第64話 横槍

「クソクソクソクソクソクソクソッ! ジャンの分際でぇ!」


 ダンは苛立ちを募らせていた。


 直後、ジャンの炎弾ファイア・ブレッドがダンの肩に被弾する。


「いッ……!?」


「ヒット!」


 スコアが2-2になった。


 ジャンの戦い方は点数を稼ぐための戦い方だ。


 ダメージ云々ではなく、ヒットやクリティカルをいかに出すかに重点を置いている。


「小賢しいなぁ! 才能がねぇくせによぉ!」


 ダンは弱者の戦い方が気に食わなかった。


 ネズミのようにちょこまかと動き回り、痛くもない攻撃で点数だけを稼ぐジャンを憎たらしく思った。


「ああぁぁぁ! イラつくなぁ、おいィィ!」


 ダンが魔力の出力を上げる。


「――――」


 その途端、ダンから膨大な魔力が溢れ出した。


 ダンとジャンは双子であるはずだが、才能には驚くほどの差があった。


 ジャンの努力を、ダンは軽々と超えていく。


 ダンは今まで一度も努力というものをしたことがなかった。


 する必要がなかったからだ。


 何でもすぐに習得できてしまう。


 天才だからだ。


 天才には努力など必要ない。


 凡人がいくら努力をしようが、ダンの足元にも及ばない。


 それが天才が天才である所以だ。


 だからこそ、この戦いも圧勝でなければならなかった。


――クソッタレがぁ! 俺様にこんな戦い似合わねぇんだよッ!


 ダンが感情を爆発させながら、詠唱を唱えた。


「赤龍の血飛沫が大地を染め上げる! ――爆発エクスプロージョン!」


 次の瞬間、ジャンの眼前の空間が不自然に歪んだ。


「ッ……!?」


 ジャンはとっさにその場を離れようとする。


 しかし、間に合わないと気づく。


 直後。


――どゴォォォぉぉん!


 爆音が響いた。


「ぐっ……があっ……!?」


 ジャンは壁際まで吹き飛ばされ、仰向けになって倒れた。


 上級魔法、爆発エクスプロージョン


 その威力は甚大であった。


「クリティカル!」


 スコアが2-4になる。


 しかし直後、


「ヒット!」


 スコアが3-4になった。


 ジャンは吹き飛ばされる直前に火球ファイア・ボールを放っていた。


 火球ファイア・ボールによって、爆発エクスプロージョンの威力を弱め、なおかつダンに当てる。


 アランから「とっさの判断が遅い」と言われたジャンは、それを克服するために訓練を重ねてきた。


 その成果を出すことができた。


「……腕を折らせて足を断つ」


 ジャンは上半身を起こしながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


 それを言うなら「肉を切らせて骨を断つだろ」とアランなら突っ込んでいただろう。


 それはさておき。


 これでスコアは3-4になった。


 圧倒的実力差がありながらも、ジャンは善戦をしていた。


 しかし、ジャンはすでに満身創痍であり、誰もが見ても不利な状況にあった。


 立て続けに、ダンが魔法を放つ。


大火炎ビッグ・ファイア


 火炎がジャンに迫り来る。


 もはや立ち上がることもできないジャンは、当然避けることもできない。


 上級魔法を放った直後に、中級魔法を放つダン。


 二人の間には覆せないほど大きな隔たりがあった。


 そして、ジャンは思ってしまった。


――ああ、やっぱり無理だったか。


 勝てないものは勝てない。


 ここがジャンの限界であった。


 だがそれでも一矢報いよう、とジャンは考えた。


炎弾ファイア・ブレッド


 ジャンは防御を捨て去り、ダンに向けて魔法を放つ。


「がああァァァ!?」


「ぐッ……!?」


 ジャンが火炎に包まれた。


 同時に、ダンが炎弾を受ける。


「両者クリティカル!」


 ジャンにクリティカルが付けられたのは、カウンターが見事に決まったからだ。


 スコアが5-6になる。


 点数だけ見れば接戦だが、ダンはほとんどダメージを受けていない。


 一方、ジャンは仰向けで倒れ、全身やけどを負っている。


「糞がァァァ! てめぇ、よくもやりやがったなァァ!」


 格下の相手に5点も取られ、接戦になっている現状に、ダンは怒りを覚えていた。


「ぶっ殺してやるッ!」


 ダンはジャンに殺意を向ける。


「……」


 しかし、ジャンはすでに気を失っていた。


 審判によってカウントダウンが始まる。


 だが、


「オイオイオイオイオイ! まだこんなもんじゃねぇーだろ!?」


 ダンは怒りのまま詠唱を唱え始めた。


「赤龍の血飛沫が大地を染め上げる!」


「やめなさい!」


 審判がカウントダウンを止めて、ダンを注意する。


 しかし、ダンは制止を聞かず魔法を放った。


爆発エクスプロージョン!」


 ジャンの顔先の空間が歪む。


 そして、爆発――。


魔力破壊ディストラクション


 ――しなかった。


「おいおいおい! 試合中に横槍かぁ? 反則だろーがよぉ!」


 ダンは学園側の入場ゲートを睨んだ。


 そこではアランが、ダンを睨みつけるようにして立っていた。

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