第89話 勇者一行

「ここですか……?」


「そうよ」


 しばらく歩いた俺たちは洞窟に到着した。


 中は暗く、不気味な感じがある。


「ここ……本当に行くんですか?」


 ミーアが心配そうに尋ねる。


 でも、その気持もわかる。


 明らかなにヤバそうな雰囲気がある。


 マジで幽霊出てきそう。


「もちろんよ!」


 シャーロットだけ元気そうにしている。


「危険では……ないでしょうか?」


「そうね……」


 シャーロットが声を潜めて言う。


「実はここ、魔人によって大勢の人が生き埋めにされた場所なのよ」


「そ、そんなぁ……」


 ミーアが泣きそうな顔をする。


 ちょっとシャーロットさん。


 意地悪しないでください。


 こうみえてもミーアって、怖いの苦手なんですから。


 ミーアが震えてる。


 可愛い。


 シャーロットさん。


 もっと怖がらせちゃってください。


生ける屍リビングデッドが出てきそうですね」


 テトラはまったく怖がっていないようだ。


 まあこの子、あんまり感情が揺れ動かないらしいし。


「出てくるのは亡霊よ」


 いや、シャーロットもブレないなぁ。


 なんかホントに亡霊が出てきそうなんだけど。


「みんな絶対に私から離れないでね。でないと、亡霊に襲われるわ」


「え……」


 ミーアが絶句した。


 この人、可愛いな。


「それじゃあ行くわよ」


 シャーロットが先頭を立ってあるき始めた。


 彼女の手には、俺がプレゼントした魔法道具なんでもボックスがある。


 まさか、ここでそれを使うとは……。


 てか、シャーロットさん。


 これアランチームなんだよね?


 シャーロットが先頭なら、もうシャーロットチームで良くないか?


◇ ◇ ◇


 シャーロットに続いて俺、ミーア、テトラの順で縦一列になって歩く。


 洞窟内は冷たく、ジメジメとしていた。


 意外と横幅はある。


 前世では何度か鍾乳洞に行ったことがあるが、雰囲気はそれに似ている。


 ただし、ライトアップがされておらず、道も整っていないため、かなり歩きにくい。


――ぴちゃん。


「ひゃあ……!」


 ミーアが水に反応し、悲鳴をあげた。


 さっきからミーアはずっとビビりっぱなしである。


 反対にテトラはずっと無言だ。


 二人が正反対すぎて面白い。


「こうしていると、勇者一行みたいよね」


 シャーロットが前を向きながら、俺に話しかけてきた。


「勇者一行? おとぎ話ですか?」


 そういえばイアンもそういう話が好きそうだったな。


 まあ冒険譚とか、やっぱり憧れるよな。


 俺も勇者になって世界を救ったあとに、王女様なんかとイチャイチャしたい。


 どっちかっていうと、イチャイチャしたいだけだから、世界は救わなくてもいいんだけど。


 あれ? それなら勇者じゃなくても良くね?


「おとぎ話じゃないわ。歴史よ」


「歴史?」


「勇者一行が魔人を討伐したというのは歴史的な事実です」


 テトラが答えてくれた。


 あざっす。


「正確には討伐ではなくて封印だけれど」


「……なんで勇者一行の話なんかを?」


「この暗い洞窟なんか、勇者一行として冒険しているみたいじゃない?」


「まあ……たしかに」


 気持ちはわからんでもない。


「じゃあ僕は勇者ですかね?」


 やっぱり俺、主人公だし。


 王女様を落とす役は俺しかいないだろう。


「いいえ。違うわ」


 え、違うの?


「じゃあ、なんですか?」


「魔法使いね」


 ほうほう……なるほど。

 

 フォード家は魔法の名門だもんな。


「だったらテトラも魔法使いになりますね」


「違うわ。テトラ様は勇者よ」


「え?」


 テトラは勇者じゃないだろ。


 雰囲気的に。


 まあでも、最近はネット小説でも女勇者とかいたしな。


 エロゲとかでも、女勇者がゴブリンに襲われる話とかもあるし。


 ……いや、ちょっと待て。


 それだとテトラがゴブリンに襲われることになるだろ。


 ダメだ。


 もしそうなったら、ゴブリンを一匹残らず燃やしつくそう。


「そもそも勇者って女性なんですか?」


「そうよ。肌が白く、人形のように美しい少女だっとという話ね」


 たしかに、それならテトラも当てはまる。


「じゃじゃあ、私は何でしょう?」


 ミーアがビクビクしながら、シャーロットに尋ねた。


「ミーア様は賢者ね」


「へ? 私が賢者?」


「賢者は魔族だったのよ」


「私の知っている物語では、全員が人族ですが……」


 テトラが口を挟むと、シャーロットが首を振る。


「それは人魔大戦後に変えられた歴史よ。勇者一行に魔族が混じっていたとなると、都合が悪いのよね」


「そうなのですね。勉強になります」


 後の人が事実を捻じ曲げたせいで、歴史が後世に正しく伝わらないことはよくある。


 俺もよく同じようなことやるからわかる。


 黒歴史なんかを勝手に脳内変換して、自分の都合の良い思い出にするし。


 そういえば、対抗戦での祝勝会、俺のスピーチは万雷の拍手に包まれていたな。


 あれは良い思い出だ。


 と、それはさておき。


「シャーロット様はどんな役割になるんですか?」


「守護者ね」


「守護者?」


「ええ。魔人を封印した一族よ」


 へー、そうなのか。


 守護者って、王道って感じではないけど……タンクみたいな感じかな?


「じゃあ勇者一行は勇者、魔法使い、賢者、守護者の四人なんですか?」


「そうよ」


「たしかに僕たちも勇者一行みたいですね」


「そうでしょ? ここから私達の冒険が始まるの」


「旅の目的はやっぱり魔人討伐ですかね」


「そうなるわ。でもここでの討伐目標は亡霊よ」


「あ、なるほど」


 なんかワクワクしてきた。


 こんな小さな洞窟だが、まるで本物の冒険をしているように思えてくる。


 冒険者になって冒険とかしてみてーな。


 せっかく剣と魔法の世界に転生したんだし、世界中を旅してみたい。


 それからしばらく歩くと、少しひらけた場所に出た。


 シャーロットが魔法道具の光を強めて、周囲を照らしてくれた。


「これは……凄いな」


 そこには幻想的な光景が広がっていた。

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