第109話 重い話は嫌いだよ

 ロイスの母はテトラにそういったきり、しゃべらなくなった。


 そしてテトラだが、頭を抑えながらうずくまった。


 俺たちはテトラをベッドに乗せる。


 ミーアとシャーロットにテトラを診といてもらい、俺は別の場所でロイスと話した。


「サーシャって誰ですか?」


「うちにも妹だよ」


「妹? まさかそれがテトラ……?」


「いや。彼女とは似ても似つかない。僕と同じ金髪碧眼の子だし」


「……そうですよね」


 テトラとロイスは似ても似つかない。


 この二人が兄妹とはどうしても思えない。


 じゃあ、あの女性が言ったのはなんだったんだ?


 それとテトラの涙は?


 もうわけがわからんよ。


「ちなみに妹さんはどこに?」


「死んだよ」


「……え?」


 マジか……。


「そんな暗い顔しないでよ。もう昔のことだし、いまはもうなんとも思ってないから」


「……はい」


 とはいってもなぁ。


 まああんまり話題にしないほうが良いんだろうな。


 あの女性がテトラを娘と勘違いしたのも、娘が帰ってきて欲しいっていう願望かな?


 それだったら切ない。


 まあこれに関しては考えてもしょうがない。


 俺たちがなんとかできる話も出ないし。


 俺はロイスの部屋で泊まることになった。


 女性陣はもともと妹さんが使っていた部屋を使うことになっている。


 俺たちみたいな身元不明の連中を泊まらしてくれるなんて、マジで懐が深いな。


「色々とありがとうございます。宿とるのも面倒だと思ってたから助かります」


「とんでもない。実は僕にも下心があってね」


「え……まさか俺の体目当てで……」


 だから女の子と付き合ってなかったのか?


 マジか……。


 俺はいま狙われているのか。


「違う、違う」


 ロイスがブンブンと手を横に振る。


 良かった。


 ロイスはいいヤツだけど、さすがにそういう関係になるのは抵抗あるし。


「英雄の子と一緒にいられて嬉しいってこと」


「あ、なるほど? ずっと気になってたんですけど、父上……シアン様はなにをしたんですか?」


「昔、この街で連続誘拐事件があってね。そのときに事件を解決してくれた人なんだ」


「誘拐事件?」


「うん。若い子たちが次々と誘拐されていったんだ。騎士団が調査しても、行方がつかめず、困っていたところにシアン様が現れた」


「へー、なるほど」


 あの人が人助け?


 なんか違和感がある。


「シアン様が敵にアジトを突き止め、ひとりで敵の壊滅させたんだ。あのときの戦いは今でも語り継がれるくらいだ。黒いローブを着た連中をシアン様の神級魔法でバッタバタ倒していったからね。今でも思うけど、シアン様以上の魔法使いはこの世界にいないんじゃないかな?」


「たしかに……」


 個人で神級魔法使えるとか、マジでバケモンでしょ。


 むしろあれ以上がいたらビビるわ。


 でも、やっぱりあの人が人助けするとは思えないんだけど……。


 人には裏表あるってことかな?


 俺の知らない父上いても不思議じゃない。


 不思議じゃないけど……意外だ。


「それで、誘拐された子どもたちはどうなったんですか」


「死んでたよ。ひとり残らずね」


「……え?」


「実は僕の妹も誘拐された一人なんだ」


「……」


 重い。


 話が重すぎる。


「僕はその場を見てないんだけどね。全員、魂が抜けたようになっていたらしいよ」


「それは……」


 なんと言って良いのかわからん。


 にしても重すぎる。


 もう空気がどよーんってなってる。


「あははっ。そんな深刻な顔しないで。もう過ぎたことだし。それよりもお腹減ってないかい?」


「え、まあ……」


 朝から何も食べてない。


 もうお腹と背中がくっつきそうだ。


「じゃあご飯でも食べに行こうよ。他の子達も連れてさ」


「そうですね……って、そういえば仕事はいいんですか?」


 いまさらな気がするけど……。


「今日の午後は非番なんだ。問題ないよ」


 あ、そうなんだ。


 良かった。


 それから少し休憩した俺たちは街へ食べに出かけることになった。


 テトラは体調が悪いらしく、部屋に残ってるらしい。


 なんか食べ物勝ってきたほうが良さそうかな?

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