第86話 疑わしきは罰せず

 イアンから聞いた話は衝撃的だった。


 昔の俺は、かなり変な子ではあったが、傲慢な性格ではなかったらしい。


 そんなアランだが、三年くらい前から急激に態度が変わり、傲慢なアランになったとのことだ。


 俺の身に何があったの?


 ていうか、昔の俺って転生者だったったんだな……。


 それが一番の驚きだわ。


 アランって、マジで何者なんだ?


 記憶を探ろうにも、たいした情報が出てこない。


「話は変わるが、アラン。貴様にひとつ忠告がある」


「え……忠告ですか?」


 もうすでに俺の頭の中、パンク状態なんですけど。


 これ以上、どんな話を持ってくるんだ?


「フォード家には気をつけろ」


 なんか物騒が言いやがったぞ、こいつ。


 気をつけろってなにを気をつければいいんだ?


「それはどういう意味です?」


「兄上と父上には気を付けろ。あの二人は何かを企んでいる」


 うわー、そういう展開かー。


 家族が怪しいっての、漫画とかアニメでとく見る展開ではあるけど……。


 自分がそれやられるのは勘弁してほしかった。


 これが主人公の宿命ってやつなのかもしれない。


「企むって何をですか?」


「わからん。ただ……テトラを連れ帰ってきたときから、父上の様子がおかしくなった」


 ここでテトラが絡んでくるの?


 どういう関係だ?


 もう頭がパンク通り越して、破裂しちゃいそうなんですけど……。


 てか、イアンの言い方がちょっと引っかかる。


 ”連れてきた”と”連れ帰った”ではニュアンスが異なる。


「連れ帰った?」


「覚えてないのか?」


「えっと、なんとなく記憶にはありますけど……」


 嘘だ。


 まったく記憶にない。


 記憶にございませんってやつだ。


 俺は政治家とか向いているかも知れいない。


「5年前のことだ。珍しく父上が焦燥していたから、あの日のことはよく覚えている」


 5年前とか、そりゃあ記憶にないわ。


「……当時の状況をもっと詳しく教えてくれませんか?」


「貴様もその場にいたろう?」


「ちょっと記憶が曖昧で……。カニがあたったのかもしれません」


「蟹があたっても、そうはならんだろ……まあいい。たしかあれは、父上が遠征に出かけていたときだ。といっても、どこに行ったのかわからんがな。しばらく家に帰ってこなかったのだけは覚えている」


 父は昔から放浪の趣味があったらしい。


 俺も見習いたい。


「あれは大雨の日だった。父上が乱暴に玄関の扉を開け、屋敷に帰ってきた。そして父上の腕には10歳くらいの少女、テトラがいたのだ。どうだ、思い出したか?」


「はい……なんとなくは」


 まあ全然思い出してないんだけどね。


「それで、父上が怪しいと思う根拠はなんですか?」


 この話だけ聞いても、父上が怪しいとは思えない。


「根拠は……ない」


 ないんかい!?


 証拠はちゃんと集めようね?


 疑わしきは罰せずだからな。


「しかし、その日を堺に父上と兄上の様子が変わっていった。といっても兄上は父上に従うだけだから、変わったのは父上のほうだな」


「父上が怪しいかどうかはともかく……変わった原因はテトラにありそうですね」


「おそらくはな」


「テトラからは何か聞いているんですか?」


「聞けるわけないだろう。それが直接、父上の耳に届く可能性がある」


「まあ……そうですね」


 テトラに話した内容が、そのまま父の耳に入ってもおかしくはない。


「いまの父上は危険だ。だからアラン。父上とはなるべく距離を置け」


 そんなこと言われなくても、もともと距離を置いてるしな。


 というか、距離を置かれてるんだけど……。


 てか、なんでイアンはここまで警戒してるんだ?


 まあでも、イアンの話も心に留めておこう。


「わかりました」


 俺が頷くと、イアンが立ち上がった。


「何かあれば私を頼れ」


 イアンはそう言ってから去っていった。


 ……今のちょっとかっこよかったな。


 俺、イアンに嫌われてると思ってたけど、そうでもない気がしてきた。


 忠告をしてくれるあたり、少しは心配してくれているんだろう。


 それより色々ありすぎて、ちょっと整理する時間が必要だ。


 こんな重要な話、バカンス中に言わないで欲しかった。


 家にいたら聞かれる可能性があるんだろうけど……言うタイミング今じゃないでしょ。


 ビーチで寛いでるときに聞かされたくなかったわ!


 はあ……。


 今ごちゃごちゃ考えるのも面倒だし、また時間あるときに考えよ。

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