第51話 いい人って脈なしってことだよね?

 パーティーが始まった。


 飯がテーブルの上にいっぱい置いてある。


 さすがは名門校のパーティーだ。


 貴族の子息令嬢がたくさん通うこともあって、豪華なものが出てくる。


 うまそうだ。


 会場では紺と赤のローブが入り混じっている。


 紺色が学園の生徒で、赤色が学院の生徒だ。


 学園長がなにやら挨拶をしていたが、あんまり耳に入ってこない。


 前世のときも思ってたけど、なんで校長とかのスピーチって長いの?


 一分で話せよ。


 会社の研修で一分スピーチやらされたの思い出すな。


 うちの学園長にも一分スピーチをお願いしたい。


 飯冷めちゃうだろ?


 今後の魔法の発展とか、そんなことどうでもいいんだよ。


 いや大事なことだけどさ。


 俺は腹が減ってるんじゃ!


 ってな感じで待ってたら、ようやく話が終わった。


「それでは乾杯!」


 学園長の乾杯の音頭おんどとともにパーティーが始まった。


 腹をある程度満たしたあと、俺は話し相手を探す。


 壁の花ウォールフラワーとか嫌だからな。


 オリヴィアとシャーロットはすぐに見つけることができた。


 二人とも人に囲まれているから、見つかやすかった。


 ただあの中に割って入ろうとは思わない。


 辺りを軽く見回していると、クラリスを発見した。


 ちょうどクラリスは一人でいるようだった。


 珍しい。


 俺はクラリスに話しかけにいく。


「おつかれ」


「あ、アラン。お疲れ様」


「どう? 新人戦はうまく戦えそう?」


「う~ん、わかんないかな。一応、シャーロット様にも見てもらったんだけど。自信はない」


 クラリスって成績は優秀なんだけど、実戦向けの魔法は得意じゃないらしい。


 魔法はなにも戦うことだけが目的じゃないし。


 とはいっても戦闘用の魔法が一番開発されてるんだけどね。


 ちなみに生徒会は風紀委員と違って、全員が対抗戦の候補者に選ばれたわけじゃない。


 てか、風紀委員が異常なだけだ。


 オリヴィア、ミーア、テトラ、俺、その他の風紀委員メンバー。


 これに加えて、以前はジャンもいた。


 かなりヤバいメンツが揃っており、全員が候補者に選ばれている。


 さすが実力主義を謳うだけはある。


 逆に生徒会は実力だけで選ばれるわけじゃないから、別に戦闘力が高くなくても良いらしい。


 成績や性格、家柄など、総合的に判断される。


 そういう意味では、クラリスはやっぱり生徒会に合っている。


 風紀委員ってキャラではない。


「そっちはどう? 準備万端?」


「そこそこかな」


「じゃあ私が負けてもなんとかしてね?」


「任せろ」


「頼もしいね」


 まあね。


 そのために二週間も頑張ってきたわけだし。


「ジャンがなんとかしてくれるはずだ」


「え、ジャンが? アランじゃなくて?」


「あいつ最近頑張ってたからな」


「いや、うん……そうかもしれないけど」


 クラリスがどこか納得しない顔をする。


「そこは俺に任せとけ、とか言うところじゃない?」


 違うんだ、クラリス。


 俺はジャンの株をあげようと思っているんだ。


 だってジャン、クラリスに惚れてる感じがあるし。


 恋路を応援したいじゃないか。


「ジャンに任せとけ」


「すごい他人ひと任せね……」


 クラリスが呆れたように笑う。


 俺は少年漫画みたいにカッコいいセリフをいうキャラじゃないんだ。


「まあもしものときは俺がなんとかするよ。大将だし」


 大将戦までもつれ込んだら、もちろん勝つつもりでいる。


 下手に手を抜いて負けたら、学園のみんなに申し訳ない。


 少ない候補者に選ばれたんだから、全力で勝ちにいく。


「やっぱり頼もしいね」


「今回はジャンも頼もしいぞ」


「あ、うん……。そういえばアランとジャンって最近仲良いよね? なんかあったの?」


「友情、努力、勝利だ」


「どういう意味?」


「少年漫画の三大原則」


「いやもっと意味わかんないから。まあでも二人が仲良くしてくれて良かったよ」


「クラリスはジャンのことどう思ってる?」


「え、私? なんで?」


「いや、なんとなく」


 ジャンが脈アリかどうか確かめたい。


「ちょっと強情なところあるけど、いい人だと思うよ」


 いい人……?


 それって、かなり微妙な判定じゃね?


 いい人ってのはどうでもいい人の略称だと聞いたことあるぞ。


 どんまい、ジャン。


 今のところ、望みは薄いようだ。


 ちょっと気になるのが、クラリスが俺をどう思っているかだ。


 まあ、たぶん俺もいい人なんだろうけど。


「ちなみに俺は?」


「……」


 え、なんで無言?


 この間はなに?


 もしかして答えたくないほど嫌いとか?


 俺は親友だと思っていたのにー!?


 と思ったら、クラリスが口を開いた。


「……ただの友達だよ」


 あ、ただの友達なんか……。


「まあ、そうだよな」


 ただの友達といい人ってどっちのほうが上なんだ?


 五十歩百歩か。


 喜べ、ジャン。


 俺もいい人枠らしいぞ。


 って、そういえばジャンはどこだ?


 あいつもパーティーに出てるはずなんだけど……。


「あ、いた」


 ジャンが不満げな表情でパーティー会場を出ていくところだった。


 あいつ、どうしたんだ?


 俺がクラリスと仲良くしてるから拗ねちゃったのか?


「ちょっとジャンのところまで行ってくるわ」


「うん。いってらっしゃい」


 俺はクラリスと別れてジャンのあとを追いかけた。

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