第71話 ゆっくり死んどけや

 両腕に相当な魔力込め、剣を止める。


――ドンッ。


 腕に鈍い衝撃が走る。


「いってぇぇ!?」


 腕ぶった斬れると思ったわ。


 あと両腕が燃えるほど熱いだんけど。


 てか、剣を腕で受け止めるって、かなりシュールじゃね?


 絵面的におかしいだろ。


「あああぁァァァァ!」


 サイモンが叫びながら、追撃してくる。


 うるせーよ!


 静かにしろや、ボケ!


「ごふっ……!?」


 サイモンの腹に蹴りをいれとく。


「ここここっここ……」


「こけこっこ?」


 もうなんかこいつ、ネタキャラにみえてきたわ。


「ころず!」


 ころずってなんだよ。


 滑舌悪いな、おい。


 体の動きは滑らかなのによ。


「――――」


 サイモンの剣が俺の鼻先をかすめる。


 ふっ……その軌道はもう見切っている(ドヤ顔)。


 後ろに飛んで、一旦、休憩。


 と思いきや、サイモンが追いかけてきた。


 はあ……熱烈なアタックはもう飽きたよ。


 俺を追いかけるなら、美少女に転生して出直してこい。


 てなわけで、サイモンの人生を終わらせてあげよう。


 俺は魔力を解放した。


「――――」


 フハハハッ!


 全知全能とは俺のことよ!


 一応、魔力暴走を起こさない程度に出力を抑えている。


 どどっと体温が上がり、全身から汗が吹き出てきた。


 体が熱い。


 サイモンを見ると、動きがスローモーションにみえた。


――火球ファイア・ボール


 手加減なしの、巨大な火球を放つ。


「がああああああ!」


 サイモンの体が火で覆われる。


 さすがのサイモンも、あまりの熱さに動きを止めたようだ。


 続けて、やつの足元に魔法陣を展開させる。


――発火イグニッション


 爆発が起きる。


 部屋が爆風で大きく揺れた。


 それと、同時に小さなクレーターのような穴が出来上がった。


「……うぁ」


 まだ、サイモンは生きているようだ。


 ほとんど虫の息だがな。


 しかし、そんな状態でもサイモンは、目を血走らせ、俺を睨みつけてきた。


 その諦めないド根性、好きだよ。


 戦いの中で成長するところも、少年漫画の主人公っぽくて良いと思う。


 でも残念。


 ここは少年漫画じゃないんだわ。


 戦闘中にいくら成長しても、勝てないもんは勝てない。


 あとこの世界、主人公は俺なんすよ。


 転生すれば、お前も主人公になれるかもな。


「来世ではさちありますように」


 俺はサイモンの頭上に魔法陣を展開させた。


 そして大量の魔力を流し込む。


――火球ファイア・ボール


 極大な火球を生み出す。


 もはや火球ファイア・ボールというよりも隕石メテオという表現が正しいかもしれない。


 火球がサイモンに向かって、ゆっくりと落ちていく。


 ぐにゃり。


 サイモンの体が火球に押しつぶされる。


 次の瞬間、爆音が響いた。


「――――」


 ピキリッと音が鳴る。


 続いて、ピキピキピキっと何かが割れるような音がする。


 パリンッという音が響き渡った。


 直後、青い空がみえた。


 俺はスタジアムに戻ることができた。


◇ ◇ ◇


「どうでしょう?」


「想像以上だな」


 小柄の女が尋ね、ガタイの良い男が応えた。


「彼、素材としては優秀ですからね」


「違う、アラン・フォードのことだ」


 男は目をギラつかせて、水晶に映るアランを見ている。


「さすがはフォード家ということか」


「フォード家の中でも異質ですよ、彼は」


「随分と熱心なようだな」


「私は好奇心に忠実なだけです」


 女はアランの姿をじっと見つめている。


 その瞳には、狂気が映し出されている。


「一つ尋ねる」


「なんでしょう?」


「わざわざ大規模な仕掛けを用意したのはなぜだ? 実験というのなら、ここまでする必要はなかっただろう?」


 もしもサイモンの性能を測るだけなら、街中に解き放ってやればいい。


「誰にも邪魔をされたくなかったからです。横槍が入ったら面白くないでしょう」


「わからんな。正体をバラしてまでやることでもないはずだ」


 今回のことで、おそらく彼女は指名手配犯になり、国から追われることになる。


 そうまでやる価値があったとは、男には到底思えなかった。


「わかって欲しいだなんて思っていませんよ。それに私の居場所など、昔からどこにもありません」


 そう言って彼女――エミリー・ワイズマンは教師の服を脱ぎ捨てた。


 もうその服を着ることはないだろう。


 もともとエミリーは先生などという職業に興味などなかった。


 彼女は認識阻害の黒ローブに着替える。


「さあ、行きましょう」


 そうして二人は闇の中に姿を消していった。

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