第97話 ゲームオーバー?

 仮面男の動きが止まる。


 俺はシャーロットと目を合わせ、頷く。


 瞬時に、魔法陣を展開させる。


 そして、魔力破壊ディストラクションを上回る魔力量を魔法陣に込める。


――発火イグニッション


 テトラと仮面男の間に、大爆発が起きた。


 地響きとともにテトラの眼前に大きな穴が開く。


 テトラたちは無事だ。


 シャーロットが守ってくれたからだ。


 俺は部分強化フィジカル・エンチャントで足腰に魔力をまとう。


 そして、速攻で三人のところにたどり着く。


「だい――」


――大丈夫か?


 そう言おうとしたとき。


 またしても、激しい悪寒が背中を走り抜けた。


――ゾワッ。


 息が詰まる。


 喉がカラカラと、急速に乾いていくようだ。


 振り返る。


「―――」


 少し離れたところで、男がじっと佇んでいた。


「……ッ」


 男の全身から放たれる濃密な魔力に、圧倒された。


 その濃さは先程とは比べ物にならない。


 吐き気を覚えた。


 魔力酔いだ。


 男を前に、自分がいかに無力であるかを痛感させられる。


 そんな中、シャーロットが口を開いた。


「まさに亡霊ね」


「…………」


 仮面男は何もいわない。


 てか、シャーロットが亡霊って言ってたの、この人のことだったの?


 じゃあ、シャーロットはこうなることが予想できてたってこと?


「過去に囚われた、悲しき人間の成れ果て。あなたを亡霊と呼ばなくて、なんと呼ぶのかしら? ローランド伯爵」


 は……?


 いや……え?


 ローランド伯爵って……まさかこの仮面野郎、父上なのか?


 いやいやいや意味がわからん。


「では、過去を振り払うため、ここですべてを焼きつくすとしよう」


 仮面男はそういってから、空を見上げた。


「いでよ炎龍の王、サラマンダー」


 直後、天が割れた。


「――――」


 巨大な龍が顔を出す。


 龍の出現によって、周囲の魔力濃度が一気に上昇した。


 龍が圧倒的な立場から、俺たちを見下してきた。


「まじかよ」


 生物としての格が違う。


 炎龍の王、サラマンダー。


 それは空想の生物だと思っていた。


 伝説級の生物である。


 そんなものを召喚するともなれば、もはやそれは神級魔法の領域である。


「――――」


 龍が大きく口を開く。


 そこから膨大なエネルギーを感じ取った。


 そのすさまじい熱量に、体が震え出す。


龍の息吹ドラゴンブレス


 仮面男が呟いた。


 直後、空が光り、夜だというのに異様なまでに周囲が明るくなった。


 太陽をも思わせる眩い光だ。


 あまりの非現実的な光景に、意識を持っていかれそうになる。


「――――」


 龍の息吹ドラゴンブレスが落ちてきた。


 俺は無意識のうちに、空に手をのばしていた。


――隕石メテオ


 巨大な岩の塊が生成される。


 岩は炎をまとい、龍に向かって発射された。


 直後、隕石メテオ龍の息吹ドラゴンブレスが衝突する。


 鼓膜を突き破るような爆音が轟く。


 大地が揺れた。


 龍の息吹ドラゴンブレス隕石メテオを突き抜け、落ちてきた。


 それはまるで太陽が降り注ぐような光景だった。


 すべてが白に塗りつぶされていく。


 と、そのときだ。


――完璧だわ。


 シャーロットの声が聞こえてきた。


◇ ◇ ◇


 あ~、終わった。


 マジで終わった。


 さすがにあれはないだろ。


 ラスボス級の強さだろ。


 序盤で相手していいやつじゃない。


 てか、これゲームオーバー?


 俺、死んじゃったの?


 ん? なかなか衝撃が来ないぞ。


 まさか、あまりにも死が一瞬すぎて痛みもないのか?


 ありえるわ~。


 あんな魔法食らったら、死ぬのも一瞬だろうな。


 ってことは今は死後の世界?


 ゆっくりと目を開ける。


 あっ、満点の夜空が見える。


 良かった。


 俺はまだ生きてるようだ。


 風が気持ちいい。


 俺はゆっくりと起き上がり、辺りを見た。


「………………は?」


 草原が広がっていた。

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