第130話  『地球へ…』アニメ版の考察

 円盤発売記念と云うことで、三話分だけ再放送した『地球テラへ…』。

 かなり昔に原作は読みましたが、アニメ三話分を観ただけで、原作とは全く別物になっていると察したので、思ったことを記してみます。


 

 原作は――

 マザーコンピューターに支配された世界。

 荒廃した地球を復興させるため、人類の大半は銀河系の植民星に移住し、地球には一部のエリートだけが住んでいます。


 しかし、植民星で生まれた子供たちはそれを知りません。

 人口受精で産まれた彼らは、一般人の教育を受けた養父母に託され、地球で生きていると教えられます。

 そして十四歳に達した時に『成人検査』を受け、真実を知らされると同時に記憶の殆どを消され、地球復興のために働く人間としての再教育を受けます。


 主人公ジョミー・マーキス・シンも植民星で成人検査を受けますが、それを妨害して助け出したのが『ミュウ』の指導者ソルジャー・ブルー。


 『ミュウ』は少数人類で、虚弱ながらも超能力を持つ長寿種です。

 マザーコンピューターは、地球への帰還を望む異分子たる『ミュウ』の抹殺を謀っています。


 三百年を生きて来たソルジャー・ブルーにも寿命が近付いており、健康な体と精神を持つジョミーに後を託して息を引き取ります。

 ジョミーはブルーの意思を受け、『ソルジャー・シン』として地球への帰還ほ目指します。


 その前に立ち塞がるのが、キース・アニアン。

 人類の指導者になるべく育成された『人間』です。

 彼に接する友人も、全てが選抜された者。

 キースの不安すらも。マザーコンピューターの計算の内です。

 彼の前に現れた、制度に反対する学生シロエも。

 キースはマザーの命令のままにシロエの乘った宇宙艇を破壊し……涙を流します。


 ジョミーとキースの対決は近付きます……。



 原作はこんな感じですが、映画『マトリックス』と似ています。

 『マトリックス』が後発なので、そっちが似ていると言うべきでしょうが。

 強大なコンピューターに管理される人類、の図はそのまんま。


 

 ところがアニメ版『地球へ…』は趣きが違います。

 人々は、機械に管理されていることを自覚しているようです。

 終盤のジョミーの養父の台詞に「今の体制が正しいとは思っていない」とあったので、機械の管理下にあることに甘んじているようです。


 原作でも人々はコンピューターに語り掛け、時には不安を取り除いて貰います。

 しかし、疑問は持ちません。

 疑問を持ったとしても、それは即座に消去されます。


 アニメ版では、人々は体制に疑問を持ちつつも従っています。

 ジョミーの同級生の女性は記者になり、体制の情報を追うオリジナル展開もありますが、原作では在り得ません。

 

 

 中盤では、惑星ナスカに住み着いた一部のミュウたちは惑星ごと抹殺されます。

 キースの冷徹な作戦を目の当たりにし、「これは軍人の戦いじゃない」と良い人になったキースの先輩もオリキャラですが、これも原作では在り得ません。

 そんなことを口に出したら、抹殺されかねません。


 アニメ版は、原作とは全く違う物語になっていることが分かります。

 『ミュウ』たちが『謂われなき支配』から脱し、生き延びて故郷に向かおうとする物語が、アニメ版は『コンピューター支配VSそれに疑問を持つ人類の戦い』に変化しています。

 

 原作では、キースの最期付近の台詞に「彼らは生きた。誰の助けもなく」とありました。

 私が読んだ版では、そうです。

 ところがアニメ版は、真実を見抜こうとする人間たちがいます。

 それが小なりとも『ミュウ』たちの助けになっています。

 キースの先輩に至っては、戦艦で副官の恋人と特攻する有り様。

 

 アニメの話数の関係か、表現の問題か知りませんが、この改変には疑問です。

 改変せざるを得なかった事情があるかも知れませんが、原作のテーマが薄れてしまったのは残念です。


 驚愕したのが、ソルジャー・ブルーがナスカ破壊の時点で生存していたこと。

 アニメ版では、ナスカ破壊をピーク(折り返し地点)にして『指導者ソルジャー』交代としたのでしょうが、良く分からない改変です。


 

 色々書きましたが、アニメ版の『地球へ…』を否定しません。

 前にも記した『記者の女性が乗ったロケットへの攻撃をやめるトォニィ』とか『嫌味なキースの先輩』のエピソードとか、印象に残るシーンがあるからです。

 キースに美少年の部下追加、なんかも楽しい。

 キース自ら選んだのか、と想像するとニヤリとします。


 原作との違いも面白いですが、いつか原作に忠実な『地球へ…』のアニメを観たいです。

 

 なおアニメ版のラストは覚えてませんが、原作版のラストは大好きです。

 

 さらに時が過ぎた未来――。

 伝説の星となった地球を目指す宇宙船が、偶然出会います。

 植民星の人類の子孫で、地球への思いゆえに、家族で出立した人々です。

 それぞれの宇宙船で生まれた少年と少女は……互いが、遠い過去の記憶を持っていることに気付きます。

 二人の中に浮かぶのは、ジョミーやフィシス、シロエたちの姿。


 この二組の家族が出会うシーンが好きなのですよ。

 その後に続く『2001年宇宙の旅』を思わせるラスト。

 深い余韻が残ります。


 忘れ難い、紛れもない傑作です。

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