第96話 仮面男

 ふぅ、良かった。


 予知夢っぽいのでミーアが殺されてたけど、あれはただの夢だったようだ。


 まあ何にせよ、無事筋肉ダルマを倒せたし、これで万事解決だ。


 今日はゆっくり休んで、明日からのバカンスに備えよう。


 まだまだバカンスは続くんだから。


 だが、さすがに今回の相手はちょっとキツかった。


 まさか特級魔法(仮)を使う羽目になるとは思わんかったな。


 疲れた。


 今日はもうふかふかのベッドでゆっくりしたい。


 俺はミーア、テトラ、シャーロットがいるところに向かった。


 さっきまで寝ていたテトラも、隕石メテオの衝撃で起きたようだ。


 あれで起きなかったら、むしろびっくりだわ。


 俺が戦っている間に、シャーロットが二人の拘束を解いてくれた。


「アランくん!」


 ミーアが手を振ってきた。


「おーい、終わったぞー!」


 俺はそういって、手を振り返した。


 その瞬間――。


――ゾクッ


 背筋に悪寒が走った。


 ヤバイ。


 これはかなりヤバイ。


 全身の血が凍るような感覚に、全身から汗が吹き出た。


 恐る恐る振り向く。


 仮面を被った男が立っていた。


 濃い紫色のマントを着た男が無言で佇んでいた。


「――――」


 本能的に悟った。


 これは勝てない。


 桁が違う、レベルが違う、次元が違う。


 男の身から放たれる魔力濃度が尋常じゃない。


 魔力の流れがあまりにも綺麗だ。


 どれだけの鍛錬を積めば、そこまで濃い魔力を流せるのか想像すらできない。


 達人なんてものじゃない。


 もはや完成されている。


 格が違い過ぎる。


 ここにいる全員が束になったところで、手も足も出ない相手だ。


 俺はとっさに無詠唱魔法を発動する。


――隕石メテオ


 ありったけの魔力を込め、男に放つ。


 だが、しかし。


「――――」


 魔力がかき消された。


「は……?」


 魔力破壊ディストラクション


 男は息をするかのごとく自然に、俺の魔法陣を破壊した。


 魔力量だけなら誰よりも自信がある俺の、全力で放った魔法を一瞬で破壊された。


 今までとは立場がまるで逆。


 別に俺は過信していたわけじゃない。


 相手が異常なだけ。


 そう思った次の瞬間。


「ッ……!?」


 遠くにいたはずの仮面男が、いつの間にか目の前にいた。


 速い。


 目で追いきれなかった。


 油断などしていかなかった。


 最大限注意を払い、いつでも動ける準備をしていた。


 だが、無意味だった。


「ぐ……はっ」


 腹に激痛が走る。


 殴られた。


 それを理解した次の瞬間には、蹴りを入れられていた。


「があ……!?」


 吹き飛ばされる。


 砂浜を転がる。


 内蔵が飛び出そうだ。


 たった一度の攻撃で、意識を持っていかれそうになった。


「うぐ……あっ……」


 血を吐く。


 服が血で汚れた。


 口の中で血と砂が混ざりあり、不快な味がする。


 並で視界が滲んだ。


 無理だ。


 あれには絶対に勝てない。


 勝てないどころか、逃げることすらできない。


 ここまで力の差を感じたのは初めてだった。


 今までのどんな相手よりも、遥かに圧倒的に強い。


 仮面男は俺には興味がないようで、すぐに視線を外してきた。


 そしてテトラを一瞥する。


 そして次に、シャーロットを見た。


「ヒュター家の娘。貴様は邪魔だ」


 仮面男が動き出そうとする。


 だが、


「――――」


 男の動きが止まった。


 男の周囲には透明な障壁ができていた。


「なるほど。空間・・・魔法か。これほどの素質があるなら、確実に殺さねばな」


 シャーロットの生成した障壁が一瞬で打ち破られる。


「……ッ」


 シャーロットが息を飲む。


 仮面男がシャーロットに急接近していた。


 俺は男の頭上に魔法陣を展開させた。


 だが――


「くそッ……!」


 男の濃密な魔力のもとでは、魔法陣が生成できなかった。


「やめてください!」


 ミーアがシャーロットの前に現れた。


 だが、男の動きは止まらない。


 ミーアもろともシャーロットを殺そうとしているのがわかった。


 男が右腕に膨大な魔力を纏わせる。


 そして、ミーアとシャーロットに向かって突き出される。


「……ッ」


 だが、その直後。


 男の右手が空中で停止した。


「――――」


 テトラがミーアとシャーロットを庇うように立っていた。

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