に何が起こったかを全て話す事にした。


『振り出しに戻りますが、まずは自己紹介を。私の名はエレオノーラ・フォン・フェラリオ。オルフェシア王国のフェラリオ公爵の長女ですわ。あ、ちなみに今は元公爵令嬢ですけど』


 と、軽いノリに加えて「おほほほほ」と上品に笑うエレオノーラ。

 それに対して颯太はポカンと口を空けて呆然としていた。


「(えっと、それ何かの設定ですか?)」

『先程の魔法を見て、まだそのような事が言えるのはある意味で尊敬しますわ。しかし、これは紛れもない現実。きちんと受け入れなさい。加賀見颯太』

「(なッ! どうして、俺の名前を!)」


 まだ名乗ってもいないのにエレオノーラは颯太のフルネームを口にした。

 そのことに驚いた颯太はどうして自分の名前を知っているのかと問い質す。


『簡単な事でしてよ。貴方が私の身体に入り込んだ際、記憶も一緒に入ってきたのですわ。それを読み解けば名前くらい造作もありません』

「(全く分かりませんが……もしかして、私って異世界転生しちゃったとか?)」

『先程から敬語になったり、タメ口になったりと忙しいお方ですわね。別にタメ口で構いません事よ。私は一切気にしませんから。それで異世界転生と言いましたわね。貴方はどちらかと言えば異世界転生ではなく異世界召喚に近いですわ。正確に言えば憑依ですが』


 エレオノーラから許しを得たので颯太は敬語を止めて、普段の口調で質問を返すのであった。


「(つまり、俺はエレオノーラの身体を乗っ取ったってこと?)」

『そういう解釈でいいのですが、もっと詳しく言えば私の身体に貴方が入ってきて、主人格である私が一時的に追い出されたという感じですわね』

「(なるほど。じゃあ、エレオノーラはまだ生きてるんだよな?)」

『ええ。ですが、貴方は死んでいましてよ』

「(改めて言われるとキツイな~……)」


 やはり、自分は死んでしまったのだと改めて自覚した颯太はショックを受けて落ち込んでしまう。


『人の身体で辛気臭いツラしないでくださる?』

「(鬼か、テメエは。少しくらい慰めようとしろよ!)」

『人の身体を乗っ取った不届き者に同情する方がいまして? 下手をしたら私の人生は貴方に奪われていたのですよ?』

「(うぐ……それはなんというか申し訳ない)」


 実際、エレオノーラの言う通りなので颯太は何も言い返せない。ただ謝る事しか出来なかった。


『はあ。まあいいですわ。それよりも、貴方の現状について私が知っている限りをお話しましょう。まず、始めに言っておきますが貴方がどうして私の身体にいるのかは知りません。気がついたときにはいたと思ってくださいまし』


 それからエレオノーラはコホンとわざとらしく息を吐くと、話を続けた。


『では、一つ一つ説明していきますから、よく聞いておくように。まず、ここは貴方の知る日本ではありません。もっと正確に言えば貴方のいた世界ではありませんわ。先程の魔法がその証拠です。そして、ここオルフェシア王国は貴方の知識で言えば封建社会、中世ヨーロッパに近い文明、文化です』

「(所謂テンプレか……)」

『ええ、そのように捉えて構いません。さて、次に魔法についてですが基本は貴方が持っている知識にある通りです』

「(ほほう。ところでさっきから俺の知識とか言ってるけど、俺の記憶とか見れたりするの?)」

『勿論。図書館のようになっていて割と便利ね。欲しい知識の所を検索すれば出てくるから楽できていいわ』

「(本当に異世界人か? なんか怪しいんだけど……)」


 怪訝そうに眉を顰める颯太に対してエレオノーラは余裕を見せ付けるように笑った。


『当然、異世界人でしてよ。でも、不思議なんでしょう? 私が貴方の世界の言葉を使っているのが』

「(うん。検索とか普通は出てこないだろ)」

『ふっふっふ。実は貴方が私の身体に入ってきたとき、とても驚かされましたが同時に大変興味深いものが沢山あったので、そっちに夢中になっておりましたの。まあ、そうしていたら貴方は暴漢に襲われそうになってたので、慌てて声を掛けたのですわ』

「(もしかして、最初から見てたわけ?)」

『それは勿論。横目で確認してましたわ』


 つまり、彼女は颯太が後少しで処女を散らすのを黙って見ていた訳である。

 だが、それは同時に自身の処女も失うという事だ。確かに颯太が今は主人格としてエレオノーラの体を動かしているが、あくまでも肉体は彼女の物だ。すなわち、処女を失っていたのはエレオノーラ自身と言えるだろう。


「(後少しで自分の処女を失ってたんだぞ……?)」

『確かにそうですが、私としては別にそれ程重要な事ではありませんわ。むしろ、現状が悪化している事に頭を抱えて蹲りたい気分でしてよ』

「(どういうこと?)」

『そうですわね……。貴方に分かりやすく言えば、私、破滅エンドを迎えた悪役令嬢なのですわッッッ!!!』


 ドカーンッと背後で爆発音でも鳴り響いてそうに彼女は、自信満々に宣言するのであった。

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