第244話 小説『神州纐纈城』を読み始める

 国枝史郎氏の著作『神州纐纈城しんしゅうこうけつじょう』。

 

 存在は知っていたが、未読。

 だが、読まざるを得ない状況に落ちた。

 自作小説の高校生の主人公が、「古書店で文庫本を買った」設定にした為に、私が読まない訳にも行くまい。


 この小説の存在を知ったのは、クレチアン・ド・トロワのアーサー王物語の『聖杯の物語』を読んだ時だ。


 ガウェイン卿が辿り着いた不可思議の城を『纐纈こうけつ城』と訳していた。

 『纐纈こうけつ城』の城主は、実はガウェイン卿の母であり、「城では緑と赤の布を織っている」と云う設定だったろうか。

 訳した方は、この設定から『纐纈こうけつ城』と訳したそうだ。


 その通り、『神州纐纈城しんしゅうこうけつじょう』は、見事な真紅の布を生産しているのてある。

 真紅――と聞いた時点で、嫌な感じがした方も居るだろう。

 その通り、『血染めの布』だ。



 調べると、『纐纈こうけち』は奈良時代の絞り染めの一種だ。

 インド→中国→日本、と伝わったらしい。

 そして『宇治拾遺物語』には、『纐纈こうけつ城』のエピソードが出て来る。

 

 ある高僧が唐の国に渡った。

 仏法を習得するためだったが、唐の役人に追われ、唐の都から遠い場所に、奇妙な館を見つける。

 中を覗くと、人々は瀕死の状態だ。

 

 そこに居る男から、事情を聞く高僧。

 人々は言葉が出なくなる薬を飲ませられているので、地面に書いて貰ったのだが。


 男いわく「ここは『纐纈こうけち城』と呼ばれ、我々から絞り取った血で染めた布を売っている」。


 

 ……これを原典とした『神州纐纈城しんしゅうこうけつじょう』の内容も推して知るべし、だ。

 

 で、 『神州纐纈城しんしゅうこうけつじょう』は、武田信玄に仕える美青年が、町で不思議な老人から真紅の布を買わされた所から始まる。


 夜、その布を見ると、行方不明になった父親の名が浮かんでいた。

 父親は、彼が少年時代に行方不明になっている。

 仮の母親は、彼の父親の弟の元恋人であり、この二人も謎の失踪を遂げている。



 【青空文庫】で、この辺までを読破。

 縦書きで、音声を見上げも出来るのはありがたい。

 昔の作品なので、何度か読み返さないと分かりづらいけど、学ぶべき表現も多し。


 石川賢氏の漫画版もあるので、そちらを読むのも良いかも。

 ただし、独自のアレンジがされている模様。

 原作が未完なので、それもアリだろう。

 氏の作風は、『血染めの布』とも好相性だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る