第70話 こいつ、戦いの中で成長してやがる!?
固有結界。
おそらく俺はそれに閉じ込められたんだと思う。
スタジアムの術式を改変すれば、固有結界を作れる気がするし。
まあ本当に固有結界なのかはさておき。
ここから出る方法は1つしかないと考えている。
サイモンの撃破だ。
きっとこれは俺に課せられた試練だ。
だって、さっきのダンとの戦い、圧勝だったし。
あれで終わってたらヌルゲーだろ。
いや、ヌルゲーでも良いんだけどね?
無理ゲーだったら俺、死ねる自信ある。
てか、育成ゲームに転生するなら、ウ◯娘がいる世界で、ウ○娘を育成するふりをしてイチャイチャしたかった。
「ごろず……」
世界は不平等だ。
なんで俺はこんなやつとイチャイチャしなきゃならないんだ。
サイモンが急接近してくる。
情熱的なのは好きだけど、もう少し距離感学んだほうがいいよ?
いきなり迫られると、誰だって距離を置きたくなるから。
――
情熱には、灼熱で返してあげる。
これが俺の返答だ。
「――――」
剣が振るわれた。
――スパンッ。
火球が真っ二つに切れる。
すげぇ。
こんなにキレイに斬られたの初めてみた。
ちょっと感動。
さすがは剣術の玄人。
たしかサイモンって、四大流派の一つ、一心流に所属してたんだっけ?
あんまり剣術に詳しくないけど、有名な流派ってのは知ってる。
王都で一番人気の流派だとか。
「――ッ」
サイモンが一気に踏み込んできた。
「よっと」
俺はすぐさま後ろに飛ぶ。
剣士相手に、接近戦は厳しいんすわ。
彼の剣、切れ味が良さそうだし、斬られたら体を真っ二つにされそう。
サイモンとの距離を取りつつ、魔法陣を展開させる。
君にぴったりの色をプレゼントしよう。
しっかり受け取ってね。
――
サイモンの体が燃え上がる。
だが……
「は? まじかよ」
サイモンが炎に包まれながら、すさまじい形相で突っ込んできた。
こわっ。
お前はホラーかよ。
――
サイモンに向けて火球を放つ。
スパンッ。
火球が一刀両断された。
こいつ、前回戦ったときよりも強くなってやがる……。
くそっ……俺に俺TUEEEEEEさせろや!
主人公最強がやりたいんじゃ、ボケ!
ドンッ、ドンッ、ドンッ。
俺はサイモンと距離を保ちながら、火球を放ちまくる。
サイモンの体に被弾する。
だが、サイモンの動きは止まらない。
それどころか、サイモンの動きがだんだんと速くなっている。
この感じはあれだ!
「こいつ、戦いの中で成長してやがる!?」
あ~、気持ちいい!
このセリフ一度は言ってみたかったんだよね。
主人公が戦いの中で強くなっていく感じ、好きだよ。
まあ主人公は俺なんだけど。
てか、敵が成長してどうするんじゃい!
「ごろず」
こいつ、中身は成長しないんだな。
殺すしか言わねーのかよ。
ボキャブラリーなさすぎだろ。
まあ、そろそろ決着をつけるか。
鬼ごっこにも飽きてきたし、サイモンのお遊びに付き合う理由もない。
「じゃあ、鬼交代といきますか」
俺は追いかけられる恋も好きだけど、追う恋も好きなんだよね。
なんてこと考えてたら、サイモンが一瞬で俺に詰め寄ってきた。
まだ鬼交代の時間じゃないって?
そういうわがまま言っちゃダメでしょ。
「って、やばっ」
サイモンが剣を振り下ろしてきた。
「……ッ」
これは避けられそうにない。
斬られるわ。
「ごろず」
剣が目の前に迫っていた。
◇ ◇ ◇
観客席から、舞台上を見ることはできない。
しかし、会場に設置されたモニターには、アランたちの様子が映し出されていた。
観客たちはすでに会場から避難している。
この場に残っているのは、風紀委員と生徒会、そして数人の先生たちだ。
ミーアが手から血が流れるほど強く、観客席を握りしめている。
いますぐにでも飛び出していきそうな雰囲気だ。
サイモンとアランの戦いは次第に激しさを増していく。
その戦いを、彼女らは黙ってみていることしかできない。
スタジアムは重苦しい雰囲気で包まれていた。
そんな中、スタジアムの魔法陣を確認しに行っていたシャーロットが観客席に戻ってきた。
「魔法陣が書き換えられている。魔法障壁が固有結界になっているわ」
シャーロットは開口一番の告げた。
オリヴィアはちらっとシャーロットを見る。
「魔法陣を止める方法はないのか?」
「魔石の魔力が空になれば、自然と結界は解けるはずよ」
スタジアムの魔力供給術式も一般的な構造をしており、魔石が空になれば結界は形を維持できなくなる。
「空になるまで待つ必要はあるのでしょうか?」
テトラが質問した。
「というと?」
「強制的に結界を止めてはいけないのですか?」
「そうね。私もそれを考えたわ。でも魔法陣には嫌らしい仕掛けがしてあったの」
「嫌らしい仕掛け?」
「結界を無理やり解こうとすれば、結界内の空間が捻じれるというものよ。一種の起爆装置ね」
「……ッ」
その場にいた者たちが息を呑んだ。
空間が捻れれば、最悪、結界内にいた人の体も捻れる可能性がある。
シャーロットはみんなを安心させるように微笑む。
「安心して。固有結界を維持するには、相当な魔力が必要になるわ。30分もすれば魔石は空になり、結界が解けるでしょう」
しかし、彼女の言葉に安堵する者はいない。
30分というのは決して短い時間ではないからだ。
ミーアはいまも戦っているアランを見て、居ても立っても居られなくなった。
「誰がこんなことを……!?」
「少なくとも、普通の魔法使いには無理でしょうね」
「これほどの魔術を書き換えられる人物など、私は一人しか知らん」
「ええ。そうね」
オリヴィアとシャーロットは目を合わせて、頷きあった。
この学園には魔術師一級ライセンスを持っている先生がいる。
その人物なら複雑な術式も容易に書き換えられるだろう。
「エミリー先生ね」
エミリー・ワイズマン。
最年少で魔術師一級ライセンスを取得し、その後も数々の研究で成果を出し続ける鬼才だ。
それほどの才能に恵まれながらも、なぜか学園の教師を引き受けていた奇特な人物である。
もちろん、エミリーを犯人だと断定するのは、まだ早い。
しかし、可能性は高いと見て間違いないだろう。
「この学園にはまともな教師がいないようですね」
テトラが毒を吐く。
「そうですね。本当にクズばかりです」
ミーアが苛立ちを顕にした。
と、そのときだ。
「危ない!? アランくん!!」
モニターには、サイモンがアランに斬りかかる様子が映し出されていた。
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