第102話 狼男

 高級な壺や絵画が無造作に置かれた部屋。


 壁には金箔が張られており、見栄と欲望が透けて見える。


 主人の性格をよく表しているような部屋だ。


「ふぉーっほっほまた良い獲物が入りおったわ」


「そうっすね」


 狼男が頷く。


「最近騎士団の連中が嗅ぎ回ってるようっすが……あいつらその可能性あるんじゃないっすか?」


「あんなガキどもが騎士団なわけなかろう」


 男が呆れ混じりに否定する。


 男は狼男のことを、腕っぷしが強いだけの無能だと考えている。


「それに騎士団とて私に手出しなどできまい。ここは魔族の森を真似した特殊な結界になっておる。外から簡単には入ってこれぬよ」


「そっすか」


「今夜の宴は楽しみだな。新鮮な魔物も連れてきた。さぞ見世物になるだろう」


 男がでっぷりとした腹を擦りながら、ワインを嗜み。


「それでやつらはもう寝たか?」


「はい。もうぐっすりと」


「ふははははっ。部屋に催眠の魔術がかかっているなど夢にも思うまい。あやつら、どうやら魔法が使えるようじゃが、所詮ガキよ。全員、魔法封じの奴隷首輪を付けておけ。念のため、一番よいやつをな」


 奴隷の首輪。


 冷たい金属の首輪であり、正面には大きな輪っかがる。


 その輪っかに鎖を通すようにできている。


 首輪にもいくつか種類があるが、魔法使い用のものは魔法封じの術式が組み込まれている。


 こちらの国では、魔法封じの術式は一般に売られているものであるが、高価なことに変わりはない。


 また魔法封じの術式は干渉魔法を使っているが、術者の能力によっては、意味をなさない可能性もある。


 そのため、高次の魔法使い用の首輪には、ちみつな魔法封じが施されており、その分値段も跳ね上がる。


 男は自身が持っている最も高価な首輪をアランたちの首にはめようと考えている。


「了解っす。ところで、猫人族ワーキャットのガキはどうします?」


「そうだな。ガキどもの前の余興としよう。さっきは危うく逃げられそうになったが、そう何度もうまくは行くまい」


 男は目を細め、今夜の宴を夢想した。


 男の趣味は子供を魔物に狩らせることだ。


 アランたちはギリギリ子供の範疇にあり、男のストライクゾーンに入っていた。


 その中でも、ミーアの容姿は男にとってどストライクであり、今夜の余興は一段と楽しいものになると考えた。


「ふぉーほっほ。今夜の楽しみが増えたわい。今回のガキどもは、どんな顔してくれるかの」


◇ ◇ ◇


 狼男がコンコンと部屋をノックする。


 中からの返事はないようだ。


「ふむ。ぐっすりと寝ているようっすね」


 彼は、この屋敷で行われていることについて、なんとも思っていない。


 どこからか調達してきた少年少女を、魔物に襲わせる。


 金持ちの趣味は異常であることが多いが、それにしてもここの主人の行いは常軌を逸している。


 しかし、狼男がそれについて文句をいうことはない。


 なんせ、ここの主人は羽振りが良い。


 腕前には自信がある狼男だが、素行の悪さのせいで客がつかなくなっていた。


 そんな中、いまの主人は腕前さえ良ければ問題ないというため、狼男からしたら最高の主人であった。


 そして今日、新たな獲物が入ってきた。


 三人の少女と一人の少年だ。


 どれも平和ボケしてそうな顔をしていた。


 ここの主人にとって、こういう少年少女の絶望した顔が一番好きらしい。


――悪趣味っすね。まあ俺がとやかく言えることじゃないっすけど。


 金を払ってくれれば問題ない。


 狼男はそう割り切っている。


 そして彼は少年少女が眠っている部屋にそっと入り込む。


 最初に三人の少女の顔が見える。


 全員が美少女である。


 とくに一人幼い見た目の魔族がおり、主人がもっとも悦びそうなで子だ。


 狼男はこっそり魔族に近寄り――


 その瞬間。


 狼男の背筋に悪寒が走った。


 バッと振り向く。


「なにしてんだ? あんた」


 そこには、茶髪の少年が立っていた。

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