第53話 大将、任せるわ

 ジャンが心配で追いかけてきたら、なんか弟くんと喧嘩してた。


 ダンがジャンに殴りかかっていたから、身体強化使って割り込んでみた。


「俺の友達に手ぇ出したら、ぶっ飛ばすぞ?」


 最近、ジャンから主人公感が出てたけど、やっぱり主人公は俺だな。


 ヒーローはヒロインを救ってなんぼでしょ。


 ってことはこの状況、ジャンがヒロインってこと?


 え、ジャンって実は女の子だった?


 いや、そんなわけないか。


 もしかして、BL世界のゲームだった!?


 うん、それもないな。


 学園に美少女が多い時点で、BLではないと思う。


 たぶん……きっと。


「てめぇはさっきの……」


「その節はどうも」


「アラン・フォードと言ったか?」


 え、俺自己紹介したっけ?


 してないよな?


 なんで俺のこと知ってるの?


「学園のやつらが噂してやがった。一年で最強はてめぇだとよぉ」


「それは嬉しい噂だね」


「噂など当てにならんがな」


「だったらここで証明してやろうか?」


「んな必要ねぇよ」


 ダンが無理やり俺の手を振りほどいてきた。


 むむ……。


 身体強化使って、強く握ってたはずなんだけど、簡単に解かれた。


 貴様は……なかなかやりおるのぉ。


「この続きは新人戦でやってやるよ」


 ダンはそういって去っていく。


 喧嘩になると思ってたけど、意外とあっけなく引かれた。


 俺の強さに恐れをなしたか?


 ってわけではないだろうな。


 まあでも、こんなところでやり合わなくて良かった。


 さすがに他校の生徒とやりあったら問題になる。


 新人戦の出場停止もありうる。


 学園を代表してる身として、出場停止は避けたい。


 オリヴィアあたりにこっぴどく怒られそうだし。


 ジャンがじーっと俺を見てきた。


 え、なに?


 まさか俺に惚れちゃった?


 やめて、俺はストレートだから。


 BLとか興味ないんです、ごめんなさい。


「どうしてお前がいる?」


「お前が思い詰めた顔して、会場出てったからだよ。心配になるだろうが」


 俺とクラリスが仲良くしてたから、ジャンが拗ねたと思った。


 なんだよ、俺の杞憂だったのかよ。


「そうか……すまん」


「にしてもお前、弟と仲が悪いんだな」


 まあ俺も人のことは言えんけど。


 テトラとは仲良くなったけど、兄たちとは全然仲良くできていない。


 まだイアンとは仲良くできる気がするんだけどな。


 今度どっかで話してみよっかな。


「嫌なところを見せてしまった」


「俺が勝手に追いかけてきただけだ。それよりも大丈夫か?」


「なにがだ?」


 なにがってお前……。


「弟との関係についてだよ」


「大丈夫……とは言い難いな。今に始まったことではないが」


「かなり難あるもんな。お前の弟」


 まるで昔の俺を見ているようだった。


 まさかジャンが俺を嫌っていたのって、弟のダンに似てるから?


 いや、普通に俺の性格が悪かったせいか……。


「問題は俺にもある。俺にもう少しが才能あれば、ダンもあそこまで捻くれなかったと思う」


「それは違うだろ。てか、才能なんて努力だけじゃあどうしようもない部分だし」


 むしろ普通は、弟のほうが才能あったら兄の性格が歪むはずだ。


 それも似た顔の弟が自分よりも才能があるなんて、かなりのコンプレックスになると思う。


 え、じゃあイアンとかコンプレックスの塊じゃん。


 俺みたいな才能人を弟に持ってるんだから。


 いや、むしろ逆か。


 イアンのようなデキる兄がいたから、過去のアランはあんなにも性格が歪んでしまったんだろうな。


「才能か……それをアランに言われるとキツイな」


 ジャンが苦笑いをする。


「いや別に嫌味を言いたいわけじゃなくて……」


「わかってる。事実だからキツイってことだ」


「……うん。なんかごめん」


「別に気にしてない。それよりもアランに相談がある」


「また相談?」


 なんだろう?


 てか最近、ジャンからの相談が多いな。


 兄弟関係についての相談なら、答えられる自信ないぞ。


 むしろ俺が相談したいくらいだし。


「俺に大将を任せてくれないか?」


 あ、そっちか。


「弟と戦うためか?」


 ジャンが頷く。


「俺はダンと戦って勝ちたい」


 なるほど。


 ジャンは弟に勝つために、特訓をしてきたわけか。


 てっきりクラリスにかっこいいところ見せるためだと思っていた。


 いやジャンのことなら、それももちろん理由にあるんだろうけど。


 こいつスケベで、ムッツリで女好きだし。


「わかった。大将はお前に任せる」


「ありがとう」


「ただし、副将で勝負が決まっても文句は言うなよ?」


 副将の時点で勝敗が決まってしまった場合、大将戦は行われない。


「美味しいところを残しとく気はないのか?」


「無理だな。勝負に負けるとオリヴィアに怒られるし。あの人、マジで怖いから」


「知ってるよ。俺もこってり絞られたし」


「また絞られる気はない?」


「まだ風紀委員に戻るつもりはない」


 まだか……。


 ってことはいつか戻ってくるつもりなんだよな?


 期待してるからな。


「あ、そうだジャン。脈がないかもしれんけど……がんばれよ」


「え? あ、うん……なんのこと?」


 クラリスからの脈はなさそうだけど、ここで活躍すればワンチャンあるかもしれん。


 頑張れ、ジャン!


 応援してるからな!


 お前のムッツリパワーを見せてやれ!

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