第173話 二人の男が入れ替わる内容の映画

 ディスクを整理していたら、以前録画した映画『ガタカ』が出て来ました。

 それにちなんで、今回は『二人の男が入れ替わる内容の映画』について語ります。



●【太陽がいっぱい】


 ルネ・クレマン監督作。

 アロン・ドロン主演の、あまりにも有名な作品。

 

 金持ちの尊大な性格の友人を殺害し、彼になりすまして財産も恋人をも奪い取ろうとする青年の物語。

 映像に焼き付けられたトム・リプリー(アロン・ドロン)のギラつく魅力・野心・若さは忘れ難い。

 

 友人の性格も大概だが、その友人を抹殺したトム・リプリーも善人では無い。

 だが、それがいい。

 初見は中学生の時だが、友人のサインを真似る練習をするシーンを、今も鮮明に覚えている。

 

 野沢那智氏の吹き替えで観たが、野沢氏の声がハマり過ぎた。

 ラストシーンで流れるテーマ曲・海辺の風景は強烈に印象に残る。


 原作はパトリシア・ハイスミス氏で、同氏原作の映画作品には『見知らぬ乗客』がある。

 こちらはヒッチコック監督が映画化。

 やはり二人の男が主人公で、片方が殺人を犯して、もう片方に濡れ衣を着せようとする話。

 映画史上初の『交換殺人』を扱った作品らしい。


 列車で知り合った二人の男。

 それぞれが自分の妻に、自分の父親に不満がある。

 そして一人は相手の妻を殺害し、代わりに自分の父親を殺害することを要求する。

 

 この作品のキモは、妻を殺害された男が妻と不仲だったことだろう。

 もう一人の男が彼の意志に沿って、妻を殺害したと解釈も出来る。

 ヒッチコック監督は、彼らに同性愛的な意味をも持たせている。


 『太陽がいっぱい』でも、トムの友人は死しても、トムを追いかけていた。

 その意味は明らかである。


 

●【北北西に進路をとれ】


 このエッセイでも過去に取り上げたことがあるが、改めて。


 あるホテルで、公衆電話を掛けるために立ち上がった独身の中年男。

 すると、見知らぬ男たちに拉致されてしまう。

 男は、(おそらくCIAの)カプランという名のスパイに間違われたのだ。


 何とか逃げ出したものの、公衆の面前での殺人に巻き込まれ、警察も彼を殺人犯として手配する。

 男は謎の組織と警察に追われつつ、自分の潔白を証明するためにカプランを探す。

 しかし、カプランは実在しない。

 カプランは、CIAが敵をかく乱する為に作り上げた架空の人間なのだ。


 しかし、カプランを追う男は何度も敵と接触し、いつしかカプランとしての行動を取っている。

 ミイラ取りがミイラになる例で、架空の男と入れ替わってしまう珍しいパターン。

 

 二つのスパイ組織に翻弄される男を、名優ケーリー・グラントがコミカルに演じている。

 しかし彼は脚本が理解できず「何が起きてるんだ?」状態で撮影していたらしい。

 編集された完成品を観て納得したのだろうか?


 

●【ガタカ】


 ストーリーは、調べれば分かるので割愛。

 

 未来世界で、二人の青年が入れ替わる話だけど、ただ泣ける。

 事故で下半身不随となり、夢を断たれた青年は、出会った青年に全てを託す。

 自分の名前と身分を与えるために指紋・血液・尿などを提供し、当局の検査を擦り抜けさせる。


 夢を託された青年は難関を突破して探査船で宇宙に旅立ち、残った青年は自分の痕跡を消す。

 自分の存在が知れたら、自分たちの夢が絶たれるのだから。

 夢は友に託したから、悔いはない――。


 低予算ながら、未来世界の映像がシャープでかっこいい。

 一見の価値ありです。



●【金と銀のカノン】


 今回のおまけ。

 『太陽がいっぱい』と類似性があるので取り上げる。

 

 宮脇明子氏の漫画で、従姉妹の家で単行本を読んだ。

 対照的な家庭で育った二人の少女が、破滅していく話。


 財閥令嬢の容子は純真で、世の中の悪意とは無縁に成長した。

 一方の真澄は義父と義兄に虐待されて育ったが、天才的なピアノの才能が在った。


 義兄に暴行され、家を飛び出した真澄は、高校受験会場で出会った容子と再会。

 容子を懐柔して、容子の家の養女になり、容子の全てを奪おうと画策する。


 二人は有名校のピアノ科に通うが、真澄は自分の野望のために、容子の母や従兄弟を手に掛けていく……。

 やがて真澄の犯罪に気付いた容子は、初めて『憎しみ』という感情を覚える。


 ドラマ化して欲しいが、内容と鮮烈なラストシーンゆえに無理なのか?

 

 同作者の『ヤヌスの鏡』はドラマ化されているが、こちらは二重人格ながら対照的な少女二人(と言って良いのか?)が主人公。

 

 ダブル主人公で片方が悪意を持っている物語は、傑作が多いと思う。

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