第65話 ペナルティ
「おいおいおい! 試合中に横槍かぁ? 反則だろーがよぉ!」
ダンが俺を睨んできた。
いや、うん。
言いたいことはわかるよ。
でも、さすがにそっちもやりすぎじゃない?
カウントダウン中に攻撃するのはルール違反だよ?
「アラン選手? 試合中ですよ?」
審判が俺を注意してきた。
いや、すまん。
なんかこう……体が勝手に動いてたんすわ。
ヒーローは考えるより先に体が動くってやつ?
てか、ダンのほうが悪いと思う。
「カウントダウン中に攻撃するのも良くないと思います。それにほら、ジャンはもう気を失っていますし」
悪いのはダンですよーって感じで審判にアピールしておく。
「んなことしらねーよ。舞台に立っている以上、戦いは終わってねぇんだよ。ここにいる以上、何をされたって構わねぇってこったろ?」
「それはお前のルールだろうが、ボケ。勝手にルール変更すんなや」
あ、やべっ。
つい口が悪くなってしまった。
「あん?」
ダンが青筋を浮かべた。
まあまあ落ち着けって。
そんなに怒ってたら寿命が縮むぞ?
なんなら今日が最期の日にしてやろうか?
「えっと……審判さん。ひとまず、ジャンを下がらせてよろしいですか?」
ダンと口論しても仕方ないから、審判に話しかけた。
「てめぇ……勝手なマネは許さんぞ?」
「……わかりました。ダン選手も落ちてついてください」
「クソがっ!」
ダンが地団駄を踏んでいるが、まあ気にすることはない。
審判が手を上げた。
「勝者! ダン・エリクソン!」
これで二勝二敗一分か。
決着は代表戦でつけられるってわけだ。
「アラン選手。試合に乱入したとして、学園側にはペネルティを与えます」
え、マジで?
「次の試合、代表戦になりますが、0-2から試合をスタートさせます。よろしいですね?」
なんで俺だけペネルティを食らうの?
ダンにもペナルティ与えてよ。
って、抗議しても無駄なんだろうな。
まあ仕方ない。
ここは素直に受け入れておこう。
「……わかりました」
どうせ次の試合、一点も与えるつもりないから問題ないんだけどね。
◇ ◇ ◇
「……あいつ馬鹿なことをやりやがる」
オリヴィアがため息をつく。
彼女は試合を速攻で終わらせ、アランの応援にかけつけていた。
「あら? いいじゃない。仲間のために行動するなんて素敵でしょ?」
オリヴィアの隣では、シャーロットが背筋をピンと伸ばして座っている。
オリヴィアとシャーロットが最前列で新人戦を見ていた。
学園の二大巨頭。
学園内で圧倒的な人気を誇る二人の名は、学園外にも轟いている。
そんな彼女らは当然、人々の視線を集めていた。
しかし、見られることに慣れているオリヴィアとシャーロットは、周りからの視線を気にもとめない。
「試合に乱入とは……下手すると失格だろうが。あいつはとんでもない馬鹿だな」
「そこが彼の凄いところよ」
「だが、もし失格になってたら、学園中から非難されるぞ?」
対抗戦は学園の一番の盛り上がりイベントだ。
生徒、先生問わず、熱狂する。
その分、出場者に向けられる視線も厳しい。
観客は下手な結果では納得せず、ましてや失格で負けたともなれば、非難の嵐にさらされるだろう。
「その程度の声、私がなんとかするわ。そのための生徒会なのだから」
「そのためってお前な……生徒会の権力を乱用するな」
オリヴィアはシャーロットを軽く睨む。
「生徒会の理念は自由よ」
「自由だからってなんでもやっていいわけじゃないだろ」
「安心してちょうだい。こっそり始末すればいいんでしょ?」
「物騒だな、おい」
オリヴィアは頭が痛くなった。
世間では、清廉と言われているシャーロットだが、実は腹黒であることをオリヴィアだけが知っている。
「しかし、わからんな。お前はアランとどんな関係なんだ?」
オリヴィアは、シャーロットがアランに抱く感情を不可解に思っている。
シャーロットとアランの接点は、ほとんどないはずだ。
それなのに、シャーロットはアランのことを昔から知っているかのように話す。
「なぜそのようなことを聞くのかしら?」
「お前が『アラン様のことならなんでもわかるわ』みたいに話すからだ。幼馴染とかか?」
「そんなわけないじゃない。幼馴染はあなたしかいないもの」
「……まあ、そうだよな」
シャーロットとアランがどこかで会っていたのなら、オリヴィアも把握しているはずだ。
「じゃあ、どんな関係だ? まさかアランに恋してるわけでもあるまい」
「ふふ……」
シャーロットは肯定も否定もせず、笑った。
「……恋だとしたら、なおさらわからん。ほとんど話したこともないだろう」
「話ならたくさんしたわ」
「は?」
オリヴィアはまじまじとシャーロットを見る。
シャーロットは軽く微笑んだ。
「冗談よ」
「なんだ、冗談か」
「恋に理由なんていらないわ」
「それをお前が言っても、まったく信用ならん」
オリヴィアはシャーロットのことをよく知っている。
そのため、シャーロットが一般的な少女みたく”恋”をするとは思えなかった。
「あら、ひどい。私も燃えるような恋がしたいわ」
「お前の腹黒を理解してくれる人がいればいいな」
「それなら候補は2つに絞られるわね」
「2つ?」
「あなたとアラン様よ」
オリヴィアはこめかみを押さえた。
なぜ自分とアランの名前が出てくるのか、全く理解できなかったからだ。
オリヴィアはシャーロットの気持ちを理解するのを諦めた。
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