第103話 そんな目で見ないでくださいよー
「なにしてんだ? あんた」
俺はこそこそと動き回っていた狼男に言う。
すると、狼男が弾かれたように振り向いた。
「みんながよく眠れているか確認しにきただけっすよ」
狼男が言い訳するように言う。
「あー、そういういいから。もう全部バレてるから」
「バレてる?」
「その手に持ってる首輪はなに?」
「これは……」
狼男が目を泳がす。
バレバレだろ。
こいつ、頭は悪そうだな。
「そもそも最初から怪しかったんだよ。あんたらの言動が」
「……えと、なんことっすか?」
狼男はまだしらを切るつもりらしい。
この状況で言い逃れができると思ってるのか?
「もう隠さなくても良いって。お前らの会話、全部盗み聞きさせてもらったからな。な、ミーア」
「はい、アランくん」
ミーアが布団からパッと起き上がる。
「な……!?」
狼男が目を見開く。
同時に、シャーロットとテトラも起き上がっていた。
「魔族って耳がいいから、そういうの聞こえちゃうんだよね」
正確には
それも、聴力がずば抜けているミーアだからできたことだ。
「……バレたら仕方ないっすね。あんまり手荒な真似はしたくないっすけど、あんたらには大人しくしてもらうしかないっす」
「俺らが大人しくするとでも?」
「オレは、こうみえてもB級冒険者になった男っすよ?」
「B級ってしょうもな。せめてA級取ってからいえよ」
こちらの国が俺たちの国と同じシステムなら、冒険者ランクはFからSまであるはずだ。
B級ってのは上から3番目のランクだ。
そこそこの実力者だと考えていい。
ただ、この狼男から、そこまでの強さを感じられない。
「舐めたら痛い目見るっすよ」
男がそういって身体強化をし、動き出そうとした。
その瞬間。
「
「な……!?」
男の顔が驚愕に染まった。
「なぜ動けない? とでも思っているのかしら?」
シャーロットがそういう。
男が首を動かしてシャーロットを見る。
「あなたを結界で拘束させてもらったわ」
「結界!?」
「それなりの結界だから、簡単には解けないわよ。あ、でもB級冒険者様なら解けるかしらね?」
シャーロットが狼男を煽る。
ひゅー、カックイイ!
「馬鹿にするなっす!」
狼が「うおおおおおお!」と雄叫びを上げ、結界を破ろうとするが、。
「な、なぜだ……。なぜ解けないんすか……」
「ふふ。空間魔法も使った結界だからね。あなたが三流なら解けないわ」
「くそっ、なんでそんなバケモンがここにいるんすか……」
狼男が絶句した。
まあ気持ちはわかる。
さすがにシャーロットはチートだ。
空間魔法と結界魔法を組み合わせたチート級魔法を一瞬で発動するなんて、明らかに学生のレベルを超えている。
「じゃあ、色々と吐いてもらうぞ?」
俺は結界に閉じ込めらた狼男に言った。
狼男はまるで羊のように小さな悲鳴を上げて、俺たちを見てきた。
やだなー、オオカミさん。
そんな目で見ないでくださいよー。
◇ ◇ ◇
そもそも彼女は奴隷ではない。
もともとは孤児院で暮らしていた。
親はいないが、優しい院長や楽しい仲間と一緒に毎日を過ごしていた。
しかし、気がつけば変な屋敷に監禁されていたのだ。
そして奴隷につけるような首輪を付けられた。
外に出されると、魔物が闊歩している場所に武器もなく放り込まれた。
だが、その身体能力も身体強化があって初めて成り立つものである。
魔法封じ首輪のせいで、彼女はまともに身体強化が使えなかった。
それでもなんとか森の中から逃げ出し、草原に出ることができた。
しかし、そこで彼女の体力は尽きた。
絶体絶命のとき、四人組に助けられた。
しかし、恩人の彼らを屋敷に連れ込む形になってしまった。
申し訳ない気持ちにもなる。
だが、そんな後悔もままならないうちに、彼女は再び魔物が闊歩する森に放り込まれた。
どうやらここの主人は、彼女を生かすつもりはないらしい。
少し延命したにすぎない。
ここにいる魔物は、彼女と同様、首輪を付けられていた。
おそらく、それによって無理やり従わされているのだろう。
子供を魔物に襲わせて愉しむという悪趣味な場所で、少女は身体強化も使えない体で逃げ回っていた。
しかし、ずっと走り続けた体はすでにボロボロ。
そんな中、緑肌の醜悪な外見の子鬼、ゴブリンの集団に出会ってしまった。
身体強化がつかない状態では、一匹のゴブリンすら倒せない。
「はあはあ……」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
ゴブリンが近づいてきた。
彼女は後ずさる。
かかとがつるに引っかかる。
「うわっ……」
少女は尻もちをつく。
そのときに足を捻ってしまった。
そして――
「ぐぎゃががが」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
「ぐぎぎぎぎ」
彼女はゴブリンの集団に囲まれてしまった。
その数、10体以上。
ゴブリンはどの種族とも交尾をしたがり、少女が捕まればただでは済まされない。
そしておそらく、ここの主人はそういう行為すらも楽しんで見ている。
「イヤ……」
ゴブリンたちが徐々に少女との距離をつめてくる。
「余興にしては随分と楽しませたもらったよ」
森の中からでっぷりした男が現れた。
「ふぉーほっほ。やはり、狩りは楽しいのぉ」
男がでっぷりとした腹をさすりながら、下品に笑う。
「では、最後の絶望した顔でも見るとしよう」
男がそういった瞬間だ。
ゴブリンたちの顔がより醜悪なものに変わった。
そして一匹のゴブリンが少女の着ていた布のような服を掴み、剥ぎ取ろうとした。
と、そのときだ。
――ボワッ。
少女の目の前のゴブリンが燃えた。
「ぐぎゃああああああああ!」
同時に、ゴブリンたちも後退りしだす。
「な、なにが起こっている!?」
でっぷりとした男が周りに視線を巡らす。
しかし、次の瞬間。
――ボワッ、ボワッ、ボワッ、ボワッ……。
彼女を囲んでいたゴブリンたちが次々と燃えていった。
ゴブリンたちが狂ったように踊りだす。
「狩りって、楽しいですね」
少年の声が聞こえてきた。
彼女は振り向く。
そこには茶髪の少年がニヤリと笑って立っていた。
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