第39話 戦場の恋人リリー・マルレーン
「リリー・マルレーン」――。
この名を知ったのは、中学生の頃にテレビ放送された同タイトルの映画です。
途中から観たし、当時は内容を深く理解するに至りませんでした。
第二次世界大戦の頃の女性歌手の話と理解したのですが、印象に残っているのは、女性歌手の伴奏者のピアニストの男性が徴兵され、戦場で呆気なく死ぬシーンです。
そしてラストシーン――女性歌手は夫?と再会するも、夫には恋人がいて、女性歌手は背を向けて去って行く。
誰かが彼女の背に向かって叫ぶ――「どこに行くんだ、リリー!?」
上記は私の記憶なので、実際の映画と異なっている部分(特にラストシーン)があるかも知れません。
そして私が「リリー・マルレーン」と再会したのは、高校生になってからです。
バスターミナル付近にあった古書店で見つけた本。
タイトルは「リリー・マルレーンを聴いたことがありますか」――。
著者は鈴木明氏で、現在は電子書籍で読めるようです。
本を見つけてから、すぐに購入して帰宅しました。
それは、あまりにも劇的な内容でした。
第二次大戦中に、全ての兵士たちに愛された歌「リリー・マルレーン」。
若い兵士が、故郷に残した恋人リリー・マルレーンを想う歌です。
これを歌ったのは、ドイツ人歌手ララ・アンデルセン。
そしてアメリカに亡命したドイツ人女優マレーネ・ディートリヒ。
著書には「当時のララ・アンデルセンにはユダヤ人の夫がいた」と書かれていたような気がしますが、本が手元に無くて確認できませんでした。
売れない歌手だったララ・アンデルセンが吹き込んだ「リリー・マルレーン」。
しかし戦争が始まり、「リリー・マルレーン」はドイツで大ヒットします。
一躍スターになった彼女ですが、ナチスの宣伝相ゲッペルスは、この感傷的な歌を危険視しました。
故郷の恋人を想う歌は、兵士たちの士気を削ぐと考えたのでしょうか。
ドイツでは「リリー・マルレーン」を流すことは禁止され、ララ・アンデルセンも行動を制限され、自殺未遂にまで至ります。
15歳の長男も軍に招集されました。
ララ・アンデルセンは残された二人の子供とともに、孤島に移り住みます。
けれど――戦場の兵士たちから「リリー・マルレーン」を奪うことは出来ませんでした。
ドイツ軍兵士たちの歌声は、敵対する連合軍兵士たちにも届き、家族を残してアメリカに亡命したマレーネ・ディートリヒが「リリー・マルレーン」をカバーします。
鈴木氏の著書には、戦場を慰問したマレーネ・ディートリヒの写真が掲載されていました。
イギリスでは、ヴェラ・リンと云う女性歌手がカバーしています。
他にも多数の歌手たちがカバーし、リリー・マルレーンは戦場の兵士全ての恋人となりました。
故郷への想い、故郷に残した妻・恋人の象徴として――。
そして、この本の著者の鈴木氏のすごい所は、ララ・アンデルセンの歌声を求めて海外まで渡ったことです。
当時は。レコードの時代。
古い歌で、日本では無名のララ・アンデルセンの「リリー・マルレーン」は聴けませんでした。
鈴木氏はヨーロッパまで行き、ついに日本では幻のレコードを見つけ、歌声を耳にされました。
マレーネ・ディートリヒの来日コンサートに行き、御本人から紙面インタビューもいただいています。
その思いの強さと行動力には、感動しました。
ちなみに、かなり前に動画検索し、ララ・アンデルセンとヴェラ・リンの歌声を聞いたことがあります。
さらに検索すると、映画「リリー・マルレーン」でララ役を演じられた女優のハンナ・シグラさんが、歌謡祭らしき場で「リリー・マルレーン」を歌う映像も出てきました。
この方は、映画撮影以降にシャンソン歌手としても活躍されているようです。
映画の中での歌声も、御本人のものなのでしょう。
後に、やはり古書店で映画のパンフも発見し、購入しました。
表紙は、出征するピアニストに別れを告げるララ(ハンナ・シグラ)のアップ。
切ないシーンです。
「リリー・マルレーンを聴いたことがありますか」は名著なので、電子書籍版があるのは嬉しいことです。
余談ですが……絶版になってしまったアーサー王伝説を描いた「アヴァロンの霧」と、その前日譚の「聖なる森の家」も電子書籍で復刊して欲しいです。
このシリーズは「聖なる森の家」の後を描いた「アヴァロンの淑女」「アヴァロンの巫女」があるようなので、邦訳して欲しいなあ……。
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