第165話 送る夏 迎える秋の 桜道満ち

 145話で記した、祖父の遺した古い家に行きました。

 目的は、住人の居ない二階部分の壁穴を塞ぐためです。


 煙突の穴は二つあり、一つがスズメさんが巣を作っていた煙突。

 もう一つが、別の煙突を外した後に開いていた壁穴。

 

 後者の穴を塞ぐために、業者さんに依頼していたのです。

 住んでいるマンションから、徒歩で二十分ほどの距離です。

 温かな日差しの午後、ゆっくりと歩いて行きました。


 途中の道端には、色々な草花が繁っています。

 名も分からない白い花、小さな黄色いタンポポ、ラベンダーに似た紫の花。

 ピンク色の秋桜、落ちている松ぼっくり。

 白い蝶、トンボ、スズメにハトにカラス。


 昭和の香りを残す商店。

 錆びた外階段のある古いビル。

 道端の家の向かいの木の赤い実。


 辿り着いた祖父の家の鍵を開け、木製の内階段を上がります。

 窓を開け、風を入れ、スズメさんの巣があった煙突を確認。

 新聞紙を詰めた煙突の向こうは、何の気配もありません。

 

 やがて業者さんが来て、居間の壁穴を塞いで頂きました。

 所要時間は十分ほど。

 あっと言う間です。

 作業終了後、窓を閉めて帰途に付きました。


 来た道を引き返し、のんびり歩きます。


 世界は、不穏な方向にも動いている。

 けれど、いま私が見ている風景は美しい。


 空は青く、風は優しく、陽射しは穏やかだ。


 目の前を飛ぶ蝶は、間もなく空の上に旅立つだろう。

 来年は、その子供たちが飛んでいるに違いない。


 世は移ろい、色を変え、それでも続いていく。

 命は美しい。


 世界は美しい。

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