第66話 口論

 新人戦は二勝二敗一分で代表戦となった。


 学園側の代表は俺だ。


「アラン。頑張ってね」


「任せろ。ジャンの仇は必ずとる」


「仇?」


「良いだったよな、あいつ」


「……うん?」


「ジャンの屍を超えていくよ」


「いやちょっと待って。ジャンは亡くなってはいないからね。怪我はしてるけど、命に別条はないから」


 クラリスのツッコミが鋭くなっている気がする。


 さすともだ。


 さすが俺の友達だって意味ね。


「そっか。まだ死んでなかったか」


「勝手に殺さないであげて」


「まあでも、ジャンの分まで戦うってのはホントだけどね」


「うん」


「じゃ、行ってくる」


「いってらっしゃい」


 俺はクラリスに見送られながら、舞台に立った。


 大歓声が俺の鼓膜を震わせる。


 てか、さっきよりも人が増えてね?


 立ち見の人もいるし。


 モニターの画面には俺の顔が映し出されている。


 そんなドアップで映さないで。


 肌のシワが見えちゃうわ。


 まあ俺の肌つるっつるなんだけどね。


 続いて、ダンが舞台に上がってきた。


 学院側からの声援が凄まじい。


 君ってそんなに人気あったの?


 絶対、人気ないと思っていた。


 いかにも人気投票ランキング最下位っぽい雰囲気出してるのに。


 まあでも冷静に考えたら、ダンって強いし、家柄も良いし、そこそこのイケメンだし、人気があってもおかしくない。


 性格がドくずなだけだ。


 それがダメなんだけどね。


「糞兄貴はどうした?」


「医務室で寝てるよ」


「死ねばよかったのになぁ。あんな無能野郎。見てるだけで吐き気がする」


 このゴミの感じ、やっぱり親近感湧くわ。


 まるで昔の俺を見ているようだ。


「兄に向かって死ねは良くないんじゃない?」


「よえーなら死んで当たり前だろうがーが」


「あっそ」


 こいつ、絶対あれだよな。


 噛ませ犬だ。


 ちゃんと噛ませ犬キャラを用意してくれるあたり、さすがゲームの世界だと思う。


 あとついでにハーレム要因も用意してください。


 いまのところハーレムの予兆まったくないんで!


 俺にヒロインをくれー!


 まさかこれ、ジャンとの友情エンドとかじゃないよね?


 いや、それならまだいい。


 一番怖いのはBLエンドだ。


 え、大丈夫だよね?


 俺にはたくさんのヒロインが待っているはず!


 もしかしたら、身近な人がヒロインなのかもしれん。


 それならなおさら、この勝負は頑張らんと。


 というわけで、ちょっと主人公感出しちゃいますか。


「もし弱いやつが死ぬなら、お前死ぬぞ?」


「……あん?」


「だってお前、俺より弱いし。瞬殺してやるよ」


 ピキピキピキピキって音が、ジャンから聞こえてきた気がする。


 実際には、そんな音鳴っていないんだけど。


 でもそう思うくらい、ダンの額から青筋がくっきり浮かび上がった。


 あ~らら。


 別に煽ってるわけじゃないよー?


 事実を言ったまでだしー。


「てめぇはここで殺す。ぜってぇ殺す。ぶっ殺してやる!」


 おいおい、強がんなって。


 そういう言葉使うやつって大抵弱いんだぞ?


 お前は噛ませ犬か?


 あ、噛ませ犬だったね。


 ってことは俺も主人公っぽいセリフ言わんといかんな。


 シナリオ的に。


 こういうときに言うセリフって言ったら、あれしかねーだろ。


「知ってるか? 争いは同じレベルの者同士でしか発生しないんだ」


 決まったな。


 この台詞を解き放つベストなタイミングだったぜ。


 やっぱりアニメの名言って使いたくなりますわ。


「あ?」


「俺とお前では格が違い過ぎて、争いにはならないってことだよ」


 ダンは血管がはち切れんばかりの青筋を浮かべて吠えた。


「ぶっ殺す!」


 これってあれだね。


 弱い犬ほどよく吠える。


 ダンが試合が始まってもないのに、俺に殴りかかってきた。


「そこまでです。試合を始めますよ」


 審判が止めに入った。


 うむ、口論は俺の勝ちのようだ。


 口論はスポーツマンシップに反するだって?


 知るか、ボケ。


 クリーンな試合など、はなっからやるつもりはねーよ。


 それに対戦相手を挑発するのは、一種のパフォーマンスだ。


 舞台に立っている以上、何されても構わねーってことだからな。

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