第87話 肝試し

「肝試しをしましょう!」


 シャーロットが満面の笑みで、そう提案した。


「肝試し? それはなんかの訓練か?」


 オリヴィアが尋ねる。


「訓練じゃないわ」


「なんだ訓練ではないのか……」


 オリヴィアが落胆をみせる。


 すぐに訓練と結びつけるのどうかと思う。


 まあでも、それがオリヴィアなりの楽しみ方なのかもしれない。


「肝試し知らないんですね」


 俺が口を挟むと、オリヴィアが「ああ」と頷く。


 周りを見ると、オリヴィアだけじゃなく、他の人達も知らないような感じだ。


「怖いところに行って楽しむ遊びですよ」


「こここ、こわいところになんですか……?」


 ミーアがおそるおそる尋ねてきた。


 ビビりすぎじゃね?


「幽霊とかが出るところかな」


 続いてテトラの質問してきた。


「幽霊……? それはつまりゴーストが出るのでしょうか?」


「そんな感じだね」


「いいえ。違うわ。幽霊でも魔物でもなく、亡霊よ」


 シャーロットがきっぱりと否定する。


「え? 亡霊?」


 幽霊と亡霊って何が違うんだ?


「ゴーストとは違うのでしょうか?」


 テトラがシャーロットに尋ねる。


「似て非なるものよ。亡霊ってのは、ぞわーっとしてて気味の悪いやつよ」


 なにが違うのか、いまいちピンと来ない。


「なるほど。それは肝が試されて、よい訓練になりそうだ」


 オリヴィアが納得したように頷く。


 いや訓練じゃないから。


「装備を持ってきていないんだが、大丈夫か?」


「肝試しに装備はいりませんからね?」


「装備は必要よ」


 いや、いるんかい!?


「あと三日分の食料も必要だわ」


「三日分も!? って……それどこまで行く気ですか?」


 ガチの冒険じゃないんだから、食料とかいらないでしょ。


 まあ遭難する可能性がないとは言えないけど。


「近くの洞窟よ」


「もしかして遭難の危険がある場所ですか?」


「ふふっ」


 え、その笑みはなに?


 怖いんだけど。


「すみません……私、怖いのは少し苦手で……」


 ミーアが体を震わせながら言う。


 少しどころか、かなり苦手のように見えるが。


「大丈夫よ。ここにいる男たちが守ってくれるわ」


「おおおお、おう! 任せとけ」


 ジャンが顔を真っ青にさせながら、胸を叩いた。


 あ、ジャンも幽霊苦手なんだ。


 あいつわかりやすいなー。


 イアンは無表情で頷いてるあたり、こういうのには耐性がありそうだ。


 まあ俺も肝試しは得意だけどな。


 前世でも、日本一怖いお化け屋敷を行ったり、ホラー映画を真夜中に観てたり、友人と幽霊が出るって噂の廃墟に忍び込んだりしたし。


「ふふ。頼もしいわね」


 シャーロットがジャンを見て微笑んだ。


 いや頼もしくはないだろ。


「はい。というわけで、チーム分けをしたいと思います」


「みんなで行けばいいだろ」


「人数が多すぎると面白くないじゃない」


「たしかに……肝を試す訓練だからな」


 オリヴィアが頷く。


 もう何もいうまい……。


 少人数が良いってのは俺も同意見だ。


 女子とわちゃわちゃしながら、肝試しとか最高に楽しいと思う。


 肌がふれあいながら、スリルを味わう。


 これぞ最強の吊り橋効果。


 仲良くなること間違いなしだ。


「それで、どういうチーム分けになるんですか?」


 俺が尋ねると、シャーロットが答えた。


「私の独断で決めたわ。まずはアランチーム」


「え、俺のチーム?」


「そうよ」


 まあ遊びのリーダーくらいなら全然大丈夫だけど。


 風紀委員長を任されるのと比べれば、責任なんてないに等しい。


「アランチームには、ミーア様、テトラ様。そして私が入るわ」


 男一人に女三人って、これハーレムじゃん。


 それも全員美少女。


 まあテトラは妹だから例外だな。


 でも、ちょっとわくわくしてきた。


 肝試し中にラッキースケベとか起きないかな?


「残った4人がもう一つのチームってことか」


「そうね。そっちはオリヴィアチームお願い」


「わかった」


 ふむふむ。


 恋愛マスターである俺には、シャーロットの意図が簡単に読める。


 ジャンとクラリスを一緒にするあたり、シャーロットもこの二人の仲を進展させたいとみた。


「会長。このメンバー分けには何か意図があるのでしょうか?」


 イアンが尋ねる。


 さてはイアン。


 自分がシャーロットと同じになれなかったことを悔しく思ってるな。


 シャーロットが満面の笑みで答える。


「もちろん、ないわよ」


 いや、ないんかい!


「それでは出発は1時間後ね。先に出発するのは、アランチームよ。それまでに各々準備していて頂戴」


「は~い」


 俺が適当に返事すると、イアンに睨まれた。


 おい、イアンよ。


 シャーロットと同じになれなかったことで、俺を責めるんじゃない。


 悪いのは俺でなく、チームを決めたシャーロットなんだから。


「それと洞窟内は寒くて危険だから、水着はなしね。普通の服を着てきて頂戴」


 え、マジで!?


 水着ありのほうが良かったんだけど!


 これじゃあラッキースケベ起こらないじゃん。

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