第108話 涙

 その後、俺は解放された。


 そしてミーア、テトラ、シャーロットとも合流する。


 なんだかんだあったけど、みな無事だったようだ。


 良かった。


 町にも無事たどり着けたし、結果オーライかな。


「まさかシアン様の子だったとは……。すまないことをしたね」


 俺の取り調べをしていた青年が頭を下げてくる。


 なんでもこの土地はフォード家の者によって救われたらしい。


 ちなみにシアンというのは、父上のことだ。


 なぜかこの地を訪れ、人々を救済したらしい。


 え、あんた俺のこと殺そうとしたのよね?


 どいうこと?


 まあでも俺たちは、そのおかげで解放されたようだし。


 うん、結界オーライだ。


「いえいえ。俺たち何も気にしてませんよ」


「そういってもらえるとありがたい」


「代わりに一つお願いがあるんですけど」


「なんだい?」


「宿紹介してくれません? 今日、泊まるところなくて」


 ちなみにお金ならある。


 シャーロットのアイテムボックスの中に、売れそうなものがいくつかあった。


 それを換金すれば、しばらくの旅代にはなるだろう。


 まあそれでも足りなくなったら、冒険者でもやろうと思っている。


「……そうか。なら、うちに泊まっていかないか? ちょうど部屋が空いてるんだ」


「え、いいんですか?」


「もちろん」


 俺はテトラ、ミーア、シャーロットを見る。


 みんな異論はないようだ。


 まさか、この人が下劣商人のような悪人なわけもないし。


「じゃあお願いします」


 というわけで、俺たちは青年の家に向かった。


 歩きながら、青年のこと教えてもらった。


 青年の名前はロイスというらしい。


 歳は俺たちよりも少し上。


 若いけど、副隊長を任されてるらしい。


 ちなみに騎士団と言っても、いくつかの隊があり。


 ロイスの隊は、国王によって見出された特殊な部隊なんだとか。


 そこからシャーロットがロイスと話始めた。


 俺は一歩下がり、ミーアと並んで歩く。


 町は亜人ばかりけど、人間もいるし、他の種族だっている。


 多種多様な人種が共存している。


 俺たちの国では見ない光景だった。


 違う国に来たんだな、と実感させられる。


「いろんな種族がいるんだな」


「そうですね」


「俺たちの国もこうなればいいんだけどな」


 そうすればミーアももう少しは住みやすくなると思う。


「私はアランくんがいれば、どこでも問題ありませんけど」


 お、おう……。


 ど直球だな。


「ミーアは魔族の森に行く気はないのか? 同胞がいるんだろ?」


「いまさら私がいったところで門前払いでしょう。それに私の居場所はもうそこにはありませんから」


 まあ、そうなるわな。


 魔族は排他的な種族って聞くし。


 人間と魔族のハーフであるミーアだと、なおさら受け入れられないだろう。


 むしろ、こういう多種多様な人種が暮らす街のほうがミーアにとっては住みやすい気がする。


 にしても人間以外の種族なんてめったに見んからなー。


 つい見ちまうぜ。


 突如、俺はくいくいと服を掴まれた。


 後ろを向く。


 テトラが俺の服を掴んでいた。


「ん? なんだ?」


「胸がざわざわします」


「どういうこと?」


「わかりません」


 テトラが胸を抑える。


 無表情ながら、何かを感じているようだ。


「わからないって……なにがわからないんだ?」


「この場所、初めてくるはずなのに、なぜか見覚えがあるんです」


「昔、ここに住んでたってことか?」


 テトラはどこかから連れてこられた子だ。


 昔、ここに住んでいた可能性もある。


 テトラが首を横に振る。


「わかりません。でも、私はここを知っています」


◇ ◇ ◇


 結局、テトラの話はよくわからなかった。


 そもそもテトラに関してはわからないことが多すぎる。


 もともと白い部屋で育ったということは聞いた。


 でも、フォード家にくるまで、その場所から出たことはないらしい。


 つまり、ここらへんに住んでいたとは考えられない。


 まあそこらへんはおいおい考えることにしよう。


 俺たちはロイスの家についた。


 さすがは騎士団副団長。


 良い家に住んでいらっしゃる。


 といっても、俺の実家やシャーロットの実家と比べると、小さいんだけどね。


 でもロイスはもともと平民だ。


 それを考えると、普通に裕福な家だと思う。


 家に上がらせてもらう。


「ロイスさんは一人暮らしなんですか?」


「いや、母と二人で暮らしてるよ」


「彼女さんは?」


「ははっ。そういうのには無縁の人生だよ。ぜんぜんモテないし」


 うそつけ。


 どうみてもモテそうな外見してるだろ。


 それも騎士なんて安定した職業、モテないわけがない。


「良い人とかはいないんですか?」


「いないかな。騎士団の仕事も忙しく、なかなか時間もとれないし」


 あー、なるほど。


 忙しいから彼女を作る時間がないと。


 こういうやつが、ちゃっかり彼女作って結婚すんだよな。


 俺だってはやく彼女作りてぇ。


 リビングではぼーっと座っている、50代くらいの女性がいた。


「えっと……」


 俺が言葉に迷っていると、ロイスが言った。


「うちの母だ。ずっとあんな感じでね」


 ふと女性がこっちを向く。


 目線がテトラで止まる。


 そしてつぶやいた。


「おかえりなさい、サーシャ」


 その途端、テトラの表情が急激に変化した。


 初めてみるテトラの表情の変化だ。


 驚いた。


 まさかこのタイミングで表情が変化するなんて。


 そしてテトラの瞳から一粒の涙がこぼれた。

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