第52話 不愉快

 ジャンは不快な思いをしながら、パーティー会場を出た。


 その理由は双子の弟にある。


 ジャンはダンの小馬鹿にしてくるような視線に耐えかね、パーティー会場を抜け出してきた。


 ジャンとダンは顔が似ているが、性格はまったく違う。


 ダンは傲慢な性格であり、他人を平気で見下すようなやつだ。


 そんな弟に対して、ジャンは苦手意識を持っていた。


 しかし苦手意識の根本的な原因は、自分自身のコンプレックスだ。


 ダンは天才であり、対してジャンは凡才であった。


 弟に才能を奪われた兄と揶揄されたこともある。


 ジャンは才能のあるダンを疎ましく思っていた。


「俺は強くなれたのか?」


 ミーアやアランと特訓をしたジャンは、魔力操作が格段にうまくなっていた。


 扱える魔力量も以前よりも遥かに多い。


 アランやミーアと比べたら、圧倒的に負けているが、それでも新人戦で十分戦えるレベルには持ってきた。


 レベルの高い人達と特訓できたことで、ジャンは確実に成長していた。


 ジャンはぐっと拳を握る。


「大丈夫。やれることはやった」


 ジャンが自分に言い聞かせるように、そう言ったときだ。


「何が大丈夫なんだぁ?」


 ジャンは顔をあげ、振り向く。


 そこには、ダンがニヤニヤした顔で立っていた。


「ダンか。何のようだ?」


「てめぇがパーティーつまらなそうにしてるから、構ってやろうってんだ」


「それなら心配いらねぇよ」


 ジャンが突き放すように応える。


「はんっ。相変わらず湿気た面してんなぁ。俺様と同じ顔ってのが癪に障る」


「わざわざを嫌味を言いに来たのか?」


 ダンがずずっとジャンに近づく。


「てめぇ、新人戦に出るんだろ?」


「だったらどうした?」


「無様な姿は晒すなよ? 俺様から逃げた臆病者めが」


「臆病者か……」


「てめぇがエリクソン家の長男ってだけで、腸が煮えくり返りそうなんだ。この上泥でも塗られたら、胸糞悪いったらありゃしねぇ」


 ジャンが眉間にシワを寄せる。


「それはお互い様だ」


「お互い様だぁ? てめぇのそれと俺様のこれは全然チゲぇよ。先に生まれたってだけで威張るてめぇに俺様の気持ちがわかるか?」


「じゃあお前はわかるのか? 才能のない人も気持ちを」


「は? 馬鹿かてめぇ。んなのわかるわけねぇだろ」


 ダンが小馬鹿にしたように笑う。


「才能がねぇなら何もするな。出しゃばるな、無能が」


「……っ」


 ジャンは苛立ちを募らせる。


「ただ一ついい方法があるぜ?」


「試合に参加するなと言うつもりか?」


「んなつまんねぇーコト言わねぇよ」


「じゃあなんだ?」


「てめぇが大将で出て俺様と勝負する。そこでボコられれば、てめぇが無能でも問題ねぇよ。俺様がスゲェんだからな。これならエリクソン家にも傷がつかねぇ」


 ダンが優秀なのは認める。


 新人戦で大将を任されるくらいだ。


 だが、ジャンは知っていた。


 ダン以上の才能を。


「相変わらずだな。お前は何も変わっていない」


「変わる? んな必要ねぇよ。俺様はすでに完成されてる」


「お前はまだ知らんようだが、世界は広いぞ。林の中のゴブリン、大森林を知らずということだ。無知なお前は、この大会で本物を知ることになるだろう」


「本物だと?」


「上には上がいるということだ。お前じゃあ一生かかっても勝てない相手がな」


 ジャンは知っている。


 自分ではどうしようもないほどの、眩い才能を持つ者たちを。


 この二週間で強く思い知らされた。


 どうあがいてもジャンはアランに勝てない。


 才能が違いすぎる。


 だからこそ、ジャンは思った。


「可哀想なやつだよ。その程度の実力で完成されてるとほざくなんて」


 ダンもたしかに強い。


 だがそれは普通・・・の強さだ。


 天才、神童と呼ばれてきたダンですら、アランと比べると凡人にしか見えない。


「ああ、決めたぞ。てめぇ、いまここでぶっ殺してやるよ」


 ダンが額に青筋を浮かべる。


「こんなところで喧嘩したら、大会に出場できんぞ?」


「んなもん知るかよ」


 次の瞬間、ダンがジャンに殴りかかった。


 しかし――。


「――やめろ」


 ダンの動きが止まる。


 ジャンが目を見開き、呟いた。


「なんでお前が……」


 茶髪の少年がダンの手を握っている。


「俺の友達に手ぇ出したら、ぶっ飛ばすぞ?」


 アランがダンを睨みつけていた。

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