第128話 ケルト神話における妖精姫

 現在執筆中の『幽空のベスティアリ』は、ケルト神話を参考にしているエピソードも多いです。


 以下は、その挿話です。

「間章 マリレーネ・ルルドの物語 2話 妖精の乙女」より



 騎士グエンが海辺にいると、小舟に乗った美しい乙女が近付いて来ました。

 乙女はグエンに真っ赤な林檎を手渡し、去って行きました。

 その林檎はとても甘く、かじってもかじっても減りません。


 仲間の騎士たちは、「それは妖精の林檎だ」と言います。

 妖精の林檎を食べると、妖精の国に連れ去られるのだと。

 仲間たちはグエンから林檎を取り上げ、土に埋めました。

 しかし翌朝には、林檎はグエンの枕元に戻っていました。

 

 三日後、グエンは「歌が聞こえる」と言って、城を出ました。

 仲間たちが追うと、グエンは波打ち際にいました。

 小舟に乗った乙女が、近付いて来ます。

 仲間たちは剣を抜こうとしましたが、剣は鞘から離れません。

 

 グエンは仲間たちに別れを告げ、小舟に乗りました。

 小舟はすぐに波打ち際を離れ、見えなくなりました。

 砂の上には、枯れた林檎の芯だけが残っていました。



 

 これは、ゲルト神話にある物語にアレンジを加えています。

 元々の主人公は王子だったかな?

 最後の「枯れた林檎の芯」のくだりだけは、私が付け加えました。


 林檎は『アヴァロンの島』の象徴で、小舟の乙女は『アヴァロンに住む妖精』なのでしょう。

 ケルト神話における『妖精の住む異界』は、海や水と関わっています。

 

『ブランの航海』では、航海中のブラン一行が最後に辿り着くのは『女人の国』であり、トリスタンは『船』で、イゾルデの国に辿り着きます。

 イゾルデの名は『女神アドシルティア』が由来らしく、彼女の原型も人ならぬ存在です。

 

 今わの際のアーサー王を迎えに来るのは「舟に乗った異父姉モーガン・ル・フェイと四人の王妃」たち。

 ランスロットは湖の底の館で、妖精の貴婦人に育てられます。



 ケルト神話における妖精は、どうも等身大の美女らしいです。

 彼女たちは水に囲まれた異界に住み、美しい男性を見染めては引き留めようとする妖女でもあります。


 アーサー王の妻のギネヴィア王妃も、大地母神の化身かも知れません。

 神話的に言えば、女神と結婚した者が『王』であり、老いた『王』を倒した者が、次の『王』です。

 ですから、ギネヴィアが若いランスロットを寵愛し、アーサー王の庶子たるモードレッドがギネヴィアとの結婚を謀るのは不自然ではありません。


 アーサーが十五歳で王位に着いた時は、ランスロットは赤子だったので、二人の年齢差はひと回り以上あります。

 ランスロットの父バン王は、アーサー王と同盟を結んでいました。

 アーサー王のログレス王国平定に助力した後に、故国のフランスで戦死し、ランスロットは妖精の貴婦人の手で連れ去られるのです。


 私は、アーサー王とランスロットは『疑似父子関係』と見ています。

 十七歳に成長したランスロットを見たアーサー王は、亡き戦友の息子と知り、歓迎したでしょう。


 しかし、王はランスロットの騎士の叙任式で剣を忘れ、それを悟ったギネヴィアは自ら持参した剣で、ランスロットを騎士に叙任します。

 こうしてギネヴィアはランスロットの主君となり、悲劇が幕を開けます。



 なお、『ブランの航海』ではブランたちは『女人国』からの逃亡に成功し、故郷に帰ります。

 ブランたちの到着を知った村人が船着き場に集まりますが、誰もブランたちを知りません。

 ブランたちは「ずっと昔に旅立ち、帰って来なかった」と、村の伝説になっていたのです。


 するとブランの仲間の一人が、たまらずに地上に飛び降りました。

 彼はたちまち灰になり、それを見たブランたちは船を沖合に出し……二度と彼らの姿を見た人間は居ませんでした。


 ブランたちは『女人国』に戻ることが出来たのでしょうか?

 これもまた、悲劇的な終わりを迎えた物語です。


 妖精の貴婦人に出会った男は、その袖許から離れてはいけない。

 離れて死ぬか、老いて見捨てられるか――


 その残酷さゆえ、惹き付けられるのが『神話』や『伝説』なのでしょうね。

 いつか、アーサー王伝説を元にした物語を執筆したいです!

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